草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年10月10日
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小松殿が聞きなされて、苦し気なるかんばせに立腹の色が現れ、心得ぬことを申す者かな、源氏譜

代の汝なればこそ、常盤の常の行跡や心入れをよく知っているであろうと、思い寄っての事だ。明

日にも源平が鏃(やじり)を争う時に、源氏譜代の宗清、軍の御供は容赦あれと言うべきか。よも

や、さは言うまじ。

 源氏の昔の恩を思うなら、今又平家の録を食む、その恩賞をよも忘れてはいまい。義ある武士と

見定めた我が眼力、重盛の臨終も今明日と極まって、明日の夜までは不定の命だ。

 病み疲れて眼(まなこ)眩み、最後に人を見違えたと死後に小松の名をくたすな。早急げ、宗清と

床の緞帳、御簾もさっと降りたので、宗清はあっと頭を下げ、文武二道の賢将、義ある武士とのお

詞、生前の面目、部門の誉、哀れ、御命を全うして御馬の前で討ち死にして、御恩を報じないのは



 もし宗清が狂気して御眼力を違えたなら、冥途より御手を下郎に貸され、歩(ぶ)に首を下げ給

え。はや、お暇と罷り立った。

 源氏の恩、平家の恩、引かれてたゆまぬ梓弓、矢竹ならぬ彌猛心ぞ頼みある。

 囲い女(もの)とや悪口に、是をも言えば夕附く日、朱雀(しゅしゃか)の御所は女護の嶋(女ばか

りが住む嶋、実在すると信じられた)、昔は源氏の春の園、義朝の花もみぢ、今日は平家の秋の

庭、清盛の月雪と見手は変われど変わらないのは、ときは(普通名詞としては永久不変、変わらぬ

の縁)御前の起き伏しの独りでは足らぬ(男無しでは不満な)御身持ち。

 お腰元の笛竹、御髪上げのひな鶴が男見立ての仰せを受けて裏の小門の物見の亭(ちん)、往来

(ゆきき)の人の風俗を見下ろす簾(すだれ)を巻き上げて、今日も変わらぬお役目だとて、口へは入

らない善悪(よしあし)に男を待つ風がしどけない。

 なう、笛竹殿、何時ぞは何時ぞはと思っていたのですが、幸いに外に人はいない。ときは様は御



はなされぬのに来る日も来る日も二人か三人か往来の男を呼び入れて、お精が強い。上々には何が

なる物ぞ(お上のなさる事は不可解だ)、あれではお煩いも治らぬ筈。

 清盛様に聞こえてはお身の大事、わしらやこなたも良い事はあるまい。怖くてならないと震え

声。ああ、気遣いない、気遣いない。竹笛が何も飲み込んだ、今日はいつもより通りが薄い。それ

でも能い男をせめて二人程はつらなくてはそなたもわしも一分が立たない。



子。こりゃ、歴々の侍だ。但しは公家方の諸大夫(しょだいぶ、家政を司る家司・けいしに補せら

れる家柄の者)か。あれ程の人躰に破れ扇は不都合な、え、ままよ、是、そこな烏帽子殿、此処

へ、此処へと招かれて、小腰をかがめ声張り上げて、万戸(まんこ)がその日の装束には阿のく菩提

の腹巻に隋求陀羅尼(ずゐくだらに)の小手をさし、断悪修善の脛当てをあくち高にしっかとはき、

大唐錬小唐錬、二振りの剣を十文字に差すままに神通自在の葦毛の駒、歴劫不思議のうき沓をはか

せ、その身は軽げに乗ったりける。万戸将軍はうんそうとて、万戸将軍うんそうとて、ああ、しん

き、ここへおじゃ、しっぽり(しめやかに、男女の交情が密なこと)と言いたいことがある。

 先ず、待ちゃ、待つゃとひな鶴が亭から降りるのを見て、え、さてはしっぽりが御所望か。あ

