のぽねこミステリ館

のぽねこミステリ館

PR

Profile

のぽねこ

のぽねこ

Calendar

2007.05.06
XML


~講談社現代新書、1990年~

 以前、ミシェル・パストゥロー氏の論文「動物裁判」を紹介したときに少し紹介した本です(その記事は こちら
。池上さんは、現在は東京大学の教養学部教授です。本書執筆時は助教授でした。
 本書の構成は以下の通りです。

プロローグ
第一部 動物裁判とはなにか
 1.被告席の動物たち

 3.破門される昆虫と動物
 4.なぜ動物を裁くのか
第二部 動物裁判の風景―ヨーロッパ中世の自然と文化
 1.自然の征服
 2.異教とキリスト教の葛藤
 3.自然に対する感受性の変容
 4.自然の観念とイメージ
 5.合理主義の中世
 6.日本に動物裁判はありえたか
エピローグ

 動物裁判は、ヨーロッパ(主にフランス)で、12世紀頃から行われ初め、18世紀まで続いた慣行です。 プロローグで、1456年サヴィニーで行われた動物裁判について具体的な描写をし、第一部では、その他の事例を紹介、第二部で、なぜ動物裁判が行われたのか、それも、なぜ、 12世紀頃という時代に動物裁判が行われるようになったのか、という問題の考察に移ります。

 動物裁判は大きく二つに分けられます。
(1)世俗裁判所が扱う事件(≒刑事事件)…(主にほ乳動物による)殺傷、畑荒らし
(2)教会裁判所が扱う事件(≒民事事件)…昆虫や小動物による畑荒らしなど
 いずれの事例についても、割と細かい手続きを紹介してくれています。が、本質的な部分はパストゥローの論文が手際よく整理していますし、紹介でもその部分は書いたので、細かいところは省略します。
 今回面白かったのは、森や鐘も裁判にかけられたということです。ある森で殺人が行われたけれど、犯人が分からない。しかし、なんらかの落とし前をつけなければならない。「それには、殺人に場を提供し、殺人に手をこまねいてみまもっていた森以上にふさわしいものはない、と擬人化して考えられたのであろうか」と、池上さんも断定的な解釈はしていませんが、興味深い事例だと思います。先に鐘も挙げましたが、他に果樹園や氷河も破門されたとか。

 非常に興味深かったのは、次の指摘です。12世紀には、人体は、宇宙(自然)のメタファーでしたが、後には、機械(水車、風車)が自然のメタファーとなります。思い切って図式化すれば、まずは、自然≒人体という図式がある。ここでは、自然は人体同様生命をもつ存在といえます。そして、後には、自然≒機械となる。ここでは、自然は、機械同様、人間によって統御可能な存在とみなされているといえます。こうした自然に対する態度―自然は、さらには動物も、人間に支配される存在であるという考え方―が、動物などに対して裁判を行うようになった背景にある、と池上さんは指摘しています。
 その他の議論にふれずに言うのもなんですが、なぜ動物裁判が(12世紀頃から)行われたのか、という問題に対する、明快な答えは、本書には述べられていなかったように思います。第二部で、人間と自然の関係に関する様々な問題を考え、それぞれに興味深い指摘はあり、それらの指摘を通じて感じる「雰囲気」が答えのような…。たしかに、なにか、これが答えだと言いたいという雰囲気は感じるのですが、それを分かりやすく整理してはいなかったように思います。それが少し残念ではありますが、わくわくしながら読めたのは事実です。
 第二部の最後で、日本人の自然観が指摘されていますが、こちらも興味深く読みました。

   *

 以前に紹介したパストゥローの論文が、動物裁判についての紹介をし、この事例が歴史学研究をより豊かにするだろうという展望を述べているとすれば、本書は、もっと大胆に動物裁判を歴史的に位置づけようとしているといえます(短い論文と本を比べるのも無茶ですが…)。
 しばらくパストゥローの論文集からの論文紹介をしていませんが、本書を読んで、あらためて中世ヨーロッパの人間と、動物や植物との関係に興味をもったので、パストゥローの研究にふれていきたいなぁと思いました。 …なかなか、最近はフランス語を読むのも疲れてきて、さぼり気味なのでした…。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2008.07.12 18:42:12
コメント(4) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

Keyword Search

▼キーワード検索

Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: