Accel

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February 20, 2010
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 めらり

 黒く、冷たく、底知れぬ重々しいものが、私の体を包んだ。
 頭の中で、何度も何度も割れ鐘のような響きが鳴り、耳をふさいでもそれは追いかけてくる。
 寒い!
 私はガクガクと全身が震え、膝も腕も頭も地面になすりつけ、大きな声で叫ぶしかなかった。

 熱い、あつい、あつい!!!

 なのに、寒いのだ!!!


 ガルトニルマ・・・
 これが

 これが!

 黒の中の黒き炎、
 悪魔の中の悪魔の力!
 ガルトニルマの炎か・・・!


 黒き中の黒の空間で、業炎の踊り狂う声がしずやかに響き渡った。


   ほほほほ
   さて
   けいやくを
   むすんだ

   そのちから
   わがために


   わがほのおで
   けがれ
   くされ
   よどんだものを



   エルダーヤにて
   いむべきちかあり
   そのちから
   いずれわれにもおよぶ


 ごおおおおおおおおお
 冷たい炎が、めらり、赤く揺れた。


   ふふ
   さあ
   やくがよいわ
   わがもうしご・・・




 その力はまさに恐るべき力であった。
 焼こうと念じれば何でも焼けた。

 その炎は色がなかった。
 足元、手元、手から離れたところ。
 ありとあらゆる場所を焼くことができた。

 私を襲う悪を焼いたこともある。
 娘を浚う集団を焼いたこともある。

 エルダーヤ。
 そこにも、私が焼くべきものがある・・
 そうとも。
 リュベナのために・・・






 白い、白い・・・
 下も上も右も左も。
 白い。

 煌めきに満ちた、白い世界に不釣り合いな、黒い衣装の人物が、茫然としたように座り込んでいた。

 はあーーーー。
 なんなんですか・・
 ここは。


 黒い衣装の人物は、長々とした美しい髪を憂いの表情で撫でた。
 ああ、なにがどう間違ったのだろう。
 我が神ミョールの元へと来るつもりだったのが・・・。
 なんだかよくわからない神のところへ来てしまったらしい。

 しかもそのうえ!!?
 「間違って」死んでしまって?
 800年も、経ってしまっているらしい???

 まったくもって、わたしの来てしまったこの神は・・・
 「てきとう」のなにものでもなかった・・・



 わたしは多少うんざりしながら、項垂れていた。
 わたしの目の前には、以前、彼の神が示してくれたミョール大陸の図が、相変わらず浮かんでいる。

 すると・・・
 ふっと、白い光が下の方から昇ってくる。
 ひとつ
 ふたつ。


 わたしは、思わずその光を追いかけてみると・・・
 行きついた先に、あの「みならい」の「てきとう」がいた。
 いた、というより、見ることはできないので、いたという表現は正しいか判らないが・・・。

 わたしは、ちいさな光の神に語りかけた。
「みならいの神。
 なにをなさっておりますか?」

 すると、小さき光は言った。

  はい
  これが
  しするたましい

  わたしのしごとは
  しするたましいを みちびくこと


 神の周りに、光がぐるぐると円を描いていた。


「なるほど・・・
 そのようにして、わたしも、ここへ来たのですね・・・」
 言う先から、はあ、とわたしの口に溜息が出る。



 わたしは、かなり、辛き生活だったはずだ・・・
 架せられた重荷と
 架せられた民と
 架せられた土地と
 架せられた人生と

 それらが全て、
 ”この世界”では、全く無意味だった。


「ちいさき神。
 わたしを、死の魂にはできませぬか・・・
 わたしは、生きることにもう疲れました。
 我が神も、我が父母も、我が姉も、そしてわたしを慕った民も・・・
 全ておりませぬ。
 もうなにも残ってはおりませぬ・・・
 なぜ、死の魂と誘っておきながら・・
 死することもできぬのですか・・・」

 わたしは何度目かの涙を流した。
 『この世界』でも、涙がでるようだ。


 ちいさき光は応えた。

   ざんねんですが
   あなたはほんとうにまちがったのです

   ほんらいは
   いきているのです
   ところが
   このせかいに
   わたしがつれてきてしまいました・・・

 ちいさき神は、なんだか申し訳なさそうだった。


   あなたは、ほんとうにふしぎなかた・・
   ほんらい、まちがいであっても
   しのたましいとして
   ここにきたれば
   そのたましいは しぬ

   しかし
   あなたはこうして
   たましいがいきている


   あなたのせかいの
   800ねんと いうじかん
   あなたはずっと
   しの
   ふちに
   いらした

   そして
   こうして
   めざめられたのです



 ちいさき光は、ふっと、光を強めた。


   おかんがえになりましたか?
   わが
   おおいなるかみの
   つかえになると?

