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2007.12.19
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カテゴリ: ヨーロッパ映画
SUFFLOSEN
Hilde Heier
97min
(DISCASにてレンタル)

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意図したわけではなく多分に偶然の結果なんですが、 『不眠症 オリジナル版 インソムニア』 ノルウェー、 『過去のない男』 フィンランド、 『六月の夜』 スウェーデンと北欧の映画を良く見ている昨今で、これもノルウェーの作品です。偶然と言えばこの映画を見た自分の状況もまた偶然にもこの作品に適していました。実は前の日にDISCASから2枚届いて、夕方ちょっと時間があったのでこの映画を見ようとしたらDVDプレーヤーがディスクを認識してくれない。後で盤面拭いてみて駄目ならパソコンで見ようと思い、時間が少なかったのでやむなくもう1枚の映画を先に見ました(そのうちレビュー書きますが、全く違ったタイプの映画)。そして翌日(今日水曜)日中久しぶりに時間にゆとりがあったのでゆっくり朝寝をして起きて、コーヒー入れて朝食を取り、ディスクを水洗いしたら今度はプレーヤーが認識してくれたので、ゆったりとした気分でこの映画を見ました。なぜ偶然かと言えば、この作品実にたわいのない、あるいはやや批判的な意味も込めて素朴な映画で、ゆとりのある気分に合っていたんですね。前日の夕方に忙しく見ていたら、これから書くレビューももっと辛辣なものになっていたかも知れません。

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原題は『SUFFLOSEN』。英語題が THE PROMPTER SUFFLOSEN は女性プロンプターだとわかるけれど、英語題の THE PROMPTER だとどちらかわかりません。日本語でも普通はそうですね。スチュワーデスとか看護婦は女性だとわかりますが。日本ではプロンプター自体が何のことやら馴染みがないから『はじまりはオペラ』ですか。まあまあの訳題としておきましょう。ちなみに日本語字幕は 石田泰子 とクレジットされていましたが、ノルウェー語の脚韻の問題などなかなか丁寧な訳だったと感じました。たぶんオスロだと思いますがそこのオペラハウスでこのプロンプターをする女性シヴ(ヘーゲ・シュイエン)が主人公です。

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映画製作当時シヴを演じたヘーゲ・シュイエンは42才だから、この主人公シヴの年令は三十代後半と言ったところでしょうか。国立オペラ劇場のプロンプターをしてるのだから、アーティストとまでは言えないまでも芸術創造に関わる仕事をしていて、キャリアウーマンとしては立派なもの。これまでも何度か恋はしたんでしょうが、運命の人と巡り合うことはなくまだ独身。でもそれには彼女自身の性格もなんらかの関係があった感じ。彼女は溌溂としているし、可愛い感じなんですが、その可愛いがやや問題。音楽好き、オペラ好きなのは当然だとして、どこか夢見がちで、大人になれずに少女のようにロマンティックでセンチメンタルな自分だけの世界、そう殻に閉じこもっているとでも言ったらよいでしょうか。新任のチューバ奏者は彼女の様子を見て「 プロンプターの穴も小さければ、車(オースティン・ミニ)も、持っている荷物の袋も小さい 」って言うけれど、プロンプターの穴も車も彼女が小さい殻に閉じこもっていることの象徴なんですね。でもそんな彼女も今フレッドという医師と婚約中。フレッドは2人子連れのバツイチだけれど、美男だし、優しそうだし、シヴを愛しているようだし。二人はラブラブな様子。シヴは仕事でちょうどヴェルディの歌劇『アイーダ』の練習中なんですが、そこで新任のチューバ奏者マルカスと出会う・・・。

