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自然を支える共生
埼玉大学名誉教授 末光 隆史
環境で逃げだすことも〇
自然界には互いに助け合う共生関係がよく見られます。あるとき、「共生とは利他的行動なのでしょうか」という質問を受けました。共生関係の互いに助け合う姿が、利他的行動と受け止められているようです。
でも、生物はそもそも生き残るために活動しているもの。それは利己的行動にほかなりません。では、利他的に見える行動が生まれたのは、どうしてなのでしょう。そんな疑問を解決したいと、共著『「利他」の生物学』(中公新書)を出しました。
本書では、さまざまな生き物たちの共生関係をひもとき、利己的行動利他的行動について考えます。興味のある方は一読いただければと思います。
きれいな海に生息するサンゴ。そこには褐虫藻が共生しています。褐虫藻は光合成によってブドウ糖を作りサンゴに供給します。一方のサンゴは、褐虫藻に必要な栄養塩やアンモニア、二酸化炭素などを褐虫藻に供給しています。また、サンゴの中にいると、褐虫藻が外敵からの捕食を防げ、強烈な紫外線からも守られます。
まさにウィンウィンの共生関係にあるのですが、水温が上がると褐虫藻はサンゴから逃げ出してしまいます。サンゴの白骨化です。共生関係といっても弱いつながりなのです。
細胞内に取り込み利用〇
一番多く、身近な共生関係は何だと思いますか。それは私たちの細胞内にあるミトコンドリア。酸素を消費してエネルギーをつくり出す大切な機関です。以前は、リソソームやゴルジタイなどと同じく、細胞内で作られた一つの期間だと考えられていました。しかし、独自の DNA の存在が確認され、他の細胞内機関とは異なることが分かったのです。
現在では、原始的な嫌気性細胞に、酸素を利用できる好気性細菌が取り込まれた、細胞内共生であると考えられています。
最初の生物が出現した頃には、地球の大気には酸素はありませんでした。この時代の主流派嫌気性細菌です。しかし、光合成を行うシナノバクテリアが出現し、急激に酸素濃度が高まっていったのです。嫌気性細菌は酸素大気中では生きていくことができません。
そこで、酸素を利用できる好気性細菌が出現。他の最近は、好気性細菌を取り込んで、酸素大気中でも生き延びられるようになったのです。これがミトコンドリアです。さらに、シアノバクテリアが取り込まれ、植物の葉緑体へと変化しました。
人間の感覚からすると、細胞内に取り込んだものが共生関係にあるというのは、不思議な感じがするかもしれません。しかし、単細胞生物にとって、共生し利用するためには、自分の体内に取り込むのが手っ取り早いわけです。
利己から利他的に変化
互いの得になる関係が残る
寄生状態も進化の過程〇
共生関係を見ていくと、最初は利己的な目的から始まったとしても、進化の過程で助け合うように変化するケースが多いことに気付きます。
一方的に利用されている利己的な関係というのは、いわゆる規制にあたります。そうなると、もう一方は害を受けないように、どこかで対抗策をとります。だから、最初は一方的でも、最終的にはウィンウィンの関係になったものが生き残りやすいのです。
面白い共生の例として、ミドリゾウリムシと共生クロレラがあります。ミドリゾウリムシは捕食するだけでなく、葉緑体をもっていて光合成します。子の葉緑体が共生関係にある共生クロレラ(さまざまな種類の単細胞緑藻類)です。
共生クロレラは、エサを消化する食泡由来の生体膜に包まれており、糖類を放出しない共生クロレラは、消化されてしまいます。つまり、ミドリゾウリムシの役に立つかどうかで、共生できるかどうか決まるのです。
また、アブラムシの体内には、ブフネラと呼ばれる細菌が共生しています。アブラムシは植物の液を吸って生活していますが、夜にはアブラムシに必要なアミノ酸がわずかしか含まれていないため、不足しているアミノ酸をブフネラに生産してもらっているのです。その一方で、アブラムシは、ブフネラに必要なアミノ酸を提供しています。
このブフネラ、元々は大腸菌のような病原菌で、一方的な規制関係だったものが、共生関係に移行したのではないかと考えられています。
そうなると、今は一方的な規制関係であっても、将来は変化するかもしれません。
例えばピロリ菌。日本にいる種類は、胃がんを誘発する悪玉菌のイメージしかありませんが、海外のピロリ菌は、胃酸の逆流抑制、肥満防止、子どもの喘息やアレルギーの発症を抑えるなどの働きもあるそうです。
今はただの病原菌にすぎないピロリ菌も、病気を引き起こさないタイプに変化して、人間と共生関係になるかもしれないのです。=談
すえみつ・たかし 1948 年、大阪府生まれ。埼玉大学教授を経て、現在名誉教授。著書に『動物の事典』『生物の事典』(いずれも朝倉書店)がある。
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