 そうだった。
 「てきとう」の神の、手伝いになれと、言われていたのだった・・・

 わたしは、再び我がミョール大陸の図を見て、唇を開いた。

 「小さき神よ・・・
  死する事叶わずば・・・
  再び立ちたい、あの大地へ。
  我が故郷へ・・・」

 わたしの周りで、白い風が吹いた・・・・


   そうですか・・・・・・・

 ちいさき神が、ちいさくつぶやいた・・・


「神よ、わたしは・・・
 人の世に、戻れますか・・・」

 ちいさき神は、応えなかった。
 そのまま黙っていると、すこしずつ・・・
 だんだん、大きな光が・・・
 こちらに近づいて来た。


  ほほほ
  おぬしも
  あきぬのう

  ひとのせかい
  こいしいか

 おおいなる光、てきとうの神の存在を感じ、私は自らの額に触れた。
「飽きぬ・・とか、そういう事ではありません。
 人間には、”生きる”という道があるのです。
 たとえ、仕えた神が滅び、父母が亡くなろうとも、
 私は人間には変わりありませぬ。
 あの大地に再び下り立ちたいのです。
 この渇望、判って頂けますか!?」


 しばらく・・・
 静かだった。


  うむ
  おしいのう
  おぬしのようなものが
  そばにおれば
  よいのにのう・・・

  まあ、
  しかたないであろう
  しかし、どうするのだね
  そのひたいは

「あ・・・」
 わたしは、呟いて触れていた額の手を放した。
 そうだ。
 この額にある紋章は、ミョールの紋章。
 この紋章のある姿で、人界に戻るとなると・・・?
 紋章のある人など、現世にいるのだろうか・・・?


  あきらめて
  ”こちら”に
  こないかねえ・・・


 わたしは、てきとうの神の声にやや、むっとした。
「わかりましたよ?
 あなたの魂胆が・・・
 わたしを傍に置きたいのですね?」

 わたしは、ばさり、と外套を脱いだ。

「わたしの力はミョールの力。
 その力は、わたしと、わたしの神との契約。
 あなたとのものではない。
 わたしを人界に戻さぬとおっしゃるなら、わたしに死を!!!!」



 ひゅう・・・
 しろい
 しろい、光が・・・
 また、下から上がって来る・・・。



   ラ・ルー・ヴァ・ウーよ・・
   たしかに・・
   そのちから、ほしい。

   そなたをみこんでいいことを
   おしえてやろう

   そなたのじだいから
   800ねん
   けいかしておるが


   いまのじだいは
   もろもろのかみが
   けつれつし
   いむべき
   ちからをこのむ
   そのようなかみもおる


 ざあああああ
 風が吹いた。
 その風に乗るように、てきとうの神の美しい声が響く。

   いむべきちから
   そのちからで
   われらのせかい
   くるいはじめておる

   たましいをくってしまうかみもある

   さすれば
   わがもとへ
   くる
   たましいがなくなる


「・・・?
 てきとうの神のところに来る魂がなくなると、
 なにか不都合が?」


   そう
   くるべきたましが
   こなくなると
   うまれるべき たましいへと
   うまれかわらない

   つまり
   かみにたべられた たましいは
   うまれる たましいにならない
   たましはへるばかり



 ぼう・・・
 先ほどまで、ミョール大陸の図だった部分が、色々な光を帯びた。
 そして、色々な大陸の図へと変化した。


   わかるかな?
   つまりは、ひとが
   どんどんすくなくなっておるのだ


「・・・」


 わたしは、目を細めた・・・
「・・・
 てきとうの神よ、あなたのおっしゃることはわかりました。
 それが、なぜ、わたしがあなたの元に留まる理由となりますか・・・」
uu-11.jpg

  ふふ


 さあああああああああ
 白き風が吹く。


   おぬし
   そのちから
   つかうつもりは
   もうないのかな

   いぜん
   ミョールのかみに
   たまわったちから

   ミョールはすばらしき
   かみだった
   しかし
   いむべき かみに
   くわれた・・・


   おぬしがちからを
   よきほうこうに
   つかっていけば

   おぬし
   いぜん
   くるしんだようなことが
   もうないように

   そのように
   みちびいていけるぞよ・・・






「・・・」

 わたしは、首を振った。

「てきとうの神よ。
 あなたは隠していますね。
 あなたは力をもっていらっしゃる。
 このわたしから、この紋章を取り、
 そして人界に戻す力がある。
 ・・・
 しかし、わたしを手元におきたいから隠している。
 そうなのですね・・・」



   ほほほほ
   これはこれは
   まいったの


 わたしは、長き髪を撫ぜた。
「よろしいでしょう。
 我が先祖がミョールに仕えたように・・・
 あなたさまに、お仕えします。
 ただ、みっつ、お願いが」

  ほう、みっつとな


「はい。
 この3本の槍にかけ、みっつ、お願いが。
 ひとつは、この紋章をとること」
 わたしは額に触れた。

「ひとつは、わたしを人界に戻すこと」

 ざあっ!
 風がたなびき、白き世界が白銀の光と交わった!


「ひとつは、わたしは、人界とこことを行き来すること。
 ふふ・・
 我が足で踏むべき大地を見ずして”神”にはなれませぬからね」

 わたしは、そう言うと、にこり、と笑った。




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Last updated  February 20, 2010 10:12:02 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
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オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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