阿部謹也『中世の星の下で』
~ちくま文庫、 1986
年~
1975
1982
年のあいだに雑誌や新聞など各種媒体に発表された 35
の文章が収録されています。単行本としての初出は影書房、 1983
年です。
本書の構成は次のとおりです( 35
すべての見出しを掲載すると煩雑になるので、部のタイトルと収録数をメモ)
―――
中世のくらし [12
編 ]
II
人と人を結ぶ絆 [12
編 ]
III
歴史学を支えるもの [11
編 ]
初出一覧
解説 社会史研究の魅力(網野善彦)
文献目録
―――
第1部は、星、橋、暦、風呂、涙など、中世の人々の暮らしをいくつかの具体的なテーマに即してみていきます。本書の表題となっている「中世の星の下で」は、 1480
年頃の写本に描かれた土星、木星、火星、太陽、金星、水星、月の7枚の絵を掲載し、それぞれの象徴性を紹介しています。
第2部は、これまでに本ブログで紹介してきた 『中世賤民の宇宙』
などでも強調されていた、阿部先生の問題関心の中心をなす「人と人の絆」をテーマとして、ユダヤ人、煙突掃除人、市民意識などを扱います。「ブルーマンデーの起源について」で論じられる休日の問題や、「人間狼の伝説」で扱われる悪口としての犬など、興味深い話題が豊富です。「鐘の音に結ばれた世界」は、中近世における音―特に鐘の音について論じていて、戦争の際に鐘が溶かされ弾丸として転用されたことなどが示されます。
第3部は学問・歴史学の営みについて。 18
世紀後期にドイツで成立した教師も一般市民も一緒に地域の歴史を調べたりするなどの活動をした様々な「協会」を紹介し、その意義を強調する姿は、一部学会のあり方を批判する文章と対をなしていて印象的でした。また、 1980
年前後に日本でも大きく注目されたジャック・ル・ゴフやエマニュエル・ル・ロワ・ラデュリなどのアナール学派の業績の位置づけも興味深いです。
エッセイ風の文章も多く、また表題作にもうかがえるように素敵なタイトルも多く、読みやすく興味深い1冊です。
(2025.06.19 読了 )
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