草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年07月07日
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修理の介も持て扱い、放せ、放せと止どめたけれども、耳にもさらに聞き入れず、女房が取りつい

て、あれ、お師匠様の御意がある。おとましや(疎ましい、困った)の気違いであるよと捥ぎ離せば

、女房を取って投げ、はたと蹴って、睨みつけて、おのれまでもが気違いとは、ええ、女房さえ

あなどるのか、片輪は何の因果ぞやと、どうど座を組み畳を打って、声も惜しまずに嘆きける。心

ぞ思いやられける。

 将監が重ねて、汝よく合点せよ、絵の道の功によって土佐の名字を継いでこそ、手柄とも言うべ

けれ。武道の功に絵描きの名字、譲るべき仔細無し。ならぬ、ならぬと、言い切り給えば、女房は

居直り、さあ、又平殿、覚悟さっしゃれ、今生の望みは切れたぞや。此の手水鉢を石塔と定め、こ

なたの絵像を描きとどめ、この場で自害してそのあとのおくり號(ごう)を待つばかりと、硯を引き



朽ちるとしても、名は石魂に留まれと、わが姿をわが筆の念力で徹したのだろうか、厚さが尺余の

御影石、裏に通って筆の勢い、墨も消えずに両方から一度に描いた如くである。

 将監は非常に驚愕して、異国の王義之、趙子昻が石に入り、木に入りても、和画において例(た

めし)なし。師に勝ったる画工であるぞ。

 浮世又平を引き換えて、土佐又平光起(みつおき)を名乗るべし。この勢いに乗って、姫君御朱印

諸共に取り返せとありければ、はっとばかりに又平は忝しとも口は吃(どもり)礼より外は涙にくれ

て、躍り上がり飛び上がり、嬉し泣きするのは道理であるよ。

 将監夫婦は悦びて、心を剛にて志は篤けれども、敵に向かって問答すること如何あらんと宣えば

女房は聞きもあえずに、常々は大頭(だいかしら、幸若舞の一種)の舞が好き。わらわ諸共に連れと

脇にて舞われたが、節がある場合には少しも吃り申されずと言う。

 やれ、それこそは究境(くっきょう、最もよい、最も都合がよい)よ。心見に一節目出度く舞っ



 去るほどに鎌倉殿、義經の討っ手を向けるべしと、武勇の達者を選ばれたのだ。それは、土佐

坊、これは又、土佐の又平光起が師匠の御恩を報じようと身にも応じない重荷を負う、それではな

いが、大津の町や追分の絵に塗る胡粉は安いのだが、名は千金の絵師の家、今住んでいる墨色をあ

げたのだ。

 かくて女房は勇みをつけ、又もや御意の変わるべき、早御立と勧めける。



彩色に劣らじと勇み進みし勢いは、由由し頼もし、われながらあっ晴れ絵筆の健気さよ。唐絵の樊

噲・張良を盾についたと思召せ。

 お暇申してさらばとて、打ち立ち出る勢いは、誠に諸人の絵本ぞと、おお、褒めぬ者こそなかり

ける。

 逢坂の関、曙近き火の用心の声、高島の屋形では六角殿の姫君が行方・姿を見えさせ給わぬとて

、旅人の改め、問屋(街道で馬や旅籠の継立をする宿)の詮議、土を掘り返さん程の念の入れよう

だ。

 又平は今朝、七つ(午前四時前後)立ちで、門出を祝う中椀に、例の如くに熱燗を三杯引っ掛け

て、打っ立つ所にやんごとなき上臈で、素足が土にくずおれて伏見の方からうろうろと、これ、そ

こな者、京の道を教えてくれ。草鞋(わらんじ)とやら言う物を履かせてくれと詞つきの大柄さ、、

又平はむっと顔に立ちはたかって返事もしない。

 女房が走り出て来て、大抵の御方ではない、威の備わった見所があると、お側に参り、恐れなが

らお屋形の姫君様と見参らす、我々は土佐の将監の弟子で吃(ども)の又平と申す絵描きの夫婦、狩

