草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年07月10日
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これでは埒があくまい。どれぞ、機転な遣り手衆を頼んでみようと言っているうちに、出ませ、出

ませと頻りの使い、えい、思い付いた、一文字屋の和国についているみやと言う遣り手は、越前の

敦賀で遠山と呼ばれた全盛の大夫、恋ゆえに今はあの體(てい)、すすどげなうて(きびきびしてい

て、機敏そうで)智慧満々、閻魔の庁でも言い抜ける、このみやを頼もう。

 あれあれ、あそこへ大福帳を担げて(集金の途中である)来るは、みやではないか。と言っている

所に、おしょぼからげの(背縫いの帯の下のへんを帯の中にたくし上げる事)忙し気に、皆さんこれ

に御座りまする、まあまあ、けうとい(とんでもない)事が出来まして、ご苦労でござんすと言い捨

てて通るのを、これこれ、おみや、検視の衆が葛城の遣り手を召されたけれども、玉は愚鈍で臆病

なり。何を御問なされようやら、言い教えてすまぬこと、廓中の頼みじゃ、葛城の遣り手に成って



えず(怖い、恐ろしい)、さりとても、嫌と言うのも仔細らしい(勿体ぶっている)言いそこなった

なら大事だろうか(大変だろうか、大したことはあるまい)、口に任せてやってくれよう。てんぼ

の皮(ままよ、構うものか)と出て行ったのだ。

 雑式は鐵鞭(房つきの紐をつけた細い鉄棒)を横たえて、おのれは葛城の遣り手であるか、用が有

って召し出すのにどうして遅くなったのだ。横着者、気随者めと叱られる。

 ああ、あの様(さん、あの方、あのお人)はいの、頭から叱らんす、何の気随でごあんしょ、十二

人の大夫様を一人して廻せ(動かす)ば弁慶(義経主従十二人を弁慶が一人で動かし安宅の関を越え

たのに譬える)遣り手の忙しさ、口説(痴話げんか)の中を押し隔て、打ち物業にて叶うまじと日に

幾たびの詫び言やら、夜の身持ちは揚屋の吸い物同然に、ちょっちょっと座敷に出る度に一杯ずつ

飲む酒に、ふらふら眠りの行き倒れ、朝から晩まで緋の袴、花色(薄い藍色)繻子(じゅす)の巾着

も、中は空で秋の夜の長紐、下げた鍵の穴から天を覗けば、ほのぼの明け、妓(よね)様達の身じま



二日の拂い日なり。灸(やいと)も据えたし、卯腹辰股(卯に日には腹、辰には股に灸を据えない禁

忌)背中に腹、商売には変えられず、皮切り堪え(最初の灸の特別な痛さを堪え)て出る心。

 その様に言わんすな、廓は諸国の立ち合い(人々が立ち混じる所)、常住切っての張ってのこれ程

の喧嘩は、お茶の子の、この茶の子ぞや、ああ、仰山なと笑いける。

 雑式が怒って、いやさ、己が身の上は問わず、この伴左衛門は千二百両で葛城を請け出すとな、



ぶとはうぬらがもがり(詐欺)と覚えたり。斬り手も知らなくては叶わぬはずだ、真っすぐに申せと

詞も荒く、問い掛けた。

 少しも臆せずに会釈して、御意の通りに売り物とは申しながら、神仏の奉加と同じことで、金を

出しながら拝まさせるは恐らく世界に傾城ばかり。

 買ってくれるのが嬉しいとて、親がかりやお主持ちの恋路の闇の一寸先見えぬ所を側から見て、

買い手のお身もすたらず、女郎ものぼさぬ(夢中にさせない)様に、舵を取るのが引き舟、目の鞘外

すのが遣り手の役、大事にかける証拠には世間に心中が十あれば、廓に一つ有るか無し。

 伴左様は、御大身でお金に不足はあるまいが、御主人の御耳に立ち、お身の害ともなる時は語一

門の評議にのり、人を剥ぐの騙すのと落ちる所は廓の難、ここの意気を立てるのが色里のたしな

み、見請けの談合破れたのも伴左様のお身の上、大事に思う上の事で御座んす。

 道で斬られさんしたのは、そこまでは存じませぬ。定めし死にとも有るまいしもっとも逃げても

みさんしに、そこに如才もありますまいが、先の相手が強いか、身の取り廻しが悪かったのか、知

らんでやんすと答えたのだ。

 検視の人々も持て扱い、よいは、よいは、もう黙れ。一時に詮議はなり難い。死骸を酒に浸し

置き、後日の評定たるべし。

 それそれとて、役人共は桶をしつらえ死骸を収め、酒を汲みいれて縄をからめ、牢屋へ遣れと舁

き上げた。

 雑式は重ねて、これ、年寄り、年寄り、商売であれば傾城には構いはない。さりながら、夜前よ

りの買い手共は事が済むまでは名所を一々に書き留めよ。こりゃ、遣り手め、重ねての詮議には水

