2013.07.10
XML
 ハリウッドは 1990年の「ゴースト/ニューヨークの幻」の栄光を忘れられなかったのか、その 20 年後に焼き直し戦略に打って出ました。




 舞台は 2010 年日本。

 松島菜々子とソン・スンホンの日韓カップルという設定が、陰りの出はじめた韓流ブームを再燃させようと躍起になっている製作側の強い意図を感じますね。

 そういった事情は脇に置いておいて、今回はこの「ゴースト もういちど抱きしめたい」を好き勝手にレビューすることにしますが、前回と同様、ロマンチックな世界観をブチ壊されてもオッケーという方のみ、読み進めていただければ幸いです。





わかりやすいあらすじ


 新婚ラブラブ、幸せいっぱい、夢いっぱいの大手ベンチャー企業女社長が不慮の事故に巻き込まれ、命を落としてしまう。
 自分の亡骸を腕に抱いて泣きじゃくる韓国人夫の姿を見て、天からお迎えの光が差し込んでもまだ向こうに行けないと思った彼女は、遺された夫をそばで見守ろうとする。

 時が経つにつれ、何と自分の死は事故ではなく、仕組まれたものであることを知り、愕然とするゴースト女社長。

 さあどうする?


 なんだ前回のあらすじのコピペじゃないか!と思ったあなた、その読みは正しいです。


 しかも、前作に比べ、突っ込みどころが極端に多くなっているのも、この映画の楽しい鑑賞ポイントとなっています。


見どころ


1. 演技力の差

 ファンの方には申し訳ないですが、松島菜々子(女社長)と鈴木砂羽(悪い同僚)、ソン・スンホン(陶芸家の韓国人夫)、芦田愛菜(地縛霊)と樹木希林(インチキ霊媒師)の演技力の差が目に痛いです。

 辛口になりますが、学芸会的なノリが抜けきらない女社長と悪い同僚によって、日本映画に合わせた控えめな韓国人夫の演技が余計引き立っていますが、気性の激しいキャラクターが当たり前の韓国映画やドラマに比べると、彼の演技も若干嘘くさく見えてくるのも事実です。

 地縛霊は、前作の尋常じゃない怪しさの地下鉄駅の自縛霊と比べると、日本の子役にありがちな少々仰々しさの漂う演技が目に付きますが、それなりに子供らしさを感じるところもあります。

 映画の世界観に異様なほどに馴染んでいたのは、インチキ霊媒師くらいのものでしょうか。
 樹木希林に至っては、前作のウーピー・ゴールドバーグを完全に凌駕したとも言える怪演ぶりです。

 樹木希林が出てくるたびに空気が変わり、その場の雰囲気をかっさらっていってしまうので、主演の二人がぼやけてしまうのが残念なところです。


2. 「同じく」の違和感

 愛してる?の返事に「ditto(同じく)」が使われているのが「ゴースト」のお馴染みキーワードであり、当時この映画を見た者の間で me, too 代わりに ditto を連発する現象が起こりました。

 本作では、韓国人夫の「愛してる?」の問いかけに、女社長は「알고 있서요.(アルゴイッソヨ=わかっています)」と棒読みの韓国語をかましてくれるわけですが、この部分の字幕が無理やり「同じく」になっているところに違和感を覚えます。



 しかし、「わかっています」は、話の流れによっては額面どおりに解釈されないのが言葉の難しさでもあります。
 恋人同士の会話で、「愛してる」と尋ねて「 (そんなの) わかっている (から、愛してるなんてわざわざ言わせるなよ) 」と返されたら普通はムッとくるでしょう。

 これは英語でも同じですね。


 このシーンを注意深くご覧いただくと、女社長松島菜々子の「アルゴイッソヨ」を母国語で聞いた韓国人夫ソン・スンホンは、ほんの一瞬ですが素でムッとしているのを感じ取れると思います。


 韓国語で「同じく」と言おうとするなら、「나도(ナド=私も)」とか「마찬가지에요(マチャンガジエヨ=同様です)」となりますので、むしろそちらを使った方が良かったのではないかと思います。


3. 重要なログイン情報は手帳なんかに書いちゃダメ

 大口の送金処理を行えてしまうような重要な会社の経理システムへのログイン情報を手帳に書き留めている女社長。
 前作「ゴースト(以下略)」でもエリート銀行員が自分の手帳にパスコードをメモっていたので、本作品でもそれを採用したかったのでしょう。