野の弟子の雅楽の介に頼まれお迎えに参る折からなり。必ず包ませ給うなと囁けば、嬉し気に、お

お、自らこそは銀杏の前、道犬雲谷の追っ手に隙間が無い。よいように頼むぞやと宣うので、又平

は土邊に額を擦り付けて喜びの色、勇みの色、気を急けばなお物が言えず、心を仕方の腕まくり。

 力み、反り打ち、居合の真似の抜き打ち。なで斬り、拝み打ち、組み合い、捩じ首手に取って握

り拳の武士気(ぎ)を現わし、埴生(自分の小さな家)に匿(かくま)い参らする夫婦の所存ぞ頼もし

き。

 程なく八町走井(はしりい)の、問屋組頭(くみかしら)、組町を引き具して、起こし返って声々

に、六角殿の姫君朱印を盗み出されて、御家老から御詮索、裏屋小路も改めよ、別して絵描きは家

探し有る人は勿論、犬猫も内から出すな。と、裏口門口ばたばたと、さしもの又平取りこめられ、

狩場の鹿の如くである。

 不破の伴左衛門、長谷部の雲谷は着込み(上着の下に着る鎖かたびらの類)の兵(つわもの)百

騎ばかりが群立ち来たって家々に押し入り、押し入り、探しける。

 又平は一期の浮沈ぞと女房諸共に姫君を押し囲い、隣をがばと蹴破ってぐっと抜けたる壁は厚

い、氷のようなる大刀(だんびら、刃の幅の広い刀)物で、差し出す首を片端から、きき、きき、き

き、きき、切り並べんと壁にそって突っ立った。

 雲谷が声を掛けて、やあ、やあ、これぞ音に聞く土佐の弟子の吃(ども)の又平めが住処である

か。叩きこぼって探して見よ。

 承ると、一番手が捕った、捕った、捕った、捕ったと、度っと寄せたのだがしどろになって引き

返し、なう、怖や、凄まじいや。何かは知らず家内には人が大勢みちみちて、或いは奴の形もあ

り、又は若衆女もある。人間ばかりか猿や猪、鷲・熊・鷹が爪を研ぎ立て眼を怒らせていて寄り付

くどころではないぞ。

 なう、なう、いややと身震いをして、舌を巻いてぞ恐れける。

 何をぬかすか、狼狽え者め。人が三人も住めないあばら家だ、何者かあるべきぞ。察する所、店

に貼った三文絵を生き物と見違えたか。怖いと思う心から眼(まなこ)が眩んだ腰抜け共、それそ

れ、蔀をこじ放せ。ぬるい、ぬるい、と下知すれば、鳶口をひっかけて、えいや、えいやと難なく

店を放したのだ。

 内を見れば不思議やな言いしに違いなく、荒奴との影ともわかず、幻とも、まだ仄暗い暁の鳥毛

の槍の先を揃えたのは土佐の魂写し絵の精霊なりとも知らばこそ、我も我もと駆け向かい、打てど

も突けども手に取れない露の命を君にくれべいと、染めただいなし(奴の着る筒袖の着物)嫌いな

し。相手を選ばずに防いだのだ。に
 雲谷の弟子長谷部の等巖(とうがん)数にも足りない糟奴(かすやっこ)、我に任せとまくりかかれ

ば片肌を脱いだ鬣男(たてがみおとこ、月代を剃らずに伸ばした男)が大盃をひらり、ひらりとひ

らめかして、相手の眉間にふった唐辛子、おお、辛い、おお、唐錦(からにしき)綾目もわかず引

き返す。

 師匠の雲谷は堪り兼ねて片端から打ちみしぎ手並みを見せんと飛んでかかった。やさしや優者

(ふじむすめ)の女業には奇特頭巾、藤のしなえ(しなやかに伸びた枝)を押っ取り延べ、ひん纏って

はたと打ち、しとと打つのをひらりと外し、受けた。

 ほどいた麻の衣、玉襷、甲斐甲斐しい若い法師が現れ出て、勇んでかかったその姿は波や鯰(な

まず)の瓢箪、瓢箪、もって開いて鉢叩き、叩けば滑り打てば滑り、ぬらり、ぬらりと手にたまら

ず。あぐみ果ててぞ支えたる(防ぎ止めた)。

 不破の郎党は犬上團八、そこのき給え、人々と、打って出づるや現(うつつ)の闇に、座等一人が

とぼとぼととぼつく杖を振り上げ、振り上げ、盲打ちにぞ打ったのだ。

 あまさじものをと続いてかかる團八の弟犬上三八、二八、十六歳程の小人(少年、大津絵の画題)

