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2009.05.09
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~岩波書店、2009年~

 岩波書店から刊行されているシリーズ「ヨーロッパの中世」の第3巻(第5回配本)です。
 それぞれ北欧、東欧、スペインを専門の地域としておられる三人の研究者が、それぞれの地域を西欧に対する「辺境」として位置づけ、しかしその辺境の歴史を見ることで、あらためて西欧を中心とする見方に限られるのではない、豊かな中世史像を提起する試みとなっています。
 私自身は主にフランス史の文献を読んでいるため、本書を執筆された方々の文章を読むのはこれがはじめてになります。
 本書の構成は以下のとおりです。

ーーー
序章 文明と出会うとき―ある司教の生涯  (薩摩秀登)

第I部 北洋のヨーロッパ  (小澤実)


 1 ローマ世界の彼方
 2 ヴァイキングの秩序
 3 中世の海上王国
 4 連合するスカンディナヴィア
第二章 北縁の社会空間
 1 キリスト教心性の受容
 2 三都の展開
 3 辺境のマイノリティ
第三章 スカンディナヴィアのアイデンティティ
 1 アイデンティティの礎
 2 花開くスカンディナヴィア文化

 4 ヨーロッパへの同調と反発

第II部 東に開かれたヨーロッパ  (薩摩秀登)

第四章 二つの帝国のはざまで
 1 中世ヨーロッパの「中間領域」
 2 東と西の皇帝権

 4 ローマ・カトリックの新地平
 5 解体する「東のローマ」
 6 繁栄する東部中欧
第五章 「中間領域」の社会と変貌
 1 初期の国家とその社会
 2 人間集団の移動と変遷
 3 拡大する西欧社会と東欧
 4 中世後期の社会
第六章 はるかな「ローマ」への視線
 1 新たな文明国をめざして
 2 バルカンの宗教世界
 3 文明の新たな拠点へ
 4 フス派運動―既存の教会への疑問符
 5 「中間領域」の新たな課題と自覚

第III部 イスラームと向き合うヨーロッパ  (林邦夫)

第七章 せめぎ合いの辺境
 1 ムスリムの征服とキリスト教諸国家の形成(8―10世紀)
 2 移動する境域(11―12世紀)
 3 イスラーム世界の消滅(13―15世紀)
 4 イタリア半島とアフリカの側で
第八章 共存という社会的実践
 1 残留するムスリム
 2 共存の内実
 3 支配されるマジョリティ
 4 ノルマン人の支配のもとで
 5 反乱から追放へ
第九章 摂取される知と文芸
 1 翻訳による知の摂取
 2 後援者としての国王
 3 文芸における影響
 4 シチリア宮廷とイスラーム文化

終章 辺境とヨーロッパ  (林邦夫)

参考文献
索引
ーーー

 本書のタイトル通り、歴史の「ダイナミズム」を味わいながら読みました。
 以下、興味深く読んだポイントを中心に、簡単に紹介を書いておきます。

 第I部で扱われる北欧は、東欧や南欧と違い、高校世界史でもほとんど勉強しないですし、その後もふれずにきた地域ですので、まず基本的な概観自体が興味深かったです。
 中でも特に興味深かったのは、西欧から見たら「辺境」である北欧の、さらなる辺境について論じた第二章第3節です。ここでは、フィンマルクに居住するサーミ、現フィンランドの先住民であるフィン人、グリーンランドのイヌイットが紹介されます。たとえば、北欧諸国は東西文明世界への重要な輸出品として毛皮を扱っていましたが、サーミは毛皮を提供する存在でした。スウェーデンとノヴゴロドでサーミの領域を分割する条約が結ばれるなどの事例が指摘されています。

 第II部は、バルカン半島からいわゆる東欧、東部中央と、広域な領域を扱います。それぞれの地域の特徴を描き出しながら進んでいく第II部では、こうした地域が西ローマ帝国(カロリング朝やオットー大帝にはじまる神聖ローマ帝国を含む)と東のビザンツ帝国の間に位置していることから、両帝国の政治、宗教の影響を受けつつ、また独自の展開を示していく、という点を興味深く読みました。
 特に第六章は、西のカトリックと東の正教との関係を中心に、こうした「東の辺境」でのキリスト教の在り方を論じており、面白いです。

 第III部は、ヨーロッパの南の辺境として、イベリア半島とシチリアを扱います。この二つの地域は、南欧の中でもイスラームとの複雑な関係をもっていた地域です。
 ここではなにより(特にイベリア半島で)、キリスト教徒とムスリムが、宗教上の理由から完全に対立していたわけではなく、政治的な理由から、いわば合理的、ときに打算的な協力関係も持っていたという指摘がとても面白かったです。
 たとえば中世イベリア半島では、キリスト教国もいくつかに分かれて対立していましたし、南部に進出してきていたイスラーム国家の内部にもまた、対立がありました。なので、キリスト教国同士の争いの中で、ムスリムと同盟して相手のキリスト教国と戦うということもあったようですし、逆もまたしかりです。多くの事例が紹介されているので、細かいところは流し読みですが、しかし歴史のダイナミズムを面白さを一番感じた部分でもありました。
 第九章では、いわゆる「十二世紀ルネサンス」の背景ともなっているアラビア語からの翻訳活動など、イスラームの知的文化をキリスト教国が積極的に取り入れた状況が論じられます。アラビア語からスペイン語への翻訳活動にユダヤ人が活躍していたのも興味深いです。とまれ、ここからも、異なる宗教だからといってイスラームの文化を排斥するのではなく、有意義な文化を積極的に取り入れたキリスト教国の態度がうかがえます。

 というんで、どの部も興味深く読みました。

   *

 第6回配本は、原野昇/木俣元一『芸術のトポス(ヨーロッパの中世7)』です。既に4月下旬に刊行され、買っており、GW中に読了もしたので、また記事をアップします。

(2009/05/03読了)





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Last updated  2009.05.09 07:49:43
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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