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この映画、ほとんど事前情報なしで見ました。DISCASの予約リストに入れたときは紹介文を読んだかも知れないけれどそんなのは忘れていた。でもここまで見ただけで、ほとんどもう映画のその後の流れは読めてしまう。だからストーリーとしては、それがどのように描かれるかの細部を見るだけで、消化試合のようなものです。そして更に見ていくうちに細かい部分のその後の流れも予測できてしまう。そういう意味で 本当に素朴でプリミティブな 映画。映画の作り方もシヴとフレッドが反目し合っている場面では、ベッドの両横に二人が背中を向け合って座っていて、それをベッドの足元の方から左右対称の構図で捉えた客観ショットなど、あまりにもお手本通りと言うか教科書的。 (ちょっとネタバレで書いてしまえば) 殻の象徴である小さな車の屋根の上に、これも象徴的なアイテムである『アイーダ』の総譜を置いて、車を残して彼女は新しい自分の人生を歩んでゆくというラスト。実に素朴な作りです。

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そんな映画で、わかり切ったことを、しかも深い心理などを描くというのでもないのだけれど、でもこの映画がそれなりに魅力的だったのは、歌劇『アイーダ』の初日までの稽古の様子と平行して描かれていた構成と、シヴを演じたヘーゲ・シュイエンの魅力だと思います。チューバ奏者マルカスを演じたフィリップ・サンデーンも良かった。結婚してみたら根は優しいのだろうけれど軟弱で自己中でデリカシーのないフレッドを演じた役者も、その役を上手くこなしていたし。ある意味退屈極まりない物語でも、その中の人物を魅力的に演じてくれる役者がいれば見られるんですね。これが(いつもボクが書いている映画論的ことの文脈で言えば)映画は語られるストーリーの中味だけが問題ではないということです。しかしヘーゲ・シュイエン演じるシヴのそんな魅力があったとしても、それだけではやはり退屈したかも知れません。それを救っていたのはヴェルディの音楽でした。ボクはオペラ好きとは言っても自分から良く聴くのはモーツァルト、ワーグナー、R・シュトラウスが中心で、ヴェルディはそれほど聞かないけれど、久しぶりに聞くと彼の音楽には圧倒的強さがありますね。『アイーダ』自体が三角関係の物語で、それもあってこの映画の三角関係の物語ともややリンクする。そしてこのオペラが(決して明るい物語ではないけれど)カイロの歌劇場のこけら落としのために書かれた華やかなグランドオペラであることもあって、なんか気分良く映画のバックとして聞いていました。一つの真実ではあるけれど、そのまま描いてしまっては退屈に堕するかも知れない物語を、ヴェルディの音楽で間を持たせて描くという構成の成功だと思います。(ただ脚本はやや弱い感じで、物語の終わらせ方と矛盾するセリフが途中にあったりはしましたが。)

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舞台裏の様子とか、プロンプターの劇場での活動とか、観客のいない劇場の雰囲気とか、そういうものがボクは物的にも気分的にも好きなのですが、その辺に関する感性はこの監督さんにはあまりない感じで、それはやや残念でした。後で知ったのは監督さんは女性だったんですね。こういうことにフェチが入るのはやはり男性なんでしょう。また監督が女性だということで、このシヴのような女性が描かれたのも納得です。あとこの映画を見て感じたのは、結婚してしまってから、でも夫とはあまり良い状態ではない中で、チューバ奏者に出会ってしまったシヴの心の揺れ、まあ不倫的感情と行動のあり方ですが、この辺がやや日本人に近いような気がしました。フランス映画ではあまりお目にかかれないと思います。もちろんフランス人にだってある感情だし、行動でもあるのでしょうが、比べればフランスの男女観はもっと現実肯定的で、大人ですね。メインのパソコンが故障したままで直していないのでDVDの画像キャプチャーが出来ない状態にあり、ネットで画像探したのですが、フランスのサイトではほとんど取り上げられていない作品のようです。たぶんフランスでは未公開でDVD化もされていないようです。フランスamazonでは輸入盤の取り扱いもない様子。やはりフランス人の世界ではないのでしょう。それが面白かったです。そういう意味で、「ただやりたいばっかりのフランス映画」とか「ラストが良くわからないフランス映画」とか、フランス映画が苦手な方にはおすすめかも知れないヨーロッパ映画です。

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Last updated  2007.12.20 04:08:12
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