草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年10月08日
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御点薬が澳から姿を現して、今朝の御脈は夜前の通りに変わらず、謹んで御容態を考え奉るに、是

ぞと名付けん病気もなく、ただ七情(色々の感情)に破られ給い、御気の疲れ、御心のむすぼおれが

深いと見えさせなれまする。

 何つけても興ある御慰めを催し御欄に入れ、暫しのうちも面白しと御心が晴れ給わば、御補薬と

なり、薬力も廻り候わんかとぞ、申しはべりける。

 維盛、聞き給いて、實(げ)にさぞあるらん。祖父(おほぢ)入道殿、邪なる御振る舞い、歎きは父

重盛ただひとり、一天四海を引き受けて、御身ひとつが病に成るも理(ことわり)かな。何をがな気

も晴れて心に叶う恵み、旁がた(おのおの、みんな)も思い寄り頼み存ずる、との給えば各ははっと

頭を傾け、どうがなァ、はあ、何とがなと思案して評定は取り取りである。



天が酒功賛(酒の功徳を讃えた文)の景氣(様子)を学び、庭前に酒の泉を湛え、美女を集め、琵琶・

琴を調べ、歌い舞い奏でさせれば終に御覧なきことなので、お心が開けることもあるのではなかろ

うかと有りければ、越前の三位通盛が聞きもあえず、趣向珍らしし。さりながら、平生に酒宴乱舞

を好みなさらぬ重盛公、却って御気に障るのではな、かろうか。

 通盛が存ずるには、同じく酒を用いるにしても、庭に大竹小竹を数千本植えさせ、酒のもたい

(酒を入れる器)を設え、七人の楽人に胡飲酒酉偏に甘醉樂(舞楽の曲名)などの舞楽を奏し、竹林の

七賢(中国の晋の時代に竹林の中で清談に耽った七人の賢者)の愉しみを学んでは如何であろうか。

 相詰めし者共が存じ寄り、遠慮なく申して見よと仰せなされた。

 主馬の判官盛國がつっと出て、恐れがましく候えども、我が君常の御戯れにも上を敬い下を憐れ

む御心より、北のお庭に方一町の田を開かせ、毎年御領内の土民を召され、耕し植える賤の手業、

民の辛苦をご覧ある。今年も新田をすき返し候えども御所労によっていまだ田植えの御沙汰はな



 折しもこの頃の雨に潤う早乙女の田植えをご覧にいれれば、御心にも叶うべしと言上すれば、知

盛、實(げ)に此れも興があろう。所詮、目録に書付けて伺わん。と、人々を相具して大床(広庇と

同じ)の御座の間を目指して出でられた。

 十返りの霜(松は百年に一度花を咲かせるので、十返りの霜は千年の霜)には朽ちず、一時の無

常の風に枝は枯れて、頼み少ない小松殿、父入道を諫めかねて世を思う故に物思う。想いが積もっ



 維盛が枕に近づき、御病中の御慰みにと一門の志し、御望みあれかしと目録を奉れば、助け起こ

されて脇息にかかるもしばし、玉の緒の弱りを見せぬ親心、披見あって打ち笑み給い、重盛の病気

を悲しみ各(おのおの)が心を尽くされたのは返す返すも浅からず。この書きつけの内、早乙女に田

を植えさせようとの物好き、我毎年の慰みにて庭の田の面を見るにつけて、去年の田植えも懐かし

く感じる。用意させよ、見ようずるわとの給われたので盛國は畏まって罷り立った。

 ちょうどその時に、熊野本宮の別当湛増(たんぞう)が白木の箱を携えて慌ただしく御前に出で、

本宮の社檀を修復の為に、神躰を仮に宮遷し致す所、如何なる者の仕業であろうか、この箱を込め

置いたのです。

 私に開く事は後難も図り難く、御注進とぞ述べたのだ。

 よし、何もせよ推量の僉議無益(むやく)の至りだ。それ、開け。承ると貞能(さだよし)蓋をこじ

はなせば、こは如何に厚板を削りならし、衣冠束帯の人を絵に描き、惣身に四十九本の釘、胸板

(むねいた、胸の平らな所)と首に矢の根(やじり、矢の根)を打ち込み、日本十三所権現に申し奉

る。小松の内大臣平の重盛の運命を縮め、源家の弓箭(きゅうせん、弓矢、武運)を擁護(おうご)し

賜え。両ヶの所願(重盛の命を縮め、源氏を守ると言う二つの願)偏(ひとえ)に冥慮(みょうり

ょ、神仏の御配慮)を仰ぐ者也。願主、蛭が小嶋の住(じゅう)、源の頼朝と書き記し、調伏の願

書を添えてある。

 人々これはと手を打って、呆れ果ててぞいたりける。、

 重盛は忿(いかり)の御涙をはらはらと流させ給い、さても、さても、天の恩を知らない愚人であ

るな。さんぬる平治の合戦で既に誅するべきであった。池の禅尼と重盛が身に代えて願い助けた故

に、さてこそは流罪にしてあるのだ。

 彼の唐土(もろこし)の獨角獣(うにこうる)と言う獣(けだもの)は水上の悪毒をおのれの角で灌ぎ

消し国民の命を助けるのだが、猟師は恩を弁えず獨角獣を殺して角を取る。是は頼朝めと相同じ

だ。敵と味方になるならば、鉾先は磨かないで、重恩の重盛を調伏とは浅ましい。

 この度の我が病は、父の悪心が止まなければ、我が命を取り給えと熊野権現に立願(りゅうがん)