 しかし、個人情報の流出問題や、セキュリティ関連で色々と騒がれる昨今においては、社運を握る立場の人間が 20 年前と同様のアナログ的な方法で重要情報を管理している姿を見ると、この会社は本当に大丈夫なのだろうか、という不安が沸き起こってくるわけです。

 いくらパスワードが覚えにくいからと言って、これではセキュリティどころの話ではありません。
 451081845963 みたいな複雑な数字をパスワードにしていても、「仕事はイヤよごくろーさん」くらいのゴロでも作って覚えてほしいものです。

 そのくせ、同僚を攪乱するためにログインパスワードを変更した後は、書き留めもせずに一発で思い出せるというこの矛盾。


4. お茶の間劇場と化したお仕置きシーン

 前作「ゴースト」で、同僚の手下がゴースト銀行員によって生前の恨みをぶつけられるのですが、目に見えない何かによって攻撃を受けるという恐怖が巧みに表現されていました。

 本作でも、同僚の手下がゴースト女社長によってイターイお仕置きを受けるわけですが、道端に置かれた発泡スチロールの箱やごみ箱で一人勝手に転げ回っている姿は、恐怖を通り越してシュールというか、もはや 80年代に流行ったドタバタ系のお茶の間劇場のノリを思わせます。
 空飛ぶ植木鉢は必見。

 明るい繁華街という設定が、妙な面白さを誘うのでしょう。
 最後に一回派手に転がって「ダーダこりゃ」と捨て台詞を言ってしまいそうな雰囲気まで漂っています。



5. ろくろさえあれば、付け足しの エロ ロマンチックシーンは邪魔なだけ

 前回の記事で、「ゴースト」のろくろシーンがエロいという話をしましたが、ろくろ回し=エロという図式が出来上がっている以上は、今回もろくろを回さないわけにはいきません。

 しかし、設定の甘さが目立つのもこのシーンの残念ポイントでもあります。
 前作では、結婚秒読みのカップルがろくろ回しで盛り上がるという設定だったため、それほどの違和感はありませんが、本作は、何となく互いを意識し始めた二人がろくろを回すという設定になっています。


 それにしても、初っ端から二人の身体が密着してしまっています。
 「おい、スンホン、やる気満々なのはわかるが、そんなに身体を擦りつけたらセクハラで訴えられるぞ。」
 と要らぬ忠告をしたくなってくるのは私だけではないでしょう。


 そしてろくろ回しスタート。
 スンホンのやる気はさらにエスカレートしていきます。
 ネチョネチョの粘土を両手で丸め、今度は親指をズブリ。

 「力を抜いて、ゆっくり、ゆっくり」というスンホンのねっとりとした囁きと、執拗な粘土弄りは、観ていて背筋が寒くなってくるほどです。

 前作は粘土弄りで盛り上がってしまい、作品をどうにかする自制心を完全に失っていた二人でしたが、本作では一応壺らしきものが完成しただけ、進歩したといえるでしょう。


 あのシーンを見させられた後に、二人のブッチューが始まるわけですが、粘土弄りに比べれば可愛いものです。
 その後のベッドシーンも遠巻きで暗く、しかも始終ぼんやりとしているので、盛り上がった途端につまらなくなるという、とても残念な仕上がりとなっています。

 ただ、手っ取り早く女を落としたければ、陶芸を習って二人でろくろを回せ、というアイディアだけは世の中の悩める男性に提供できていると言えるでしょう。
 あのシーンを観ていると、ロックンロール!という裕也の声が頭の中で聞こえてくるので不思議です。 


どうでもいいトリビア


1. 鈴木砂羽(悪い同僚)の韓国語の台詞は、演技用にしては意外と違和感がない。
2. ソン・スンホン(韓国人夫)の鍛え上げられた筋肉は、日本映画の中ではなかなか拝めないレベル。
3. 樹木希林の手が 20代でも通用するほど白くて綺麗で、手入れが行き届いていること。


 文字数の関係でこれ以上は書くことはできませんが、少しでも次回鑑賞時の参考になれば幸いです。



web拍手 by FC2





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2013.09.23 15:53:37


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: