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2006.06.10
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Michel Pastoureau, "Et puis vint le bleu",
dans Michel Pastoureau, Figures et Couleurs. Etudes sur la symbolique et la sensibilite medievales , Paris, 1986, pp. 15-22.

 ミシェル・パストゥローによる論文集 『図柄と色彩―中世の象徴と感性に関する研究』 より、「次に青がきた」を紹介します。この本の論文を紹介するのは今回で四回目になります。
パストゥロー氏のことは記事のたびになにかしら言っていますし、青についてもいろいろふれてきてますので、簡単にいこうと思います。

 この論文が収録されている本が1986年と、20年前のことには注意しなければいけませんが、当時の段階で、ヨーロッパ人のお気に入りの色は以下のとおりだそうです。一位は青で約半数、二位の緑が25%、三位の黒が10%だそうです。では、昔はどうだったのでしょうか。

1.パストゥローは、紋章の色について統計的な研究を行っています。結果が次のとおりです。

<azur-紋章の青>

<gueules-赤>
1200年頃:65% 1350(1250の誤り?)年頃:45% 13世紀末:35%

 その次に、地理的分布が指摘されますがそれは省略するとして、興味深かったのが、青が多い地域では黒が少なく、逆に黒が多い地域では青が少ないという指摘です。ここから、紋章の観点からいえば、青と黒が同じ役割を果たしていた、と言われます。

2.次いで、文学史料(特にアーサー王伝説)を分析し、色のもつイメージが紹介されます。まとめると次のようになります。
(以下、騎士の服の色、13世紀までのイメージ、13世紀末からのイメージという順番で紹介します)
・赤 13cまで:悪い考えに駆り立てられた
   13c末~:軽蔑的なニュアンスなくなる
・緑 13cまで:一般に若く、無秩序
   13c末~:(本文に言及なし)
・黒 13cまで:善or悪の英雄
   13c末~:常に悪い側

   13c末~:(本文に言及なし)
・青 13cまで:まれ
   13c末~:王権、忠実な愛、聖母マリアの色

3.文学以外の領域の青についてです。
 (a)美術史

 (b)衣服
 青い服は、普段着から盛装になるそうです。布の染色技術が高まり、明るい青の色が出せるようになったため、貴族の服に青が流行するようになるとか。アカネ職人が青の権威を貶めようとして、悪魔を青く描かせたという話は、以前紹介したこちらの 論文 にもふれられています。やがて、青は王室の色となっていきます。もともとはフランス王カペー家の家系を象徴する色だったのが、次第に王の色となる、と指摘されています。面白かったのは、アーサー王がほぼいつも青い服を着ている、という指摘です。アーサー王物語も読まなければと思いながら、未読です…。

4.こちらも既に紹介している論文でもふれられていますが、色の対立についてです。青が登場しその地位が高くなる時代まで、白-赤-黒という三色の図式が支配的だったとされています。ここで興味深いのが、黄色が白と同一視され、緑あるいは青は黒と同一視されたという指摘。
 後、紋章の中で、色の使い方が規制されるのですが、これは色の数を六つとし、それを二つのグループにわけます。
 (a)白、黄
 (b)赤、黒、青、緑
 そして、同じグループの色を並べることが禁止されたというのです。たとえば、地が赤なら、他の(b)グループの色を並べてはだめで、白か黄しか並べられない、というのですね。このグループは、つい先に指摘された色の同一視がふまえられていて、興味深かったです。この同一視と同じことだと思いますが、1.のところでふれた青と黒の関係のように、白が多い地域では黄色が少なく、黄色が多い地域では白が少ないという関係があったそうです。なお、緑は非常にまれだとか。2.の文学のところで、13世紀末からのところに緑についての言及がないのも、そのためかもしれません。
 ともあれ、青が大きく価値を増大させる頃、従来の白-赤-黒という三色の図式は崩壊に向かいます。

5.青の急速な進出は、三色の図式の崩壊の結果であろうと、パストゥローはこのときは考えています。『青の歴史』という本が2005年に邦訳されて出ているのですが、こちらを読むともっと確定的に書いているかもしれません。英訳版はざーっと読んでいるのですが、邦訳はまだ読み終わっていません…。
 ともあれ、三色対立の図式は、色の直線的・ヒエラルキー的な序列にとって変わられる、といいます。
 別の論文でも図で示されていますが、本論文での指摘を図式すると以下のとおりです。

<ヒエラルキー>
上:白、青
中間:赤
下:黄、黒

 最後は、色の歴史が、人類学的な歴史につながっていくといった指摘をされています。

ーーー

 パストゥローの本はいろいろ読んでいますし、本論文は20年前の論文ですから、内容としてはほとんど聞いたことがありました。青の歴史について簡単に整理されているのがよいですね。個人的には、フランス語の勉強になりました。





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Last updated  2008.07.12 21:01:28
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