仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2006.06.06
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カテゴリ: 国政・経済・法律
(■ 保育所民営化が違法? 横浜地裁判決を考える(その1 判決の論理) (06年6月6日)に続く記事です。)
(■ 保育所民営化が違法? 横浜地裁判決を考える(その3 判決の論理・続々) (06年6月6日)に続きます。)
(■ 保育所民営化が違法? 横浜地裁判決を考える(その4 見解) (06年6月6日)に続きます。)
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(5-2)争点2(改正条例制定の違法性)について
(5-2-1)本件4園の廃止と原告の利益の侵害の関係について。地方自治法(公の施設)及び児童福祉法は、入所者がいる保育所の廃止を予定しているとも言える。他方で、法は特定の保育所で保育実施を受ける法的利益を尊重すべきことを規定している(上述)。しかし、公の施設として住民全体の利益に沿う利用がなされるべきだし、最長6年の保育期間内に諸事情が変化することも不可避だから、この利益の保障をもって、保育所廃止についての絶対的制約事由とまで解する(保護者の同意ない限りは入所者のいる保育所を廃止できない)ことは相当でない。保育所の廃止については、諸事情を考慮した上での設置者の政策的な裁量判断に委ねられており、同意なければ違法とまでは解し得ない。

(5-2-3)本件改正条例制定を検討する。なお検討の基準は市議会可決の時点。
(5-2-4)民営化公表までの経緯。横浜市の保育所入所申込者は平成2年以降増加傾向にあり、待機児童が多数発生し、また就労形態や意識の変化もあり、延長保育など多様な保育サービスが求められてきた。市は、限られた予算の中で待機児童を解消すべく施策を進めたが、その基本は市有地を無償貸与する等して民間保育所の設置を誘導するもので、その結果民間保育所数は顕著に増加した。
 かかる状況下で平成14年6月以降、保育所のあり方と行政の役割を審議していた横浜市児童福祉審議会は平成15年2月に市長に本件の意見具申。保育サービスを公立と民間で比較すると、(1)延長保育(2)一時保育は民間が充実、他方(3)障害児保育は公立が充実、また入所率や運営経費の点でも民間が効率が良いなどの点から、今後待機時解消と多様な保育ニーズに応えるためには、民間施設で十分対応が可能な場合には漸次民営化すべきであり、公立保育所も民営化を進めることが必要、と述べている。
 市長は平成15年4月に、「市立保育所の民営化」を含む「重点保育施策」を作成し公表。その中で、移管先法人は学識経験者や市民代表者等からなる選考委員会で決定すること、移管条件として市立保育園で実施している保育内容や新たな保育サービス実施を義務づけること、などが説明され、平成16年4月から民営化を実施し、初年度の実施保育所として本件4園が示されていた。
(5-2-5)改正条例可決までの状況。横浜市は福祉局長名義で本件4園の保護者に文書を送付。また、2月から合計11回の説明会を実施。その場では、民営化決定前に保護者の意見を聴かなかったこと、民営化決定が唐突であることについて、不安や危惧が表明された。市と保護者との関係を見るに、市は本件4園の民営化方針は変更がないことを前提にしていたため、保護者がこの点を了解しない限り建設的な話合いは困難な状況にあり、市は民営化の理由として多様な保育ニーズに柔軟に応える点を説明したが保護者の納得は得られていない。また、民営化の時期の点でも保護者の納得は得られていない。
 また、移管先法人の選定と改正条例制定の経緯をみると、市は平成16年4月の民営化に向けて着々と進めていたが、条例制定時点でもなお民営化には大方の保護者の納得は得られておらず、保護者の疑問・不安を解消させるだけの具体的のある説明がなされたともいい難い。

(5-2-6)民営化の目的について。公立保育所の民営化は、保育所の柔軟な対応を推進し運営を効率化する上で考慮すべき1つの施策ではある。ただ、審議会や厚生省研究会提言などでは、保育所運営の効率化の観点を踏まえて民営化が提言されていることからすると、被告が主張するように、多様な保育ニーズに応えることを主目的として民営化を推進することは、若干趣旨が異なるように思われるが、かかる目的があったことは否定できない。
 原告は、本件民営化は多様な保育ニーズに応えるためのものではなく、市の財政難解決、あるいは市長の人気取りと独自の価値観のために行われた、全く必要性のないものだったと主張し、その根拠として、(1)新たなサービスは結果的にほとんど利用されないこと、(2)市立でも多様な保育ニーズに応え得ること、(3)民営化が待機児童の解消につながらないこと、などを挙げる。
 (1)は、かかる横浜市の目的の推測には論理の飛躍があるように思われる。(2)は、市側の説明は必ずしも釈然としないが、多様な保育ニーズに応えるために民営化を推進することも1つの選択肢だから、(原告主張のように多様な保育ニーズ対応のために必ずしも民営化が必要ではなかったとしても、)直ちに本件民営化の目的が多様な保育ニーズに応えるためではなかったとまでは言えない。(3)の点は、被告も民営化が待機児童解消を直接の目的とは説明しておらず、当を得ない。以上、原告の諸指摘は、「本件民営化の目的が多様な保育ニーズに応えることにあったのではない」ことの根拠とは言えない。
 被告は本件民営化の目的は財政難解消ではないと主張するが、意見具申が財政事情を前提としたことは明らか。また、保護者説明会でも市側は具体的に民営化による財政負担軽減額を説明もしており、福祉局長名通知にも福祉局予算の状況が述べられており、民営化決定の背景事情として財政問題があったことは明らか。しかし、財政問題改善を目的に本件民営化が推進された、とまでは言えず、「被告において予算の増額が望めない中でも多様な保育ニーズに応える必要があるから本件民営化を推進した」ものと見るべきである。
 以上から、本件民営化の目的は、市の財政状況の中でも多様な保育ニーズに対応することにあったと認めて差し支えない。

