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2007.10.18
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Michel Pastoureau, "L'image heraldique"
dans Michel Pastoureau, Figures et Couleurs : Etude sur la symbolique et la sensibilite medievales , Paris, 1986, pp. 115-124.

 久々に、ミシェル・パストゥローの初期論文集 『図柄と色彩―中世の象徴と感性に関する研究』 に収録された論文の紹介です。今回は、「紋章の図像」を読んでみました。紋章学の初歩的な知識についてのレジュメのような簡潔な論文なので、この記事も、レジュメ風に簡単に書きたいと思います。

[序]
・紋章les armoiriesの定義=「個人あるいは個々の集団に固有で、「紋章規則blason」というある規則にその構成が拠っている、有色の紋章embleme」
・紋章の出現と普及…12世紀に軍事的な理由で出現→非軍事化、社会への急速な普及→1350年頃には、西欧社会の全体が紋章を利用
・紋章の支持体supportの多様性…衣服、建築物、家具、書物、印章、貨幣など cf. 教会=紋章博物館

1.紋章の図像の一般的特徴
(1)ロマネスク的図像…12世紀に西欧に出現、コード化されており、後にも変化しない

(3)概念的な図像、非物質的な図像…図像として残っておらず、テクストとして残されている紋章の多さ
 ex. 「金地に黒いライオン」…図像が残っていなくても、この概念は紋章

2.コード化:重要な要素と、重要でない要素
A.重要な三つの要素
 a.地champ…外周(その形は重要でない)により限定される部分
 b.一つあるいは複数の図柄…その性質、数、配置など=重要な要素
  ex.縦のライオンと横のライオンは別の図柄
  cf.紋章の図柄のおおよその内訳:図柄の1/3は動物、1/3は幾何学模様、1/3は星、月などの小さな図柄
 c.二つあるいは複数の色
 紋章の色は7色、2グループに分けられる→同一グループ同士の色を並置or重ねることはできない
  (1)白、黄
  (2)赤、青、黒、緑、「紫」(まれ)

 d.外周の形
 e.紋章の大きさ
 f.紋章の深さ[彫刻の場合でも]
 g.描写の「スタイル」…同じ紋章を多様な方法で描いたとしても、それは同じ紋章として認識される→形に対する構造の優越
 h.色のニュアンス…g.と関連、たとえば、gueules[赤]は、バラ色でも暗紅色でも、赤とみなされる。また、色のついた図像としてではなくテクストとして残っている紋章もある。


3.言語
 紋章規則blasonの用語…特殊、厳密

4.[紋章の]読解と表明
・紋章の読解…底(=地)から上にある図柄へと見ていく
 各々の地について、図柄の性質、その色、その属性を決定
・図柄を見てもその名前が分からない場合
 ・図柄の態度や位置 ex.正面向きか横向きかで、レオパールとライオンを区別
 ・図柄のアトリビュート ex.イヌは首輪つけているが、オオカミはつけない
 ・図柄の色 ex.オオカミとイヌは何色でもよいが、キツネは必ず赤

5.紋章の図像の本質
 ・範囲の限定された図像
 ・計画性のある図像
 ・向きの決まった図像(縦か横かなど)
 ・平面的な図像
 ・多様化しうる図像
 *その他、一族の同定の研究などにも援用できる

ーーー

 ミシェル・パストゥローが、有名な『紋章学概論』(Traite d'heraldique)の初版を上梓したのが1979年、紋章に関する論文集『白地黒斑と緑色―中世紋章研究』(L'Hermin et le sinople. Etudes d'heraldique medievale)を発表したのが 1982年。本稿が収録された『図柄と色彩―中世の象徴と感性に関する研究』は1986年に出版されていますが、本稿の初出は1984年ですね。
 私は『紋章学概論』を未読なのでなんともいえないのですが、大著とのことですし、目次を見る限り、包括的な研究であるようです。そして、それ以降の氏自身の研究にも、しばしば引用されています。
 そうしたときに、本稿の新しさはなんなのだろう、と思ってしまうのですが(『紋章学概論』を読まずにこんなこと言ってはいけないのですが)、少なくとも、『図柄と色彩』というタイトルの論文集に収録された意味は感じられたように思います。つまり、しばしばなされる、紋章の色彩への言及―これが、本稿の一つの特徴かなぁと思いました。
 下に挙げる参考文献『紋章の歴史』でも、本稿でなされた指摘が散見されますが、結局、大元は『紋章学概論』なんですよね。欲しいのですが、原価が70ユーロほど。日本で手に入れようとすると、単純計算で1万円弱ですが、もう少し高くなるでしょうね…。

*参考文献
ミシェル・パストゥロー(松村剛監修/松村恵理訳)『紋章の歴史―ヨーロッパの色とかたち―』創元社、1997年(記事は こちら





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Last updated  2008.07.12 18:08:23
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