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2005.08.13
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中世の死

~法政大学出版局、2005年~

 今日は三つの記事全て本の紹介となりました。漫画、小説、専門書。良いバランスです(笑)
 ともあれ-。先の高田崇史さんの小説紹介で、「歴史を学ぶことに意味はある」ということを書きました。まさにオーラーは、死の歴史を研究することの意義を説いています。
 現代。先日読んだ某作品でも感じたことですが、医療の大きな発展にともない、人間は「本来の」寿命よりも長く「生きる」ことができるようになりました。
 オーラーは、こう言っています。「今日、多くの人間がばらばらに、ひとりぼっちで死んでいく。(中略)もはや誰も私に感心がない、死につつある人間がそのように感じる時、社会的死は肉体的な死に先立って訪れる。(中略)いわゆる『器具挿入』による高額な延命措置が行われる一方で、死んでいく者は見捨てられ、孤独に苛まれるのである」
 中世(ヨーロッパ)の人間は、多くの人の立ち会いのもとに亡くなっていました。死、そしてヨーロッパといえば、フィリップ・アリエスが有名です。アリエスは「飼い慣らされた死」という表現を用いています。これは長い間持続した心性だということですが、現代(の日本、欧米のそうでしょう)の死は、「飼い慣らされている」とはいえないでしょう。良い悪いということを言いたいのではありません。けれども、歴史の中で、人間が死とどのように向き合ってきたのか、こうした問題を知ることは、延命措置や安楽死という問題を考える上で、参考になると思うのです。
 さて。いつものように、目次を紹介して、興味深かった点をいくつか挙げて終わります。

 序文

 2.枠組み-人口史について
 3.働き盛りにする備え
 4.死に直面して
 5.眠りの兄弟
 6.死者の場所
 7.死-終点ではなく通過地点としての
 8.早すぎる死
 9.暴力的な死-刑法
 10.私闘と戦争
 11.ペスト大流行
 12.恐怖への欲望-中世後期の死の舞踏

 展望

 なお、本書は上記のような1、2、という章立てにはなっていません。章題が並べられているだけですが、便宜上番号をつけました。

 興味深かった点。まずは、刑法のところですが、処刑法の多くは、その罪状を「反映」していたといいます。偽証罪に問われた者は舌を抜かれ、子どもを溺れさせた女性は溺殺刑にされた、などの例が挙げられます。後者について、なぜ「女性」に適応されたのか(男性に適応されなかったのか?)ということは書かれていません。このあたりの事情は掘り下げることができるでしょう(あるいは、既に研究があるかもしれません)。少なくとも、男女によって刑罰が異なる、という傾向があったようです。
 それから。先に名を挙げたフィリップ・アリエスは、『子供の誕生』という、これも有名な本を出しています。アリエスは、「子供」という概念は近世になって生まれたということを指摘しますが(それまで、「子供」は「小さな大人」とみなされていたということです)、これにオーラーは反対します。たとえば、聖者アンノが、事故で亡くなった子供を復活させる奇跡を行った、と史料にあります。その奇跡がいくつか挙げられるのですが…。ある女性が、子供を沼に連れて行きました。子供はあちこち這い回り、水に落ちてしまいました。女性は子供がいなくなったことに気づくと、「大声で泣き叫んだ」のです。結局、アンノのおかげで子供は生き返るのですが…。この通り、子供を大切に思う気持ち、子供を失ったときの悲しみが、史料に描かれているのです。
 …と書きながら。子供ではなくても自分の親族(友人など)が亡くなれば悲しく、泣いたりするのは現代の感覚からいっても当然のことです。この例でもって、「子供」が、中世においても、「小さな大人」ではなく「子供」として認識されていた、と言い切れるかどうかは怪しい気もしてきましたが、私の読み込みが浅いのかもしれません。アリエスの『子供の誕生』を全て読んでるわけでもないですし、彼の説を深く整理できているわけでもありませんから…。とはいえ、ここでオーラーが紹介してくれている事例は、興味深かったです。






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Last updated  2005.08.13 17:55:35
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