をくれる(水責めにする)、用心せよと脅し立てたのだが、怖じもせずに、えい、置かんせ、金をく

れる遣り手に水をくれるとは悪(わる)ごうな(悪い悪戯)と笑いをしおに言い白け(雑式は言い負け

て返答出来ず)先を拂って立ち帰った。

 権威を見せて突き鳴らす鐵棒(かなぼう)の音が三味線に引き変わりたる三筋町、恋の市場と艶め

かしい。

 名古屋山三、春平(はるひら)は通い馴れた六条の道には石がいくつあるまで読み覚えて知って

いる。その一貫町の茶屋が葦簀(よしず」のよしやよし、里に擲つ命ぞと、大門口の與右衛門も門

番には二代の後胤、平らの知盛ではないが、供をして口も軽く、舞鶴屋にぞ入ったのだ。

 亭主の傳三を始めとして、あまたの女郎や遣り手までが、これは、これは、様子は御聞きなされ

ていらっしゃるでしょうが、先ず四五日はお出でなされぬがよいでしょう。日頃意趣有る伴左衛

門、斬り手は名古屋山三じゃと、どこともなしの取沙汰、葛城様の御案じ、我等夫婦の気遣い、こ

のおみやの弁舌で今日はずらりとやりましたが、伴左衛門の死骸は奈良漬けにして後日の詮議、殊

に御客の名所を書き付けろとの言い付けで、お身に覚えがなくても詮議、詮議が喧しい。

 お前を外様(とざま)につくばわせては、この傳三が立ちませぬ。

 御手前こそは懇ろ、廓中の女郎衆に苦労をかけた、この山三が穿鑿にあうのかと、悲しやとかが

んでいる程ならば、里通いも妓(よね)交じりもしないほうがよい。先ずは和国様からお礼申す。大

事の遣り手をお貸しくだされ忝い。

 さて、みやの働き志、言葉の礼は言う程古い。三千石取った山三が手を突いて頭を下げる。額に

千石、両の手に二千石、主人の外では一生にこの式作法はみや一人、是が礼ぞと手をつけば、あ

あ、勿体無い、何のお礼がいりましょう。ちょっと葛城様に逢わせてから往なせたいものですが、

私が行けば目にたつ。和国様、一筆進ぜてくだしゃんせ。

 いや、文もいかがじゃ、わしらが直に誘って、遊びに出る顔で連れまして来ましょう。さあ、み

んなござんせと座敷をこそは立ったのだ。

 然らば此処は人も来る、二階にお通りなされと言えば、やれ、何が怖くて隠れましょう。伴左衛

門を斬ったのは誰だと思うか。この山三が手にかけて討って捨てたるぞ。葛城の意趣は僅かな事

で、彼めと朋輩たりし時に狩野の四郎二郎を身が取り持ちて、奉公に出した所、伴左衛門親子が雲

谷と言う絵師を引き、御在京の留守に無実を言いかけて刃傷に及び、四郎二郎は行き方が知れず、

あまつさえ外戚腹(げしゃくばら、妾腹)の姫君・銀杏の前、四郎二郎に心を懸けて御祝言があると

ころを妨げを入れて狼藉し、某をさえ讒奏して浪人の身となったれば、重々の遺恨である。

 殊に、四郎二郎は隠れもない名筆で、大内絵所の官にも進む身を某が強いて国に留めて、難儀を

かけて見ていられず、姫君と夫婦になし、四郎二郎さえ出世するならば、本望、本望、生きておか

ば四郎二郎に如何なる仇をかなすべきと、傾城の意趣を幸いと、討って捨てたる伴左衛門である。

知れて切腹するばかり、四郎二郎故に捨てる命だ、いささか惜しいと思うにこそ、武家に生まれた

不祥(因果)には大門口で立腹切り、新造衆や禿共、芝居でするような事をして見せよう。

 やあ、葛城はどうじゃの、亭主唄えと三味線の天柱(てんじ)に顔を筋交いに身構え、糸の音色も

目の色も人を斬ったる躰もなく、亭主は結句色を違え、先ずお話はいらぬもの、内外(うちと)の者

共必ず仇(無駄)口はきくまいぞ。と、わなわな震え手酌でやたらに飲んでいるのだった。

 みやも聞くより驚いて、さては、わが二世までと思い込んだる四郎二郎様にかくまで深い恩を

見せ、御命をも捨てんとは、ああ、頼もしや忝なや、我こそと名乗って一礼しようか、いやいや、

姫君とやらに聞こえては、御祝言の邪魔であると、遠ざけられるのは知れた事、ただよそながらに

あのお方の為になり、御命を助ける事こそ我が夫への奉公と、思い定めてこれ傳三さま、御侍の覚

悟の上を女子(おなご)の料簡で推参なことながら、あのさんに腹を切らせて恩を受けた四郎二郎、

いずくの浦で聞きつけてもよもや生きてはおられまい。

 人の縁は知れぬ物、どれからどれへとどう移って、誰の悲しみとなろうやら、山三さまのお身の

難、逃れるぐめん(くめん、工夫)はないだろうか。思案は今でござるぞやと、余所を言うのも夫の

事、案じては余る涙の色、沸き立つ胸を撫でおろすのも道理である。