しての死病であるから死すれば小松の願の成就。それとは知らずに、頼朝がおのれの願が成就した

と喜んで思うのは愚かな事だ。

 重盛が空しくなったならば、見よ、身よ、源氏の白旗を秋津洲に翻さん。ええ、恨めしいのは入

道殿、儚きは平家の運命だ。一門の成れの果てが思いやられて口惜しやと、怒れる眼(まなこ)に涙

を浮かべ、お声は震え、枕を掴み、歎き沈ませ給うにも御前に伺候の人々も實に御道理ことわりや

と各(おのおの)袖を絞られた。

 よし、よし、盛衰は天にあり、悔やむまじ、恨むまじ。時こそ移る、耕作を見分しようぞ。疾く

疾くとの給い、既に田植えぞ。早苗とる、水のみどりも青々と、御簾も障子も開け放ち、いつにも

優れしご機嫌に上下が悦び勇みけり。

 折から愛宕(おたぎ)の里の長(おさ)が手には鍬を持ってはいるが、心には苦も無い顔の白髭を上

下にすらせて式台(礼拝)し、なうなう、早乙女おじゃらせませ(おいでなさい)、翁が新田をとろり

っとならししまいて五穀成就・君万歳、民も千秋、千秋と水口(田に水を引く口、田植えの時は

先ず水口を祭る)も祭済ませた。田をばぞんぶりぞ、ぞんぶりぞ。ぞんぶり、ぞんぶり、ぞんぶり

ぞ、さあなう、御田を植えようぞ、

 はっと答えて早乙女は、一緒に来て笠を着て、みんなに遅れまいと手ン手に早苗を取りはやす。

外にたぐいもない、あらかねの土に汚れぬ田植え歌、植えよ、植えよ。早乙女、目出たい君の御田

植、苗代に降り立ちて田を植えれば笠を買って着せようぞ。笠を買ってたもるなら、なおも田を植

えましょうぞ。如何に、早乙女、懸想文が欲しいか。失せた夫が欲しいか。

 水上が濁って下の歎きが目に見えぬ。夫を返してたもるならば、なんぼ嬉しかろ。男が見えずば

それなりに当代の流行物、後家狂いせよ。見目悪、ええ、面にくの男が言った事に腹が立つ、腹が

立つならば鏡を見よ。水かがみを見たならば、顔の汚れた世の中、朱雀(しゅしゃか、京都市下京

区の西南部)の御所(常盤御前の邸)の築山に花が咲いたのをみたか。げに、きっと見たなれば恋

の花や、いたづら花(仇花、実のならぬ花、戯れの情事を諷する)やうちや匂い渡った。

 植えよ、植えよ、早乙女、千町、万町、億万町の早苗より、兄や弟や夫(つま)や子を返してたも

るなら民も豊かに君がお田は実るぞ程なかるらん。実るぞ程なかりけり。

 歌い終われば一座の人、よろこび、ざわめき給いける。

 重盛は御耳をそばだてて、田な植えさせそ、あれ、止めよ。問うべき事がある。早乙女らを具し

て来い。

 畏まって雑式共、御用があるぞ、早乙女共、御前に参れと呼ばわれば、ひっしょ形振り(遠慮な

い様子)で早乙女が手足も土に塗れたままでひれ伏した。

 近くに寄れ、女共、夫返せ子を返せと、訴詔(そしょう)ありげな田植え歌だ。汝らは誠の早乙女

