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2012.03.04
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~南窓社、1996年~


 橋口倫介先生の「古希記念論文集」という性格ももつ、一般向けの本と論文集の中間のような感じの一冊です。執筆者のほとんどが、上智大学で学ばれた方々です。
 まずは、本書の構成をかかげておきます([ ]内の連番は便宜上ふりました)。

ーーー
はじめに(磯見辰典)

I.ローマの残照
 [01]ローマの残照―グレゴリウス一世のイタリア(倉橋良伸)
 [02]シャルルマーニュとソロモンの神殿(出崎澄男)
II.ブリテン島の四季
 [03]救いと巡礼―アイルランド修道院文化(盛節子)

 [05]ベケット論争とロンドン司教ギルバート・フォリオット(渡辺愛子)
 [06]ジョン王と教皇権(梅津尚志)
III.十二世紀の心性
 [07]十二世紀ルネサンス―人と学問(柴原大造)
 [08]聖マリアの無原罪の御宿り論(長谷川星舟)
 [09]ヴェズレーの十二世紀(池田健二)
IV.イベリアに流れる時
 [10]トレドのモサラベと大司教ベルナール(北田よ志子)
 [11]スペイン異端審問制度の裁判権能をめぐって(宮前安子)
V.中世社会の点描
 [12]中世ヨーロッパにおける「癩」(東丸恭子)

 [14]中世のパリ大学と「書籍商」(大嶋誠)
 [15]天文時計断章(相野理子)
VI.旅の終わり・中世の終わり
 [16]南ドイツ紀行―コンラート・フォン・メーゲンベルク考(広嶋準則)
 [17]ルネサンスの魔術理論―自然魔術とダイモン魔術(田口清一)


あとがき(磯見辰典)
ーーー

 まず、本書全体の印象は、もう少し全体的な方向性の統一をしていれば良いのに、というところです。
 それぞれの章(I~VI)の冒頭に、旅人=「私」が、その章の舞台を見る、という文章が置かれています。ちょっと気取った感じもありますが、中世の社会に想像をめぐらせたくなるような、雰囲気は出ています。
 その雰囲気からいえば、一般向けに重点を置かれているようでもありますが、しかし、個々の執筆者により、専門性の強い論考(たとえば、先行研究の紹介・批判と今後の展望を示す[11]など)もあれば、より一般向けを目指した文章(たとえば、[16]は留学中の研究生活も描いています)もある、という感じで、統一性はあまりないように思いました。思い切って、より専門色の強い論文集にしてしまうか、あるいは参考文献は紹介しつつ、より平易な文章で一般向けの本にしてしまうかした方が、全体として楽しめたのでは、と思います。
(さらにいえば、いくつかの註を付けた論考もあれば、主要参考文献の一覧すらない論考もあり、統一性がありません)
 と、全体でみればもう少しまとまりが欲しかったですが、個々の執筆者による論考は、どれも興味深く読みました。
 特に私が面白く読んだり、あるいは関心を持ったりした部分について、簡単にメモしておきます。

 [01]で取り上げられているグレゴリウス1世(大教皇)については、その『司牧規定書』(いかに民衆を教化するか、ということなどを記した書)の英訳を読んだり、あるいは朝倉文市先生の『ヨーロッパ成立期の修道院文化の形成』第三章「グレゴリウス一世の人と思想」を読んだりして、その思想的な部分については勉強してきていました。ところが、ここでは、大教皇の政治的な活躍が論じられていて、私にとっては目新しく、面白かったです。

 [04]は、アイルランドの石造十字架=ハイ・クロスの紹介をしており、面白かったです。ハイ・クロスは、「十字架を支える土台、十字架の縦木と横木、その交差部を囲む円環、頂上にいただく笠石から」成ります(45頁)。そのどの部分にも彫刻が施されていて、[04]はその彫刻の一例を取り上げ、分析しています。ハイ・クロスについてなじみのない私ですが、[04]はとても分かりやすく、読みやすかったです。

 [08]は、聖母マリアが、生まれたときから原罪を免れていたという、「聖マリアの無原罪の御宿り」という教義の成立を、中世の神学者たちの考察を見ていきながら追っています。この教義は、1854年の大勅書により、正式に信じるべきものとして定められたということです。

 V章([12]~[15])は、どれも関心をもっている領域ということもあり、興味深く読みました。
 [12]の執筆者である東丸恭子さんは、中世のレプラや施療院に関する論考を、他にも発表していて、私はすでにそれらの論文で勉強していたこともあり、そうした研究の成果を短くまとめた本節も、興味深く読みました。

 [13]は、国王の入城式を取り上げ、それと、大司教たちが行っていた行列の類似点(より厳密にいえば、国王の入城式は大司教の行列の形態を取り入れたことで効果的になったという点)を指摘していて、興味深いです。


 [14]は、「書籍商」が大学から与えられた特権や、その数や家族について言及していて、面白かったです。なお、ここで取り上げられている範本―分冊システム(ペキア制度)については、 D. L. d'Avray, The Preaching of the Friars についての記事のなかで、簡単にメモしています。

 [15]は、機械仕掛けの天文時計の仕組みを紹介するだけでなく、いわゆる中世の人々の時間感覚についても触れた、面白い論考です。参考文献がないのがちょっと残念。

 それぞれの執筆者による節は、10頁程度ととても短く、とても読みやすいです。
 まさにV章の標題にもなっている「中世社会の点描」といった趣きの一冊です。





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Last updated  2012.03.04 11:57:15
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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