(5-1-7-1)児童福祉施設最低基準(厚生省令)や選考委員会の移管条件と選考過程にかんがみれば、新法人による保育の質の確保の点は格別懸念される状況にはない。
(5-2-7-2)しかし、民営化の時期については問題がある。市は重点保育施策の公表時点から一貫して本件民営化を実施する姿勢を崩さず、改正条例もこれを追認したもの。被告が実施時期を平成16年4月に定めた理由は、子供の成長の早さを考慮すると迅速に対応する必要がある点にある。この説明は要するに、必要な施策は早期に行うべきという以上のことを述べているものではない。むしろ財政事情が背景にあったと思われる。
 平成16年4月は、移管先法人は決定したものの保護者の理解が得られておらず、市が予定し呼びかけた三者協議会の設置のメドが立たない状況であった。被告としては、種々の手続を積み重ね、移管先法人の都合もあり、予定を軽々に変更できない事情はあったことを除けば、本件民営化の目的(多様な保育ニーズへの対応)からすれば、特別に急ぐべき理由があったとは認められない。
 被告は、先行自治体の事情調査結果から、引継ぎ・共同保育に3ヶ月あれば支障ない旨を再三説明しているが、かかる説明やスケジュール設定は、市の担当者や先行自治体調査者がそう判断したに過ぎず、その前提となる調査結果や調査先選定が明らかにされてもいない。例えば尼崎市でも保護者に民営化に異論があったようだが、これらの意見がどう評価されて判断に至ったのか説明がないと保護者の納得を得るのは困難なように思われる。
 引継ぎ・共同保育の内容を見ると、肝心の何時から何名の保育士がどの程度の頻度で児童と接触するのかが必ずしも明確ではなく、市の課長は引継ぎ・共同保育が予定通り実施されたと認識しているのに対して、保護者原告はそう認識していない。

 こう見ると、引継ぎ・共同保育に3ヶ月あれば民営化に支障ないとの判断は、それほど明確な根拠のあることとは認められず、むしろ、保護者の納得が得られていない状況を前提にすれば、その判断は疑問というべき。
 本件民営化は意見具申に基づいて行われたとされるが、意見具申は、民営化を掲げるものの、実施については既に入所している児童に配慮し、保育環境の急激な変更は行わないこと、民営化に関する情報公開を積極的に行い、保護者の意見・要望を聞きながら、保育向上という共通目的に立った信頼関係の下に進めること、とする留意事項も同時に示している。また、移管先法人(あすみ福祉会)理事長は、市と保護者の信頼関係が構築されなければ実施を延期すべきと考えていると話すなど、信頼関係が構築されていないことを危惧していたとうかがわれる。
(5-2-7-3)市は民営化に向け、その他の措置も予定していた。(1)嘱託職員の継続雇用、(2)臨床心理士の巡回指導、(3)他の市立保育園への転園の配慮、など。しかし、条例制定の適否の観点からすれば、条例がこれら施策を前提に可決されたものかどうかが問題となるところ、これらの施策は本件条例の制定後に被告が決定した可能性が否定できない。比較的早い段階に被告が設置を提案した三者協議会は実現していないが、何らかの施策が行われることは想定していたといって差し支えないようにも思われる。結果的には、(1)及び(2)は実施され、(3)は保護者に説明されたか疑問あり。
(5-2-7-4)民営化が入所児童に与える影響等について。民営化という制度上の変化によって保育の質低下が懸念される状況は認められない(上記)が、制度的な問題とは別に、現実に保育士が入れ替わることによる悪影響が、一時的混乱なのか将来に何らかの悪影響を残すのか、の点は証拠上も明確でなく、現時点で的確に把握できない。
 ただ、本件民営化で保育士の大部分は入れ替わり、保育環境が十分に確立していないところに児童を受け入れるのだから(保育士の転勤等は一定の保育環境確立を前提にしているから事情が違う)、新保育所の側でも個々の児童の把握に困難があり、少なくとも民営化後相当の期間にわたって相乗的な混乱が起こるであろうことは容易に想像できる。
 保育環境を急激に変更させることは児童の成長に悪影響を与えるとの専門家の指摘もあり、ベテラン保育士も保育の連続性の断絶の問題点を指摘している。市の保育指針を示す冊子でも、長期的視点に立った計画的な保育の重要性が説かれ、また市の保育士配置換要綱では保育士の配置換は当該職場の30%までとする旨が定められていることから、保育所の民営化は慎重な対応が要求されると思われる。
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(つづく)





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最終更新日  2006.06.06 05:30:00コメント(0) | コメントを書く
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