ら、痛わしや蜑人(あまびと)は海上に浮かび出で、。乳の下を掻き切り玉を押し込めて申したり。

乳(ちち)のあたりにないならば疵のありたけ、どこもかも探って見給え、我が君とたださめざめと

泣いている。む、さてはまい舞か、舞まいでも蜘舞でも大事ない。

 これ、御門の内におじゃ。結構な目にあわせようから。こんな事じゃと耳に口を寄せて、こうじ

ゃこうじゃと囁けば、舞まい色を変えて、万戸この由を聞くよりもあら、怖や。恐ろしや。これは

龍宮の美人局(つつもたせ)、三百目の玉塔に、その外悪魚の仕掛け物、逃れ難しや我が巾着と跡を

も見ずして逃げ失せける。

 なう、笛竹殿、無駄骨を折ったではないかいな。いや、いや、一の裏は六、陸路を軽く、それそ

こへ状箱をかたげて飛脚の足、淀から三里に灸もない。脇差を一腰差し、さしもぐさ、燃え立つ汗

にむしつく髭も助平のへの字なりが面白い。腰骨が太い達者造り、これがお上の好物男、やれ、こ

れ、逃すな、呼び込め、とひな鶴が飛ぶように足早に袖を翻してしにじみと囁けば、甘い奴でじろ

りと見た目にほやり(にやり)と笑い、連れて内にぞ入ったのだ。

 跡に続いて聞こえたのは小唄を歌うのか、何を言うか。顔見ぬ先の声の綾。鯵や刺し鯖、皮鯨・

目黒・鯛の剝き身・干しかます、鰹節、干鱈・塩鱈、だらだらとだらつき声で通って行く。

 ひな鶴、その魚売りを呼びゃいのう、いや、いや、今日は義朝様の精進日、せめての冥加に魚売

りは遠慮なされと言う所に、旅する武士の高からげ、股引・脚絆・頬被り、南の方からそりゃ来た

ぞ、まっかせ、やらぬとひな鶴が囁く顔を振り切って、行きすぎるのを縋り付き、猛き武士の心を

も和らげる歌も恋路を種とすると聞く。

 いかなる武士も否(いな)とは言わぬ、稲舟の、押すに押されぬこの道を止まらせ給えと言いけれ

ば、さすがに岩木ではない荒男、心弱くも立ち留まる。

 所は朱雀の御所の門、連れて入る、日も暮れる過ぎる。ときは御前の帳台の夜の光は雲井にも劣

らぬ露がしめやかに置く、奥座敷、相の廊下を笛竹が昼の飛脚の手を引いて、案内(あない、室内

の様子)を照らす燭(ともしび)にいごきもやらず立ち止まり、こりゃ、何処へ連れて行き召すぞ。

白癩(びゃくらい、是非に)返してくれられと歯の根も合わぬ胴ぶるい。

 これ、怖い事はなにもない、この奥に御座なさるるは聞き及びもあろう、千人の中から百人を選

び百人の中から十人を選りだし、十人の内に独り優れたる時は御前にと、それはそれは美しい君、

そもじにたんとほの字じゃと、嬉しいか。是、こんな目に遭うにじゃとささやけば身を捩て俄かに

作るつぼつぼ口(つぼめた口)、え、嘘ばっかり。おらがような者にこのかま髭で頬ずりは痛かろう

物を、わしゃいや。

 え、気の弱い、是、この帷子を着て行きゃと帯を引きほどく肌えは鍋の底。気味悪く、こりゃ何

と言う帷子、むむ、柔らかな、身について動かれない。言わぬことは悪い、この帷子も着どり、我

等が身の廻り一色も散らすことはならぬ。

 それを気遣いすることか、夜が更けぬうちに此処からと杉戸を開いて突き出せば、一足行っては

けつまづき、滑る飛脚の脛ッ脛、去るにしても我は千里を股に掛ける商売、一度も歩み兼ねぬ身が

一足もいごかれぬ。智恵こそあれと四つ這いに這う、這う開ける障子の内、ともし火かすかに寝姿

を見るより早くぞっと身も痺れ、蚊帳の外にうずくまり、伽羅のかおりに咽せ返る。

 蚊帳の内から、ときわ御前、手を引き寄せ、これ待っている、さあ、此処へ。この手の華奢なこ

