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ラジオと現代アート
作家 一色 さゆり
小さい頃からラジオっ子である。
初の投稿はFAXで小学三四年だった。
当時友だちのように好きだった。地元のFM局のDJが自分の投稿を読みあげてくれたとき、ビギナーズラックとはいえ鼻高々だった。後日ラジオ局から郵送された記念品のステッカーは、両親から譲り受けた古いラジカセに、勲章のように貼りつけた。
ラジオのいい所はたくさんある。番組とリスナーの距離が近いところ。知らない音楽に触れられるところ。パソコンやスマホで疲れがちな目を休ませながら楽しめるところ――。
たとえば、AM局に多いニュース番組では、専門家が深堀した情報を多く入手できる。コンビニで手軽に買い物ができるのがネットやテレビといった媒体だとすれば、ラジオは卸売市場でこだわりの食材を手に入れるような味わいがある。
ラジオ育ちとして多くのことをラジオから学んできた私だが、ラジオの一番好きな点はメッセージを交換し合っているという感覚だ。
先日一週間ほど入院したとき、久しぶりにラジオに投稿した。深夜、不安な時間を持て余し、いつも聞いている番組にメールを送ったのだ。読みあげられなくてもかまわない。そんな控えめこそがいい。SNSで簡単につながれる時代だからこそ、ラジオ投稿は貴重なコミュニケーションの場だと実感した。
この「メッセージを送る」という行為を現代アート化したのが、現代美術家の河原温氏ではないだろうか。私のデビュー作『神の値段』に登場する主要人物のモデルでもある。河原氏の「Ⅰ am still alive 」シリーズは「私はまだ生きている」と記した電報を、彼の滞在する様々な場所から毎日友人に書き送るという作品だ。
ラジオ投稿と同じく、人になにかを伝えるという行為の、控えめなぬくもりを感じる。
2022.5.18
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