枕返しの曲枕おっとり、おっ取り、はらり、はらり、はらはらはら、打つ波枕・数枕・枕重重ねに

打ち乱れ、ちりじりにこそ引いたのだ。

 伴左衛門は怒りをなして、手にも足らぬ雑人(ぞうにん)ばら、しや、何事かあるべき、武士の

刀の塩梅を見よと、真一文字に駆けたのだ。

 あら、凄まじや、こは如何に、姿は沙門で頭は鬼神、鬼の念仏を嚙み砕く。牙を鳴らし、角を振

り、向かう者の真向から撞木(しもく)を持って叩き、鉦をくわん、くわん、くわん、くわん、くわ

ん、耳にこたえ骨にしみて、進みかねては引き足も隼・荒鷲・熊鷹、一度にさっと飛び来たり、群

がる勢を八方に追ったて、蹴立て、つつき立て、啄(つつ)きたて、翼の嵐、夜明けの風、鷲の声々

が逢坂の木綿付け鳥に白ら白らと白み渡れば白紙に、在りし形は彩色の絵に映りたるふでの精、天

骨(天才)の妙とでも言うべきだろう。又平は勇んで女房の袖を引き、物は言いたし、心進んで舌が

廻らない。ただ、うう、とばかりなり。

 ええ、此処な人、敵が詰めかけて事急な、廻らぬ舌を言われぬことと、舞で舞でと言いければ、

おお、それよそれよ、気が付いた。今日、前の不思議を身よ、我らが手柄で更になし。土佐の名字

を継いだる故に師匠の恩の有難さ、敵の中に駈け入って命を限りに追い散らさんと、大勢に割って

入り、西から東、北から南。蜘手(くもで)結果(かくなわ)十文字に割りたて(激しく斬り立てる様

子)、追ん廻し、散々に斬りたてられて、さしもの軍兵も堪り兼ねて八方に逃げ散って、残る物こ

そなかりける。

 さあ、してやった、この上は、ここ、ここ、ここ、此処には片時も叶うまじ、都の方へと姫君

を、おお、おお、おお、おお、逢坂山の時鳥、まだ初声の口は吃(ども)り、心は鉄石金頤(かな

おとがい)に勝った、優れた、越えた峠は日の岡の、石原草原、足もしどろに、どど、どど、ど

ど、吃(ども)り廻ってのの、のの、のの、上りける。

             中 之 巻

 里は京の未申(ひつじさる、西南方)なり、通いても通い足りぬぞ三筋町、西の洞院中道寺、右衛

門が馬場の一方口、まだ大門の遅桜、忍んで開けて一番門の東が白む、どん、どんと打ったる太鼓

の番太、何者やら、大門口に斬られていると呼ばわる声に、くつわ屋(遊女屋の主人)・揚屋・茶屋

(揚屋より下等で、端女郎を呼んで遊ぶ出口の茶屋の主人)おろせ(駕籠かき)・廓の年寄り立ち合

い、見れば年頃は三十ばかり、究境(くっきょう、立派)の侍、二つ重ねの白無垢白茶宇(外国から

渡来した茶宇縞の絹)に縫い紋紅絹裏(もみうら)に、源氏雲の裾くくみ、南蛮ごろ(鮫鞘の一種)の

大小、對(つい)の金鍔(きんつば)毛彫りは波に山王祭七所、御物蒔絵の印籠、天川(甘皮)珊瑚珠は

さもなくて(傷もないのに)、大疵五か所肝先に留め有りと委細に書付けて、官領所へ訴えさせ、死

骸を囲う横梯子、二階から女郎・買い手・遣り手の亀は首を伸ばして、松は寝惚れた顔を出して、

まだ起き起きの禿共は常彌・生野と手を引き、舟も走って来て、塀に鞍掛け、木に取り付いて、薫

様、あれ、見さんせ、吉野様の大胆な、掃きだめ山に登って、海老の皮で足を突かんすな、突いた

ら大事か、斬られて死なんす人さえ有ると、あだ口々の喧しさ。

 あの斬られている人は、葛城様の大尽、不破の伴様に似たじゃないか。ほんに、そうじゃ、伴さ

まに極まったぞ。

 さあ、伴左衛門が切られたぞと、京童の見物だけではなく、手負いを見がてら傾城を見に、群中

を押しも分けられず、しはや検使と人を拂い、官領の雑式(ぞうしき、検視の使者)供人を引き具し

て死骸を解いて疵を改め、江州高島の執権、不破の伴左衛門に極まったり。

 さて、この者の買った傾城は何と言う。意趣ある者の覚えはないか、口論などは無かったか。真

っすぐに申せ、当分隠して後日に知れたならば、曲事であるぞと仰せなされた。

 年寄りが罷り出て、上林(かんばやし)の葛城と申す大夫を千二百両にて請け出さるる筈の所、名

古屋山三と申す浪人と葛城と、行く末深い約束とて談合がなりかねて申せし故に、両方が意趣を含

んでいましたが、是ならで覚え候わずと詳らかにぞ言い分けた。

 雑式は一々を口書きして、名古屋山三は浪人であるが、もとは伴左とは朋輩、かたがた大事の詮

議である。先ずは葛城の遣り手を呼べ、遣り手出ませと呼ぶ声に、玉は臆病で年寄りである。

 やら、恐ろしや、私が出て何と言おう。縛られたらどうせうぞ、なう、悲しや、目がまうた。気

付けは無いかと泣いている。





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最終更新日  2025年07月07日 20時37分01秒
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