カイバーマンのお仕事2

カイバーマンのお仕事2

2009年04月23日
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「兄さん、マリーは?」
「さっき出かけたが」
ヴェーダ検定の試験を手伝って貰おうと思ったのに。冷たい。
「オレが付き合うか?」
「レベル4に受かったらお願いする」

ヴェーダ試験というのは、世界中の情報を管理するスパコン、ヴェーダに接続する資格試験を指す。
匿名で入れるのがレベル1。
身元確認が行われるのがレベル2。
レベル3から試験があり、

レベル5ではさらに加えて特殊な職業についていることが必要になる。(研究員や一部公務員などだ)
レベル6になると、試験を受ける時点で3国全ての了承が必要となるくらいだ。
兄さんは士官学校に入るために猛勉強してレベル3をとり、父さんと母さんは左官試験の前準備としてレベル4をとった。
私はまだレベル3に合格していないが、マリーは学年で唯一のレベル4資格者だ。
双子なのに、不公平だと思わないでもない。
しかし自分に無いものを羨んでいても仕方ないので、自力で勉強することにする。

「……」
またひっかかった。
私は小さく舌打ちする。
私の成績はまあ中の上、レベル3は何とか取れるから医学学校には入れるだろうけど、レベル4をとって医師になる自信はとてもない。
士官学校ならレベル3で卒業できる。(出世が頭打ちになるけど)

医学学校に進んだら、多分共倒れになる。
なのに何故無茶をいうのか。
ちょっとくさっていたら、兵舎の前に車が止まり、マリーが降りてくるのが見えた。
運転席にいるのは、……どうやらアレルヤらしい。
いい気なものだ、とつぶやいたのが聞こえたか、マリーは真っ直ぐ私の部屋に上がってきた。

「今忙しい」
「あら、私が教えてあげるわよ」
マリーは機嫌よくいうと、自分のパソコンを素早く立ち上げた。
ヴェーダの起動画面、……私は一瞬自分の目を疑った。

レベル5だった。

それは1秒に満たない間だったが、動体視力には自信がある。
ヴェーダの資格掲示画面、それに映し出された文面は一見父さんのレベル4と大差なかったが、確かに

レベル5

とあった。
一介の女学生に許される領域ではなかった。
「で、どこがわからないの?」
「あ、ああ」
どこか浮かれた調子のマリーは平然と私に問うたが、正直私は、目の前にいるのが姉の姿をした別人のように見えた。

それから数日後、アレルヤが当局に逮捕された。

私には、何故そんなことになったのか全くわからない。
マリーは半狂乱になってあちこち走り回っているし、父さんも母さんも口を濁してなにも教えてくれない。
兄さんを問いただしたところ、
「噂だが、政治がらみらしい」
という返事で、一瞬目の前が暗くなった。
私はアレルヤとも、弟のハレルヤともあまり親しくなかったからそっちはさほど心配していない。
気になるのはマリーだ。
アレルヤが政治犯だとして、マリーは果たして絡んでいるのか、いないのか?
絡んでいたとすれば、いや、そう疑われれば、マリーも投獄されるし、父さんたちのキャリアも此処までだろう。
それどころか、一家纏めて捕まることだってありうる。
恋愛ならもっと無難な奴としてくれ、と言いたくてもマリーは連日、ろくに眠りもせず出かけるか、パソコンを弄っているかのどちらかだ。
とても話しかけられる雰囲気ではなかった。

そして十日あまりたったころ、1人の珍客が我が家にやってきた。
どう見ても10歳程度の、声変わりも前の女の子だ。
「こんにちはですぅ。スミノルフさんのお宅ですかぁ?」
家にいたのは私と兄さんだけ。
応対に出た兄さんは、自分の半分ほどの来客に目を白黒させていたが、私にはぴんと来た。
まともな客ではない。
ただの少女が、この家に来るわけがないのだ。
「えーと、マリーさんにお会いしたいですぅ」
「……君は、マリーの友達なのか?」
比較的鈍い兄がちょっと身構える。
が、少女は罪のない顔で、
「お友達はハプティズムさんですぅ。ご近所さんですぅ」
「そ、そうか」
……アレルヤがハレルヤの使い。
私とマリーの見分けが、つくだろうか?
私は慌てて母の寝室に飛び込むと、マリーと同じように髪を纏め上げた。
そして兄さんが余計なことを言わないうちに、玄関に飛び出す。
「まあ、わざわざありがとう」
「……え?」
あっちいけ、と軽く肘うちを入れ、ちょっと膝を折って少女と視線を合わせる。
「アレルヤのお使い?それともハレルヤかしら」
「ハレルヤお兄ちゃんですぅ。ちょっと話があるから、来て欲しいそうですぅ」
「お、おい」
「わかったわ。急いで準備するから、待っててね」
「……ソ……」
「兄さん、ちょっと話があるの」
私が何をしたいのかわからず、唖然としている兄をとりあえずリビングまで引っ張っていく。
「マリーに化けてハレルヤの話を聞いてくる」
「そいつは見分けがつかないのか?」
「つく。一目でばれるが、それでいい。とにかく話をしたいんだ」
「駄目だ、危険すぎる。政治犯の疑いがかかってる奴らだぞ?」
「大丈夫だ。知らぬ仲じゃないんだから」
ハレルヤは怒るだろうが、仕方ない。向こうがこっちを巻き込んだんだ。
直接会って、思い切り文句を言ってやる!

しかし、待っていたのはハレルヤではなかった。
それは目を見張るほど美しい、しかしニュースで見慣れた顔だった。
「ティエリア・アーデ……?」

それは世界一有名なテロリストだった。





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最終更新日  2009年04月23日 22時45分35秒
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