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2012.04.01
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Michel Pastoureau, "Le sceau medieval"
dans Michel Pastoureau, Figures et Couleurs : Etude sur la symbolique et la sensibilite medievales , Paris, 1986, pp. 71-87.

 久々に、ミシェル・パストゥローの論集 『図柄と色彩―中世の象徴と感性に関する研究』 所収の論考を紹介します。今回は、「中世の印章」を紹介します。

 本稿の初出は1983年。以前紹介した 『印章』 は、1981年に刊行されていますので、本稿は、『印章』の簡潔な整理という位置づけになるでしょうか。本稿には、註も参考文献もありません。

 今回は、レジュメ的にまとめておこうと思います。

ーーー


・印象:豊富な情報源、統計的調査可能
 しかし研究は不十分

[1]印章とは何か

(1)定義
・A・クーロンによる定義
 「軟らかい素材、しばしば蝋の上に、厳密には母型と呼ばれる硬い物質(石や金属)に彫られた図像や文字が刻印されたもので、  一般に、権威や保有権の個別のしるしとして用いられる」(訳は高山/池上『西洋中世学入門』117頁の岡崎敦先生のものを参照) →刻印の強調∴不十分
・印象の3つの機能
 1)内容の秘密性や正しさを保証
 2)印章が付されたものの所有権の証明
 3)書かれた行為の真正性の保証→最も重要

(2)歴史

 ・ローマ…一種の署名として使用
 ・メロヴィング期…私的な印章の使用が減少→王の特権
 ・10世紀頃~…高位聖職者、俗人諸侯らによる使用
 ・12-13世紀…印章の使用の一般化
  →印章のない証書は疑いの目を向けられる

 ・17世紀~…君主や法人のみ印章を使用

[2]母型と刻印

(1)母型
 ・母型:凹型に彫られた物体で、これを蝋にあて、印章の刻印を作る
  →金属製…たいていは真鍮;錫や鉛(農民);石、象牙、金も用いられる
 ・二つの形態:A.平たいもの B.裏側に円錐や三角錐の突起のあるもの
 ・厚い金属∴製造にコストかかる
  →父の母型を再利用し、銘文だけ変える例も

(2)刻印
 ・素材…しばしば蝋、地中海地方では鉛も
  ・古代…粘土
  ・ローマ時代~…蝋の使用増加
 ・刻印の色…白、赤、緑など
  →色の体系化
   例)フィリップ尊厳王;緑の蝋=荘厳・恒久的な文書に、黄の蝋=より日常的な文書に
 ・刻印の大きさ…君主の方が大きい
  →農民が騎士より大きな刻印を持っている例も存在

[3]銘文と図柄の形式

・印章の地には図像(=形式);その周囲に銘文

(1)銘文

・文字…錐で打ち込み∴打ち間違いも
・限られたスペース∴省略も
・銘文の言語:12世紀末頃までラテン語、13世紀から俗語の普及
・銘文の内容=名前、肩書き、職業;ことわざも

(2)形式

・「荘厳形式」…王の肖像(横顔、軍服);百合の花;正義の手
 →フランスでは王のみが使用
・「騎馬形式」…戦闘中の騎士
・「狩猟形式」…鹿や猪を貫く図像も;女性もこの図柄を使用
・「紋章形式」…最多。
・「聖人伝的形式」…天使や聖人の図柄
 →高位聖職者、聖堂参事会、都市、兄弟団などによる使用
・「都市の印章」…舟の図柄;祈念碑の図柄 などなど
・その他…動植物、武器・道具(例:職人が自分の仕事を示す道具)

[4]印章学

・第一段階:印章の保存と調査目録の作成
 →印章を、それが付された証書から分離すべきではない
 (印章は、文書に紐で結びつけられていました)
・印章研究の貢献しうる領域の多様性
 →政治史、法制史、紋章学、社会史、美術史、文化史 などなど…
ーーー

 この記事の冒頭でふれた、『印章』という本には、図版が全くありませんが、本稿には17の印章の図版が掲載されていて、興味深いです。
 なお、クーロンによる定義のところでふれた『西洋中世学入門』第7章の前半は、ミシェル・パストゥローの業績を手際よくまとめられていて、本稿を読むのにも参考になりました。





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Last updated  2012.07.07 20:05:46
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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