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探検家、医師、武蔵野美術大学教授 関野吉晴
サルはヒトを作るうえでの失敗作だという人がいる。しかし、これは私たちが現在生きているのは、先人たちの果断な努力の成果のおかげだということを理解していないから起こる発言だ。
私たちにとって、なくてはならないもの、パソコン、スマフォ、電気、プリンター、電話は突然生まれたものではない。先人たちがコツコツと積み上げてきたものの成果としてある。
私たちは正確にはサルから進化したわけではない。サルや類人猿の共通の先祖から分かれて生まれた。その共通の先祖の時に獲得した構造、機能のおかげで生き延びてきたことを意識している人は少ない。
恐竜が生きている時代、虫を食べるジネスミのような存在だった私たちの祖先は恐竜絶滅後に熱帯の森に入った。そこで拇指対向性という手のかたちを手に入れた。親指と他の 4 本の指が向き合っている。樹上空間では木から木に渡っていく、その時親指が他の指と向き合っていた方が木を握りやすいのだ。指紋とそこにある汗腺が滑り止めとして機能した。
また、横にあった目を前にもってきた。視野は狭くなったが、立体視ができるようになり、樹上で異動するには有利だ。フルーツを食べるようになり、鳥の専売特許だった色覚を手に入れた。サルやヒト以外の哺乳類は皆モノクロに近い世界なのだ。肩の関節も球状になり、腕が 360 度回転できるようになった。枝から枝に渡り歩くのに欠くことのできない肩関節の構造だ。
サルの時代にこれらの進化がなかったら立体視もできないし、モノクロの世界に生きることになる。ものも握れず、細かい作業ができなかったはずだ。
私はヒトだけでなくサルたちの先祖にも感謝しながら生きている。
【すなどけい】公明新聞 2017.10.20
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