ではない、つつまずに申せ。と、の給えば、鍬取の翁が頭をもたげて、仰せの如くにかく申す翁を

始め誠の早乙女では候わず。

 君、知ろしめさずや、入道相国のお妾(てかけ)の常盤御前がいらっしゃいます。朱雀の御所の辺

を通れば貴賤に限らず男たるものはかいくれ(全然、全く)に行方なく、再び影も見ることない。狐

狸の所爲(しょゐ)とも申し、又常盤御前が往来の男を呼び入れ、放埓悪戯狂いとも申す。兄に別れ

弟を失い、かかり(養ってくれる)子に離れて路頭に立ち、飢え死にする親も有り。

 夫を取られ泣き焦がれ狂気する女も有り。五十人か百人か読むのに数限りもなし。洛中洛外の苦

しみ、上には御耳に立たないのでしょうか。但し、知っても知らぬ顔か。

 この翁が直訴して重盛公の御耳に達し、御詮議願い奉らんと男を失った女共はいずれも早乙女に

出でたたせてかくの如き仕合せ(次第、始末)、推参は御免有れと申し上げれば、女子共は声々に、

私の息子は坊主落ち(坊主が堕落して還俗した者)、ろくに生えそろわぬ者である。常盤が何にせら

るるぞ。我等が兄は提灯屋、張りがえのないたった二人の兄弟です。こちらの夫は唐臼踏み、腰か

ら下が強い男、惜しい事をいたした。誰に恐れも無く泣き喚く。女心のひとむくろ(ひた向きさ、

一途)が思いやられて哀れであるよ。

 大臣(おとど)は御息をほっと継ぎ、我病に臥して政務を辞し、民の訴えを聞かなかったので早く

もかかる事が出で来たるわ。当家の徳が薄い故に洛中の騒ぎ、後の禍は軽くない。きっと糺し得さ

すべし。

 やあやあ、彌平兵衛宗清、汝は常盤が館の次第をとっくと見届けて、吟味せよ。狐や狸の仕業で

あるならば猟師を以て狩りとらせよ。常盤の不義・放埓に極まるならば、きっと実否(じっぷ)を正

し、入道殿に言上して御指図に任せよ。

 又、末々平家の仇となるべきことと見るならば、誰に問うまでもない。入道殿の思い者だとて容

赦致すな。常盤であっても討って捨て、詮ずる所はこれが第一である。心得たるかとの給えば、宗

清謹んで畏まり、御諚に違背致して申すのではありませんが、元某は源氏に重恩の侍、殊に相具し

候女房は先年離別の末にあい果て、今生になき身とは申しながら、藤九郎盛長の妹、かたがた源氏

に誼(よしみ)の筋目、あまつさえ一人の娘を女につけて別れたが、ただ今は成人して如何なる源氏

方に縁を組んだかもはかり知れず。かれこれ、以て常盤御前の詮議には源氏に無縁の他人に仰せつ

けられてしかるべきかと存ずると申しける。





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最終更新日  2025年10月08日 19時23分55秒
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