 おお、わが身が言う通り、押っ取って廓の迷惑、お仕置きには法がある。腹切りたいと仰っても

よう暖かに見苦しい罪に粟田口下から、どうもはかられない。と言えば、山三ははっとして、ああ

う、よいところに気がついた。三味線どころではないわいな、相手は主持ち、こちは浪人、暴れ者

にしなされ、木兎(みみづく、形がフクロウに似て森などに住み、夜行性で小動物を食べる鳥。頭

は猫のように丸く、耳に長い毛が有る)が止まったように獄門などにさらされては先祖一家の恥

辱、今さっぱりと腹を切っても、その後で首を獄門にかけられたのでは、益々恥は重くなる。

 ええ、主持たぬ身の無念さよと、歯ぎしりをして涙ぐむ。

 みやは聞く程にわが男の身に迫って来る悲しさの、どうぞ良い分別して進ぜて下され頼みます

と、身に引きかけて歎く躰(てい)。

 亭主はしばらく思案してから、これこれ、よい仕様が有る。此処へよりゃ、と小声に成り、これ

をついでに葛城様をとんと請け出して、奥様に定める。時に親方と肌を合わせ、手形の日付をとっ

と跡の月にして、外様(とざま、表向き)には借宅見立てにして、その分は廓に少し逗留分、すれば

とうから御夫婦である。

 昨日まで伴左衛門が口説いた状文を握っているからには、間男の証拠は確かである。妻敵討ちは

天下の御許し、千人斬っても切り得、この分別はどうであろうか。

 みやは悦び、おお、出来た、出来た、目出度い、目出度い、知恵者めと煽て立てれば、ああ、無

性に目出度がるまい、当分請け出すお金がない。もし、お腰の物をそれまでの質物としてつかわさ

れれば、私の加判でたった今、大夫様を門から出させて見せましょうが。

 御侍にお腰の物とは、のう、おみや、どうも申しかねるわいの。

 はて、お主のお身ばかりか不憫になさる四郎二郎までが命が助かる事であるから、御料簡遊ばし

ませと手を合わせるやらなげくやら、山三も共に涙を浮かべて、おお、おお、何が扨て、何が扨

て、皆の衆に苦労をさせ、何しに否と言おうか。近頃過分千万、これ、是は重代の左文字(さも

じ、名刀の名)二千五百貫の折り紙はある。

 惜しいとは思わないが七歳の時から今日まで遂に脇差一本で他所に行ったことが無い身が、刀の

冥加が尽きたかと、涙は雨や鮫鞘の脇差だけで奥に入った。

 後姿を見送って、お労しや、御愛しや、傳三さま、どうぞ首尾して下さんせ。巻き添えが要るの

なら儂(わし)が繻子の帯もある、八丈の袷もござんすと、歎けば共に泣き声の、おお、奇特(きど

く)よの、よく言いやった。俺も男じゃ、気遣いすな。かかを總嫁(そうか、街娼)に売ってでも埒

を開けないと言う事はしないぞ。と、泣きながらに出て行ったのは実に頼もしい。

 みやが憂き身の憂き思い、口で言わねば気に閊(つか)え、目に流れるのは百分の一、胸に涙がと

どこおり、山三さまに骨を折るのも、男の心の悲しみを思い遣る、遣り手となったのも、のらぞん

ざいでなれようか。

 恋が嵩じて遠山がこのざまになったとは、知らぬか聞かぬか、男めが何処にいるやら死んだや

ら、梨も礫(つぶて)も打つ、それではないが、うっとりと煙草をのんでも煙管から咽の通らない臼

煙、人が見ぬ間に思う程、泣くを所在か味気なく、内を処理して葛城は来るより駆けあがり、みや

殿、此処においでたか、いかい世話であったげな。忝いぞ、土になっても忘れはせぬぞ。おれが心

を察してたも。

 ほんに、ほんに、物日(廓の祝日)中に痩せたわいな。こなたは今は何の苦労も無くて楽であろ

う。遣り手の身は羨ましい。

 山さまは奥にかの、ちょっと逢って来ようか。後に、後にと言い捨てて行くのを見てもまた涙。

辛いぞ、憂いのと言う中にも男を側に引き付けては、憂さを凌ぐのにも、力が有るこの身には苦も

有るまいとや。明け暮れに付き合う人の目にも楽なように見える物。

 遠国隔てた男気に思いやりがないことは無理とも言われず、さりとては、せめて有所が聞きたい

と声は立てないけれども泣きじゃくり、気も沈み入る時しもあれ、心細げな鼓弓(こきゅう)の声。

哀れを催す相の山、我に涙を添えようと言うのか。





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最終更新日  2025年07月10日 10時45分43秒
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