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注目されるクルーズ船
大阪公立大学客員教授 池田 良穂
ヨーロッパが先頭走る
日本の造船は世界でもトップレベルにあります。しかし、比較的安い船、例えば、中・小型の貨物船やタンカーなどに関しては、かんこく。中国に追い抜かれてしまいました。
今や造船の生産量(トン数の合計トン数)は、中国、韓国。日本の順です。ただ、売上高に関しては、横並びの状態。つまり、日本は量は少ないけれども単価の高い船をつくっているということになります。
ヨーロッパとの比較をしてみると、日本は、 50 年前にヨーロッパの造船所の生産量を抜きました。現在、ヨーロッパの生産量は日本の5分の1程度。しかし、売上高は日本よりも単価の高い〝超高級船〟を造っているのです。
代表的なものが1隻100億円もする巨大クルーズ客船です。世界最大の「ワンダー・オブ・ザ・シーズ」など有名な豪華客船を造っているのは、ほとんどすべてがヨーロッパの造船所なのです。
そうして日本で造らないのでしょうか。貨物船と客船では、求められる性能が異なります。
貨物船であれば、エンジンなどの振動や音が大きくても問題ないでしょう。しかし、クルーズ客船の場合は、余計な振動や音は厳禁。エンジンやスクリューなどから発生する振動を抑えるには、高い技術とノウハウが必要です。また、航海機器の性能も違います。安全性を高めるために、電子機器の性能も高くなければいけません。
確かに日本の船舶は技術力も高くて戦ら威勢があり、高度なエコ性能を有しています。しかし、客船についてはヨーロッパに負けているのです。
そんなクルーズ船や最新の船舶にも使われている技術を紹介し、船舶の面白さについて知ってもらおうと『最新図解 船の科学』(講談社ブルーバックス)を出しました。造船について多くの若者にも興味を持ってもらえたら幸いです。
最新技術が詰まっている
音や振動を抑え、安全性高める
産業をつくったアメリカ
日本では話題になりにくいクルーズ船ですが、世界的にはレジャーの一つとして注目されています。現行のクルーズ旅行は、長くても1週間程度、短いものだと3日程度のものもあります。しかも、格安の客室なら1泊1万円台も。それでも、船内の設備は使い放題、食事つきですから、通常のパック旅行より得かもしれません。
このようなクルーズ旅行は1960年代にはじまりました。当時は旅客を飛行機にとられ、〝客船暗黒の時代〟と呼ばれるほど。そんな時に起死回生のアイデアとしてアメリカの船会社が考えたのが、今はやりのクルーズ客船だったのです。
移動のための客船ではなく、旅自体をレジャーとして楽しむ——そんな考えからカリブ海クルーズ船が生まれました。マイアミを出発してカリブ海を周旋して帰ってくるという航程です。
暇と金を持て余したような富裕層をターゲットにするのではなく、大衆がターゲット。つまり、年収300万円程度でも参加できるよう、1泊1万円程度に設定。なおかつ現役で働いている人たちがバカンスで利用できるように、1週間以内の期間にしました。
これが大ヒット。さらに航空業界の規制緩和によって、各地から LCC (格安航空会社)を使ってマイアミに飛び、そこからクルーズ船に乗って、1週間後にまた LCC で、地元に帰るというパック旅行が大人気となりました。 LCC 側としても、地方から連れて行った便を使って帰りの客を乗せていけるため無駄がなくなり、 Win - Win (ウィンウィン)の関係というわけです。
料金を下げるために重要なのが、船を大きくすることでした。船長や運航要因の給料は変わらないため、載せられる乗客が多ければ、それだけコストを下げることが可能なのです。たとえば 400 人乗りで運行するより 4000 人乗りの船を運行した方が、コストは 10 分の 1 で済むわけです。しかも、食材なども大量に一括購入でき、安く仕入れられます。
当時、 3 席から始めたカーニバルクールズは、会社がどんどん大きくなり、現在ではグループ全体で 110 隻ものクルーズ船を所有するほど。ライバルのロイヤル・カビリアンの使用戦は、当初は2万㌧だったものが、6000人乗り23万トンの大型クルーズ船を6隻も使うほどの人気になっています。こうした最新技術を詰め込んだ大型クルーズ船がヨーロッパで造られているのです。
日本でも近年、 JR 九州が運航している「ななつ星」のように、移動手段としてではなく、移動そのものを楽しむ旅が増えてきています。海に囲まれた日本でも、旅そのものを楽しむクルーズ文化が根付き、自前の大型区 r -図船が就航することを願っています。=談
いけだ・よしほ 1950 年、北海道生まれ。大阪府立大学名誉教授。大阪公立大学客員教授。日本クルーズ&フェリー学会事務局長。専門は船舶工学、海洋工学、クルーズ船等。工学博士。『船の科学』『クルーズビジネス』『海運と港湾』など、船に関する著書多数。
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