とわいの。と、じっと締められ現(うつつ)を抜かし、こりゃあんたる因果骨、mっきめっき致す御

免有れと、お辞儀は申さぬ、お辞儀は致さぬ。と、蚊帳を引き上げてぬめり込む時は、押さえて、

ああ、待ちゃ、待ちゃ、真実抱かれて寝る気なら我が言う事を背くまい。

 他言はせまいとこの誓紙に血判(ちばん)を据えての上の事、物も書くであろう、これ見よと、袂

の内の一巻を渡せば取って押し開く。

 杉戸の外では笛竹が耳をそばだて、息をつめ、伺う内のひそひそは漏れる方なく聞こえるのだ。

 読みも終わらずわなわなと震え、なう、恐ろしい文言、これに判形(はんぎょう)は存知もよら

ず、命が大事と駈け出した。

 大事を知らせて往なせようか、と引き留めた。ときはの小腕を取って突きのけ、ここを大事と足

早く走る、杉戸に額を打つやら、当てるやら、漸(ようよう)に押し開いてぬっと出れば竹笛がおつ

とり刀で突っ立っている。

 わっとわななき、身を縮めて二度震え、慌てたのだ。

 こりゃ、男、ときは御前に頼まれて源氏の方人(かたうど、味方)申したか。奥の様子をさあ語

れ。なう、勿体無い、今の世に見る影も無き源氏に頼まれて、平家の咎めを何としようか。思いも

寄らずと言わせも果てずに抜き打ちに向こう様(正面)てっぺいより太腹まで節々込めてから竹割

り、二つにさっと笹の露、散る魂のもぬけのから、廊下の敷き板こじはなし、掘り置いた土の穴の

ここかしこ、人には見せないと骸(からだ)を取って引きずり込む。

 音に驚きひな鶴が刀をひっさげて出でなんとする。首尾は、さればされば、見かけに寄らずに依

らぬ卑怯者、いつもの如くに斬って捨てた。一味して戦場で討ち死にするのも死は同じ。

 愚人目ゆえに今日も又、思わぬ殺生南無阿弥陀仏、ええ、まだるい、念仏どころか次の男がもう

ここへ。いつもの通りに死骸は埋めた。

 跡を首尾よう、首尾よう。と、縁の下に這い入れば笛竹が手水の水を汲み掛け、流す血汐の唐

紅、神代も聞かぬ女業。辺りに目をつけ目の鞘を外す刀ののり(生血)、押し拭い、押し拭い、袖に

収めた顔かたち、けんにょ形振りひきつくろい、物音を伺い立ったのは、昔神功皇后が娘の時もか

くやらんと、外に類も無いのであった。

 続いて以前の侍が人目を忍ぶ頬かむり、笛竹に近づき、ひな鶴とやんらの物語に奥の様子を承っ

た。良い年をしてなんどの蔑みも恥ずかしい。頬被りは御免なされよ。御案内を願いたいと述べけ

れば、ああ、お案内するまでもない、この廊下をと戸を開けば、月さえ漏らぬ長廊下を辿り、辿っ

て閨のうち、ともし火を背け、掛け香やそらだき物にふすべられ、蚊は一匹もない夏の夜。蚊帳が

閨のしるしである。

 えへんえへんと打ちしわぶくのも声が澄んでいる。

 待ちかねし物、これ男、思わせぶりのしわぶきなんぞ、どなたの花かは知らね共、今宵ばかりの

一枝は折るも偸も御赦しと、蚊帳越しに抱き付けば、とこうも言わずにふりはなす。

 え、憎い。藻掻かせて慰むつもりか。清盛と言う人が居なければ、いっそ女房になりたい。は

あ、鐘が鳴る。夜が更ける。此処へと蚊帳を押しのけて、何時まで包む頬被り、と取って引き退け

顔を見合わせ、やあ、彌平兵衛宗清か、なう、恥ずかしやとおし俯き、消えも入りたき風情であ

る。





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最終更新日  2025年10月10日 19時51分15秒
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