仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2015.12.23
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カテゴリ: 東北
(以前の記事)
高専の立地と誘致の歴史(その3 宮城の場合) (2015年12月15日)
高専の立地と誘致の歴史(その2 創設概史) (2015年12月13日)
高専の立地と誘致の歴史(その1 立地状況) (2015年12月9日)

筑波大の大谷奨先生の論文「国立高等専門学校設立過程に関する覚え書き」がインターネットで読めて、大変参考になった。国会における論議を中心に経緯が整理され、当時の法制化に際して社会党の態度、あるいは、いわば慣習ともいうべき地元に用地提供させることに関する地方財政法をめぐる論議など、極めて興味深い。

ここでは、論文から知られる全国各地の誘致運動と地元負担問題に関して、書き留めたい。



1961年3月に学校教育法改正案が閣議決定され、国会では社会党が、教育機会均等の見地から複線化に反対、また、独占資本の要求に基づくものだなどとの論陣を展開した。他方で、翌62年4月から設置するものとされたにも拘わらず具体的な設置場所は未定のままで、この点も社会党は批判している。

国立工業短大を転換させるもののほか、どのように全国に配置しようとしているか政府側の説明は、具体的な年次計画は言えないなどの不明確な内容であったが、法案成立の目処がつき始めると、第一段階ではブロックに1校程度、などと説明している。衆院を通過すると参院ではいよいよ具体の設置計画が論点になる。先に述べたブロック配置を第一期計画として、二期、三期と全国の府県に少なくとも1校は配置し、その半分以上を国立で設置、と政府委員の説明がなされているが、具体的な設置場所は明らかにされないままだった。

6月7日に参院可決、改正法が成立すると、さっそく文部省が具体案の検討に着手と報じられたが、62年度開校はとりあえず全国で5校程度とされたという。しかし既に、函館、八戸、秋田、前橋、金沢、高松、新居浜、阿南、佐世保、長野、佐賀の11市が誘致運動を盛んに展開と伝えられていた。さらに、秋の臨時国会では、広島、熊本、岩手、大分、埼玉、滋賀の各県、都城市、鹿屋市から陳情書請願書が提出。

結果として、当初の計画を上回る12校(おだずま注:国立高専の設置数)が翌年開校した。

2 地元負担問題

各地の誘致に際しては、「土地建物は用意済み」「土地はタダで提供」が行われ(新聞報道もその点じたいを特に問題視しない)、文部省も土地は地元が負担を前提にした概算要求(校地取得費は計上しない)を行っていた。

61年秋の臨時国会で社会党の質問に対し、自治省局長(奥野誠亮)は、地方財政法、地方財政再建推進特別措置法の観点から、形式はもちろん実質的にも自治体の負担とならない措置をとるよう文部省大蔵省に求めた、として自治省としては地元負担を容認できないことを答弁。荒木文相は、国立学校設置の際に地元が用地を提供するのは明治以来の慣行で地元一般もそう思っている、しかし、法的な問題は慎重に検討するなどと説明。

結局、翌年の通常国会には、土地取得費を計上しない予算案と国立学校設置法改正案が提出されたため、野党は激しく反発することとなる。まず、設置場所について、全国の陳情ある50箇所弱のうちで、なぜこの12校なのか。政府資料では、(1)工業立地条件、(2)全国の配置バランス、(3)教員確保見込み、(4)地元協力態勢、を選定方針としたが、(4)のうち敷地確保の確実性を考慮とされた点が追及され、文部政務次官(長谷川峻)は、土地を国が出すのは大変なこと、地元負担により大蔵省も認めた、などと説明。

高専制度決定後は野党も誘致に奔走していたこともあり、野党も法案阻止までの態度はとらず、衆院では、地方公共団体及び住民に過重な負担を課すことのないよう措置すべきとの自民提出の附帯意見が全会一致で決議された。

このことは、それまで自明とされた地元負担を顕在化させ、根本的に問い直す機会となった。

3月の参院の審議では、荒木文相、水田蔵相は、自治体の寄附ではなく、工専設置協力会や規制同盟会などの「民間の浄財」(自治体の寄附もこの組織に対して行われる)であるとの点を強調している。これとは別に、政府は自治省の提案にもとづき、合法的な方策として、自治体の土地と国有地を交換する方法を検討。「文部省としては、交換を主な方法として、どうしてもできないところは地元負担とした」ことが、北海道議会で説明されている。



地元負担問題は10年もたたず国立医学部増設に際して、再燃した。





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最終更新日  2015.12.23 10:06:53
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