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2011.05.07
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橋口倫介『騎士団』
~近藤出版社、1971年~

 以前紹介した 『十字軍―その非神話化―』 と同じ著者、橋口倫介先生による、騎士団の通史にして、その歴史的意義を論じる一冊です。
 本書の構成は次のとおりです。

ーーー
序文
第一 騎士団発生の基盤
 1 騎士団の定義

 3 騎士団研究の意味と研究略史
第二 修道騎士団の創設
 1 テンプル騎士団・聖ヨハネ騎士団の設立
 2 両騎士団の発展
 3 両騎士団の生活
 4 両騎士団の軍事力
第三 両騎士団の活動
 1 十字軍参加
 2 荘園経営・金融業・病院
 3 中・後期十字軍における諸活動
第四 テンプル騎士団訴訟事件

 2 テンプル騎士団の廃絶
 3 解散の意味とその後の騎士団
結語・文献目録抄
騎士団年表
索引


 騎士たちが12世紀半ば頃から創設した騎士団は多様ですが、大きく(1)宗教的騎士団(騎士修道会)と(2)世俗的騎士団の二つに分けられます。本書は、前者に属するテンプル騎士団と、聖ヨハネ騎士団の二つに特に焦点を当てます。十字軍という歴史的背景の中で生まれ、大組織に発展した両騎士団ですが、テンプル騎士団は14世紀に廃絶され、聖ヨハネ騎士団は今日まで持続します。なぜ、同じ騎士団でもテンプル騎士団は廃絶され、聖ヨハネ騎士団は廃絶を免れたのか。そして、12世紀から14世紀に、騎士団はどういう意義をもっていたのか。とりわけこの二つの問題に関して、本書は両騎士団の創設から発展、それぞれの活動の諸側面を丹念に見ながら、論じていきます。

 まず「第一」では、様々な騎士団について各々の概略を述べ、7頁にはそれらを性格によって分類した図式が掲載されていて、便利です。この図式によれば、テンプル騎士団も聖ヨハネ騎士団も、宗教的性格をもつ国際的組織で、前者は純粋に軍事的理由から、後者は病院から騎士団に編成されたという背景をもっています。なお、両騎士団の後に創設され、十字軍の中でも一定の役割を果たしたドイツ騎士団(チュートン騎士団)は、宗教的性格をもつ国家的組織に分類されます。

 同じく「第一」では、本書までの騎士団に関する研究略史が興味深いです。本書自体が1971年の著作ですから、こんにちまでにはさらなる研究の蓄積があることでしょうが、ここで基本的な研究略史をおさえておくことは無駄ではないでしょう。

「第二」では、それぞれの騎士団の創設から発展までの概略や、組織編成、生活のあり方の具体的ないろんな側面を見ることができます。興味深い点は多々ありますが、ここでは服装に関して少しメモしておきます。
 両騎士団とも、組織の最高幹部役員に、被服係の責任者をおいていました。彼らは、全会員の被服貸与、交換、償還などの業務にあたっていました。このような「下級職員にでも管理できる職務を最高級職の列に加えているのは[中略]中世社会における服装の意義、とりわけ聖職者の身分の象徴という意味において理解しなければならない所以であろう」(84頁)と、橋口先生はいいます。
 ミシェル・パストゥローという研究者が強調する「象徴史」の重要性も、こういうところから理解できるように思います。

「第三」は、「2 荘園経営・金融業・病院」を真ん中に置き、「1」と「3」では十字軍運動と騎士団の活動の関連を詳しく論じます。
 上述した『十字軍―その非神話―』の中で、十字軍運動の負の側面も強調している橋口先生は、本書でもイスラームの側に宗教的寛容が見られたことを指摘しています。第三回十字軍に参加した英王リチャードは、アッコン占領直後に「イスラム教徒の捕虜270人を虐殺し、キリスト教徒の大きな恥辱の歴史をつくったが、その報復としてサラディンのやったことはエルサレムの「岩の円蓋」から打ち落とした大十字架を馬の尻尾に結びつけ、キリスト教徒の眼前で地上を引き回しただけであった。宗教的寛容はむしろイスラム側に、より早くより広く育っていたのではなかろうか」(191-192頁)
 また、イスラーム正統派スンニ派を憎悪するイスラームの一派「アサシン派」について論じられた部分も興味深かったです。暗殺者を意味する英語のassassinの語源ですね。

 以上で二つの騎士団の概観をつかんだ後、「第四」では、なぜテンプル騎士団は廃滅に追い込まれたのか、を論じます。フランス王権と教皇権の対立といった背景も丹念に論じられており、興味深かったです。

 私にとっては、普段はあまり読まない領域に関する著作ですが、興味深く読みました。適宜、図版や地図が掲載されているのも嬉しいですね。

※『十字軍騎士団』というタイトルで、1994年に講談社学術文庫に入っているようです(文庫版は未見です)。

(2010/12/08読了)





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Last updated  2011.05.07 17:32:58
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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