仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2006.06.06
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カテゴリ: 国政・経済・法律
民営化(市立施設としての廃止)を定める改正条例が違法とは随分踏み込んだ判決だ、と思った。せいぜい説明不足の点で損害賠償ぐらいじゃないのか、と。ただし、拙速に批判すると、感覚的に決めつけた自分の結論に理由をあれこれ整序させるパターンになってしまうため、また新聞の報道や解説に流される危険もあるため、冷静に判決文を読もうと思っていた。

なお横浜市は2日東京高裁に控訴(毎日新聞6月2日 記事 )。裁量権の逸脱や濫用はないと主張している、とこの記事では述べているが、条例制定の処分性が地裁で肯定された点を争うのかどうか、まではわからない。市長の政治姿勢や交渉のありかたも具体的紛争の観点からは問題点ではあろうが、私としては民営化政策に対する司法判断を決着させるべきと思うので(ひとり横浜市の問題ではないとも言える)、控訴は当然の姿勢。

先日、裁判所HPから入手して何日か時間をかけて読んだ。その上で、整理して記す。容量の関係で、判決の論理の整理(その1、その2、その3)と、それを踏まえた当ジャーナル編集局の考え(その4)とは、別の記事に。
 ■ 保育所民営化が違法? 横浜地裁判決を考える(その2 判決の論理・続) (06年6月6日)
 ■ 保育所民営化が違法? 横浜地裁判決を考える(その3 判決の論理・続々) (06年6月6日)
 ■ 保育所民営化が違法? 横浜地裁判決を考える(その4 見解)

判決(平成18年5月22日判決・横浜地裁行ウ第4号・横浜市立保育園廃止処分取消請求事件)は以下のとおり(ODAZUMA Journal要約。なお理解の便宜のため訴訟特有の構造を組み直した)。
判決翌日の各紙新聞報道では、民営化は違法だが事情から取消せず、としたのか、それとも民営化は違法ではないが説明不足自体が違法(損害賠償)という論理なのか、各紙に説明の違いがあり不明だったが、前者であることが明らかになった。さらに、民営化の選択自体が違法ではなく、性急な民営化が違法、との論理だ。相当苦心している。
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(1)事実関係
 児童福祉法に基づく横浜市児童福祉審議会は平成14年度から審議を重ね、平成14年2月に、今後の行政の役割は保育サービスの直接供給主体から基盤整備に重点を置くべき、との意見具申。これを受けて横浜市長は、同年4月に、「今後の重点保育施策」を策定し、市立保育所の民営化を掲げ、平成16年度からの移管計画を示した。具体的には、平成16年度には本件4園を移管すると定めた。
 平成15年4月23日には市福祉局長名義で、本件4園の児童の保護者には民営化の方針を通知。さらに、5月までに各園で第1回の説明会を実施し、以後何度か開催。
 他方で市は同年9月から移管を受ける社会福祉法人を募集し、同年11月に移管先を選定し発表。同年12月、市長は市議会に条例改正案(条例別表から4園を削除する内容。平成16年4月1日施行)を提出し可決される。
 平成16年4月1日、条例施行により市立保育所としては廃止され、各社会福祉法人に移管(民営化)された。各社会福祉法人は保育所設置認可を受けた上で、従来の施設で保育を開始。
 なお、同年3月16日に市と各法人は「保育所運営に関する覚書」を締結。また、建物は有償譲渡、土地は無償貸与、備品は無償譲渡。嘱託職員やアルバイト職員は各法人に雇用された。
(2)請求
 (2-1)条例制定をもってした4保育園の廃止処分を取り消す。

(3)請求の論理と争点
 上記条例制定は抗告訴訟の対象たる処分に該当し、原告らの保育所選択権等を侵害するもので違法。よって廃止処分の取消しと、違法な処分による精神的損害を賠償(国家賠償法1条1項)を求めるもの。
 (3-1)争点1 改正条例制定の処分性
 (3-2)争点2 改正条例制定の違法性
 (3-3)争点3 改正条例制定の手続の違法性

(4)判決主文
 (4-1) 条例制定による4保育園の廃止(H16.3.31)処分の取消し請求について
  (A)原告のうち卒園した児童・保護者の部分  訴え却下
  (B)原告のうち卒園していない児童・保護者の部分 請求棄却。ただし処分は違法。
 (4-2) 損害賠償請求について。被告(横浜市)は、原告(保護者)に1世帯あたり10万円(+法定利息)を支払え。

