のぽねこミステリ館

のぽねこミステリ館

PR

Profile

のぽねこ

のぽねこ

Calendar

2011.11.21
XML
鈴木宣明先生古希記念論文集刊行会編『歴史と霊性』
~創文社作成、2000年(非売品)~

 上智大学名誉教授、鈴木宣明先生の門下生たちが、先生の古希を記念して刊行した論文集です。
 私は不勉強ながら、鈴木先生の研究は糸永寅一他監修『ヨーロッパ・キリスト教史 3 中世後期』(中央出版社、1971年)所収の「十二世紀における宗教運動の意義」(93-134頁)を読んだことがあるだけですが、自身の勉強にとてもためになる論文でした。
 さて、本論集は、特に若手研究者の寄稿が多く(執筆当時修士課程の方もいらっしゃいます)、新鮮な印象があります。
 本書の構成は以下のとおりです(便宜的に論文に通し番号を振りました)。

ーーー
助言(川野祐二)

1.藤井慈子「四世紀の金箔ガラスにみられる聖人の肖像―シクストゥス二世を中心に―」

3.小林糸子「聖コルンバヌスの福音的完徳の実践―修道規則から―」
4.我孫子郁子「七―八世紀ノーサンブリアと聖カスバート崇敬の発生」
5.松下昌弘「『聖タラシオス伝』に見られる『寛容』について」
6.川野祐二「中世初期ザンクト・ガレン修道院の教育施設と教育」
7.多田明夫「十一―十二世紀の修道会と修道規則―プレモントレ会『慣習の書』を中心に―』
8.金野圭子「教皇インノケンティウス三世による民衆的福音主義運動への対応―フミリアティ、『カトリックの貧者』、『ベルナルドゥス・プリムスの共同体』へ与えた改宗規則から―」
9.西井政博「森を巡る修道院と農民の動き―十三世紀前半のモーゼル流域を中心に―」
10.森下園「中世の聖母マリア像―ノーリッジのジュリアンの著作から―」
11.長谷川恵「十五―十六世紀における修道祭式者会員の財産譲渡について―ケルンの修道祭式者会聖マリーエングラーデンの史料から―」
12.北村直昭「読書の考古学―ヨーロッパ中世における『読書の歴史』のために―」
13.西田有紀「サン・マルコ修道院の図書館―開かれた図書館という構想―」

15.柳澤治「史料翻訳『ルターに反対するルーヴァン・アカデミアの記録』」
16.梶山義夫「トリエント公会議におけるカルヴァン認識の変遷」
17.杉崎泰一郎「観想修道士の情報発信―宗教改革期におけるケルン・カルトゥジア会修道院の出版活動―」
18.望月眞紀「中央党党首エルンスト・リーバーとイエズス会法第二条廃止」

あとがき(杉崎泰一郎)


執筆者紹介
ーーー

 はじめの問題提起で提示された問題についての解答が結論で明快にされていない、文章が読みづらい、など、若干気になる点のある論考もありましたが、どの論文もおおむね興味深く読みました。
 収録論文の標題を眺めるだけで分かりますが、本書に収録された諸論考が扱う時代は4世紀から19世紀と幅広く、地域もフランス、ドイツ、英国、イタリア、さらにはギリシア語圏もあるなど、バリエーション豊かです。

 論文2は、400年頃に起こったコンスタンティノポリスでの多数のゴート人虐殺事件を、フィクション風に記した史料の分析で、とても面白かったです。扱う作品がその虐殺事件を題材にしているとはフィクション風に書かれているという性格を持っていて、あえてフィクションのかたちで事件を記録した意義に関する分析にわくわくしました。一方、フィクションの中にも一貫した論理整合性があるという前提があるように思われ、こうした作品の分析の難しさもまた感じる論文でした。

 論文6は、修道院の教会平面図の分析を中心としていて、その題材が私には目新しく、興味深かったです。

 論文8による民衆運動と、それへの教皇の対応の分析は、まさに私が問題関心をもつ時代、テーマの一つなので、何度目かですが興味深く読みました。

 論文12は、写本学に基づく「読書の歴史」へのアプローチを「読書の考古学」と名付け、その方法論を論じています。 シャルティエ他編『読むことの歴史』 など、「読書の歴史」には私も関心があり、本稿を読むのも何度目かになりますが、あらためて勉強になりました。一方、紙面の制約という問題もあり、具体的な事例の紹介が乏しいのが残念です。たとえば、テクストの末尾に写字生が残した書き込み(コロフォン)が見られることがある、という指摘はとても面白いので、コロフォンの例が知りたくなりました(それはたとえば、ハスキンズが 『十二世紀ルネサンス』 の中で紹介している、「終わり。神に感謝。」とか、「これで終わり。遊びに行こう。」とかいうものなのでしょうか…)。

 私が特に関心を持っている時代は12-13世紀で、それより後の時代になると、なかなか本も読まないのですが、本書については、ルネサンス以降の時代を扱う論文でも、非常に興味深く、楽しく読めるものが多かったです。
 たとえば、論文13は、私財を投じて写本を買い集め、古典研究に没頭したニッコロ・ニッコリという人物による、集めた本を永続的に残し、またそれらを一般に開放したい、という願いから、実際に(ニッコリの没後になりますが)その理念を反映した図書館が作られたことを論じています。もちろん、ニッコリの願いが完全な形で叶えられたわけではありませんが、本好きとしては興味深かったです。

 論文14が扱うフィチーノという人物について、私は不勉強にしてこの論文で初めて知ったという有様ですが、先行研究の問題点の指摘と、書簡の数量的・内容的分析というその研究方法が参考になります。

 論文17は、12世紀の研究を中心としていらっしゃる杉崎先生が宗教改革期を扱っているという点で、私には新鮮でした。修道院が刊行した文献の数や内容、献呈辞の分析からなる議論も興味深かったです。

 以上、特に興味深かった論文を中心に紹介してきました。直接は自分の関心ではない時代・テーマについての論文も含め通読することで、いろんな方法論や事例を知ることができ、良い経験でした。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2011.11.21 22:10:42
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

Keyword Search

▼キーワード検索

Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: