全4件 (4件中 1-4件目)
1
海音寺潮五郎の有名小説を映画化した角川作品。原作は上杉謙信の生涯を描いたものであり、クライマックスの川中島決戦はじめ、武田側ではなく上杉側の視点で語られたのは珍しかったが、映画化に当たってはかなり手が加えられた。私は上杉派なので(深い意味はない)『風林火山』などよりも好きなのではあるが、映画としてはかなり残念な仕上がりである。映画では物語を謙信の越後統一(1550年)から第4次川中島合戦(1561年)の間に絞っている。謙信を演じたのは榎木孝明。当初は渡辺謙でスタートしたが白血病で降板し、次いで松田優作に白羽の矢が立ったが、やはり病気で実現しなかった。謙信はおなじみの僧形ではないが、実際に出家したのは1570年であり、史実に近い。その他、多少史実に反する場面はあるが、クライマックスの川中島合戦はほぼ史実どおり。というか、このシーンのために作られた映画と言っていいだろう。上杉軍を黒、武田軍を赤にはっきり分けたのは視覚的にも優れているが、乱戦でどっちがどっちだか判らなくなるのを防ぐ意味もあろう。もちろん実際にはこんなにはっきり分かれてはいなかったはずであるが。 この決戦シーンは大量のエキストラを導入し、CGでは味わえない壮大さがある。騎馬隊の進軍などかなりの迫力。しかし肝心の戦闘アクションがどうもイマイチなのだ。騎乗のまま戦うのは実際非常に困難だとは思うが、どうも気が抜けるというかテンポが良くない。そういえば似たような映画があった。1970年のイタリア=ソ連合作映画『ワーテルロー』である。旧ソ連軍の全面協力で再現されたワーテルローの戦いは、大軍勢の行進などは迫力満点であったが、戦闘シーンとなると具体的な描写に乏しく、拍子抜けだった。それが本作にも当てはまってしまう。 上杉家中きっての猛将・柿崎景家/筏に乗って現れる村上義清隊助演者にもあまり恵まれず、津川雅彦の信玄は軽すぎ。渡瀬恒彦の宇佐美定行(謙信の重臣だが裏切る)も今ひとつ煮え切らない出来だった。せっかく室田日出男、夏八木勲らクセのある役者がいるのに活かされていなかったのが残念。また、音楽もミスマッチ。小室哲哉では仕方ないか。音楽だけ聴けばそれほど悪くはないのだが、映像に合うかはまた別。ただ、ロケ地は素晴らしかった。場所はカナダのカルガリーで、妻女山に見立てた山が特異で目を惹く。実際にはこんなに峻険だったわけではないだろうが、映画的でなかなか良い。妻女山へ向かう上杉軍。標高高すぎ。 この映画の凄いところは興行成績。歴代23位(日本国内。洋画含む)となる100億円も稼いだのだ。『インデペンデンス・デイ』や『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』『ダヴィンチ・コード』よりも上だから驚く。かつての角川映画のパワーを見る思いである。現在の川中島古戦場監督:角川春樹 製作:角川春樹/大橋渡 原作:海音寺潮五郎 脚本:鎌田敏夫/吉原勲/角川春樹 撮影:前田米造 美術:徳田博 編集:鈴木晄 音楽:小室哲哉1990年・日本 / 118分 / 評価:3.0点 / 子供:○
Apr 25, 2008
コメント(1)
ベルトラン・タヴェルニエ監督の代表作とも言われる1984年の作品。1900年代初めの田舎町に住む老人の一日を綴っただけのものではあるが、実に丁寧に作られた佳作である。原作者のピエール・ボストは『禁じられた遊び』を書いた人。フランスの田舎町。老画家ラドミラル(ルイ・デュクルー)は広大な敷地をもつ屋敷に独り暮らし。住込みの家政婦は遠慮がないが、出て行かれては困るのでいつもラドミラルの方が折れている。日曜日の今日は息子ゴンザグ(ミシェル・オーモン)の一家が遊びに来る日。子供達は屋敷に着くなり悪戯し放題。息子はラドミラルそっくりの堅物。そういえば嫁も同じだ。しばらく歓談するとやがて昼食。その後は午睡に。静寂を破ったのはラドミラルの娘、ゴンザグの妹であるイレーヌ(サヴィーヌ・アゼマ)だった。パリから車で駆けつけた彼女はゴンザグの子供たちにも人気で、屋敷は途端に賑やかになる。しかしイレーヌには彼女なりの悩みがあった。パりに戻ろうとするイレーヌを引き止め、ドライブに連れて行ってもらうラドミラル。イレーヌはいつもアトリエの隅ばかり描く父に、もっと人間を描くように勧める。楽しいひと時を過ごすが、やはりイレーヌは帰ってしまう。夜になり、息子一家も帰った。アトリエに入ったラドミラルは新しいカンパスを立てると新作の構想を練るのだった・・・。田舎と言ってもパリから汽車で1時間、車で45分と言っているので、そんなに遠くはないのだろう。東京からだと高尾あたりのイメージか。パリよりは南方らしく、並木や芝の緑がきれいだ。息子一家、妹(独身)ともかなり頻繁に実家を訪れているようだが、老父は芸術家ゆえ繊細でもろく、寂しさに耐えられない。特に皆が帰ってしまった後の静寂は無理からぬもので、これは誰でも多少経験があるだろう。息子も嫁も自分に似て堅物。娘はやや奔放。未婚だからかもしれないが、やはり娘は放っておけないラドミラル。僅かだが自分の殻を破ろうとするラストがほほえましい。中流よりも上の家庭をひたすら情感を込めて描いた作品であり、いろいろ揶揄されたこともあったそうだが、何もヌーベルバーグのように斬新なものばかりが良いわけでもなく、洋の東西を問わない普遍的な要素がこの作品にはあるのだろう。外見がちょっと藤原釜足に似ている舞台出身のルイ・デュクルーは73才にして映画初出演であったが、サスガに上手い。イレーヌ役のサヴィーヌ・アゼマも娘・妹・叔母・経営者・恋愛中の女性という様々な面を自然に演じ分けていて良かった。セザール賞の主演女優賞を取っている。少々物足りなさはあるが、なかなか心に染みる作品である。波長が合えばだけど。監督:ベルトラン・タヴェルニエ 製作:ベルトラン・タヴェルニエ/アラン・サルド 原作:ピエール・ボスト 脚本:ベルトラン・タヴェルニエ/コロ・タヴェルニエ 撮影:ブリュノ・ド・ケイゼル 音楽:ガブリエル・フォーレ 1984年・フランス / 95分 / 評価:4.0点 / 子供:○
Apr 18, 2008
コメント(2)
『ポーイズ・ボーイズ/ケニーと仲間たち』(1976)|で少年たちの日常を情感たっぷりに描き、好評を博したドン・コスカレリは、その2年後、『ボーイズ・・』の主演マイケル・ポールドウィンを用いて、少年の目から見た恐怖をヴィジュアル化したホラー『ファンタズム』を発表。現実と非現実の境界を取り払った新鮮さが評判となり、アボリアッツ国際ファンタスティック映画祭(ファンタジーやホラーが対象)で審査員特別賞を受賞した。一躍有名となったコスカレリは以後『ファンタズム』シリーズ専門のようになり、1作目から9年後の1988年に『ファンタズムII』を発表した後、1993年『III』、1998年『IV』と5年ごとに続編を送り出した。そして2008年、ついに5作目が登場する予定である。アメリカではそこそこ知られたシリーズであるが、我が国では極めてマイナーであり、3・4作目は劇場公開されなかった。それが昨年全作品DVD化され陽の目を見るようになったことは、長年付き舎ってきた身からすれぱ嬉しいような、そうでないような、複雑な心境である。 それはともかく、『III』である。冒頭、『I』と『II』を上手く編集してこれまでのあらすじか流れる(観てないと判りづらいだろうが)。特にもう絶対無理と思われた前作ラストからの強引なつながりには感服。ここで主人公マイケルがマイケル・ポールドウィンにすりかわる。言うまでもなく1作目から13年ぶりの登場であり、ストーリーの進行(1作目から10年後の設定)と一致していて違和感がないのがいい。前作『II』のヒロイン、エリザベス(ポーラ・アーヴィン)があっけなく殺されてしまったのは残念だったが。『ファンタズムII』のポーラ・アーヴィン前作から完全にアクション映画となったので、今回も助っ人が必要である。レジー(レジー・バニスター)は年齢の割には頑張っているが、肝心なところで頼りなく、また例によってスケベ心を起こして失敗したりするので、相棒役が欠かせない。今回は何とまだ幼い少年のティム(ケヴィン・コナーズ)。小学生くらいなのだが、両親のいなくなった自宅を守って強盗達と戦ってきたキャリアがあり(父親が保安官だったので銃器類は充実)、侵入してきた強盗や悪人は容赦なく殺害する。『ホーム・アローン』なんて甘ちょろいものではない。このティムと途中で出会った元兵士の女性ロッキー(グロリア・リン・ヘンリー)が仲間となり、宿敵トールマンに拉致されたマイケルも途中から加わるが、マイケルには何か隠された秘密がありそうで、重荷を負っている感じ。ちょっと『ロード・オブ・ザ・リング』のフロドのようだ(奇しくも本作のサブタイトルは「Lord of the Dead」と言う)。今回は1作目で死んだマイケルの兄ジョディ(ビル・ソーンベリー)も別の姿で現れ、彼らの手助けをする。まるで『スター・ウォーズ』のオビワンか『ゲゲゲの鬼太郎』の目玉親父か、と言ったところだが、生死を超えた兄弟愛がミソであり、何だかホロっとする。結論から言うと『I』には及ばないものの、『II』よりは上出来だと思う。アクション・シーンは『II』と同じぐらいだが、物語全体の骨格が整ってきており、また恐怖の球体スフィアや手が変形したクリーチャーなどの出来栄えもよろしい。グロさも『II』より低い。因みに本作で一番グロテスクなのは、強盗をティムが倒すシーンである。 おっと、忘れてはいけない、宿敵トールマンは今回も健在である。演じるアンガス・スクリムは当時既に67歳。多少の衰えは仕方がない。現在は82歳になっているが、新作『V』にも出演しているようだ。監督:ドン・コスカレリ制作:ダック・コスカレリ/ドン・コスカレリ脚本:ドン・コスカレリ撮影:クリス・チョーミン編集:ノーマン・バックレイSFX:ケヴィン・マッカーシーオリジナル音楽:フレッド・マイロー/クリストファー・L・ストーン1993年・アメリカ / 95分 / 評価:4.0点 / 子供:×
Apr 11, 2008
コメント(1)
今夏、約20年ぶりに「インデイ・ジョーンズ」が復活する(『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』)。主演のハリソン・フォードは既に66才。以前のようにはいかなくともそれなりにアクションシーンもあるようで、期待される反面ちょっと不安もあるような。ハリソン・フォードと言えばジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』で一躍有名となりましたが、同作品にはもう一人主演男優がおりました。言うまでもなく、ルーク役のマイク・ハミルですが、『スター・ウオーズ』後はあまり目立った作品はなく(『光る眼』位か)、近年はTVドラマなどでいやらしい中年の役を演じたりしているとか。そんなハミルの代表作にあげられるのがこの『最前線物語』です。米陸軍第一歩兵師団に所属する一分隊。4名の二等兵(マーク・ハミル、ロパート・キャラダイン、ボビー・デ・シッコ他)は古株の軍曹(リー・マーヴィン)と共に北アフリカに上陸する。作戦時には必ず先鋒を命じられるので4名は不満を持ちつつも次第に成長し、どんな激戦でも生き残るため『四銃士』と呼ばれるようになる。分隊は北アフリカから欧州へ。ドイツ軍の抵抗は激しいが、部隊は一歩一歩駒を進めていく・・・ 原題の「The Big Red One」は米陸軍第一歩兵師団の別称で、同時にその肩章を差します。本作は師団所属の一分隊の第二次世界大戦中の足跡を綴った内容ですが、若輩4名がベテラン軍曹に鍛えられ徐々に逞しくなっていく、人間ドラマとしての比重が大きくなっています。といってもいきなり超人になる訳ではなく、様々な経験を通じて少しづつ成長するので、印象はかなリ地味です。北アフリカ上陸~シシリー島上陸~ノルマンディー上陸~アルデンヌの戦い~チェコ進入というそれぞれ大きな作戦を舞台にしているので、戦闘シーンもそれなりに迫力はあるのですが(特にノルマンディ上陸は『プライベート・ライアン』には負けるものの、かなりの迫力)、基本的に少人数の小戦闘なので、昔のTVシリーズ『コンパット』を思い出します。 またリー・マーヴィンだと『特攻大作戦』も連想しますが、本作でのマーヴィンは第一次世界大戦にも従軍した老軍曹という設定であり、『特攻大作戦』のように無茶苦茶をしたり、部下を激しくしごくということはありません。指示は厳しいものの口数は少なく、若手のよき理解者といったところ。後半は軍曹のヒューマンな側面がさらに強調されてきますが、第一次大戦時の出来事がよい伏線になっており、嫌味はありません。チェコのユダヤ人収容所で、大量の焼殺体を見たハミルが呆然となって敵兵の死体に延々と弾を撃ち込むシーンがあるのですが、普通なら軍曹は「もう止めとけ」と止めるでしょう。でもここでは「もっと撃て」と静かに予備の弾倉を渡すのです。軍曹の優しさと過去への想いが滲み出てなかなか素晴らしいシーンでした。そして軍曹が肩車に乗せた少年の死。このシーンは短いですが強く印象に残ります。ハミルは準主役扱いなので他の3人よりは見せ場があります。ロバート・キャラダインはキャラダイン兄弟の末弟。ボビー・デ・シッコは当時「80年代のアステア」と呼ばれたダンスの名手で『1941』にも出ていました。マーヴィンが語る兵士の極意「生き残ることだけが真の栄光」が耳に残ります。安直な反戦映画など吹っ飛んでしまう本音の映画。といってもただ重いわけではなく、娯楽性も兼ね備えているのでなかなか大したもの。かなりお勧めできる作品。渋いです。監督:サミュエル・フラー 製作:ジーン・コーマン 脚本:サミュエル・フラー 撮影:アダム・グリーンバーグ 音楽:ダナ・カプロフ 1980年・アメリカ / 110分 / 評価:4.5点 / 子供:○
Apr 4, 2008
コメント(0)
全4件 (4件中 1-4件目)
1