(5)判決の理由(争点についての判断)

(5-1)争点1(改正条例制定の処分性)について
(5-1-1) 条例の制定は通常は一般的抽象的な法規範の定立たる立法作用の性質を有し、原則として個人の権利義務に直接の効果を及ぼすものでないから、それ自体抗告訴訟の対象たる処分(行政事件訴訟法3条2項)には該当しない。もっとも条例という形式によるものであっても、他に行政庁による具体的な処分を待つまでもなく、それ自体によって特定の個人の権利義務や法的地位に直接の影響を及ぼす場合には例外的に、条例制定行為をもって処分と解する場合もある。
(5-1-2) そこで本件が特定の個人の権利義務や法的地位に直接の影響を及ぼすか否かを、原告の主張について順次に検討。
 (ア)保育所選択権の侵害の点について。法令の規定(児童福祉法24条1項)からは、保護者がその監護する乳幼児に対してどの保育所で保育の実施を受けさせるかを選択する機会を与え、市町村はその選択を可能な限り尊重すべきものと認められ、この保育所を選択しうる地位を保護者(児童ではない)に対して法的利益として保障したと解される。(反射的利益に過ぎないとの被告の主張を排す。)そして、保育所の選択は、一定期間の継続的な保育実施を当然の前提とするものだから、法が入所時の保育所選択を認めるということは、必然的に入所後の保育の実施を要請するものである。
 従って、この保育期間中に当該選択にかかる保育所を廃止することは、保護者の有する保育所を選択しうる法的利益を侵害するもの。
 (イ)保育所において保育を受ける権利(児童)の侵害の点について。原告は、憲法(第13条、25条、26条)、子供の権利条約(第3条)及び児童福祉法(総則規定)に基づき、全ての児童は「健全に発展することを保障されている権利」を有し、その中には「保育所において保育される権利」が包摂されているところ、本件条例改正はこの権利を侵害する、と主張する。しかし、これら法令は国の責務等抽象的な理念を掲げるもので、これらの各規定から直ちに具体的な権利ないし法的利益が保障されると認めるのは困難。
 もっとも、児童福祉法(24条1項)が市町村の保育所における保育義務を定める反面として、「保育所において保育を受ける権利」が保障されている。本件改正条例は、児童らが当然に保育所において保育を受ける権利を奪うものではないし、新たな保育所で行われる保育が必然的に保育内容において劣る根拠もない。しかし、どの保育所であっても児童が受ける利益は共通等質とは言えず、その違いに一定の意味があることが前提とされ、児童が現に保護者の選択した保育所で将来保育期間中にわたり保育を受ける利益は、法的に保護された利益である。
 本件改正条例は、上記の法的利益を侵害するもの。
 (ウ)手続上の権利(保護者)について。原告は、保護者に対する説明及び意見聴取という手続上の権利を侵害すると主張する。しかし本件改正条例は手続や効果について何ら規定しないから、原告の主張を処分性の根拠として採用はできない。
 しかし、(上記の手続上の権利とは別に)児童福祉法(33条の4、33条の5)は保育実施の解除にあたっては、解除理由の説明と保護者の意見聴取を定め、行政手続法適用を定めていることからすれば、不利益処分と位置づけられているのだから、この点から本件改正条例の処分性が肯定できる。
 (エ)以上から、児童及び保護者の特定の保育所で保育の実施を受ける利益は、法律上保護された利益であり、本件改正条例は他に行政庁の具体的な処分によることなく必然的に侵害するもの。また改正条例による保育実施解除は法により不利益処分と位置づけられたもの。よって、本件改正条例制定は、「処分」(行政事件訴訟法3条2項)に該当。
(5-1-3)その他の訴訟要件について。既に保育期間が満了した児童原告は、訴えの利益を喪失しているから、これら原告の条例制定取消しの訴えは不適法。また、保護者原告のうち、既にその監護する児童の保育期間が経過した者は訴えの利益がなく、改正条例取消しの訴えは不適法。
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(つづく)





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最終更新日  2006.06.06 05:27:53
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