Accel

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March 5, 2010
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  これまでのあらすじ
 恐るべき闘技場ハーギーは、強き者を求めて戦いに来る者と、”内”に入ったまま出られぬ者たちがあった。
 ”内”で育ったニルロゼ達は、とある大いなる者の意思により、富豪に買われ、それぞれ外に出たいと思うようになる。
 彼らは、富豪の家にて結託し、ハーギーを内部崩壊させようと決めたのであった。
 その言い出しであったニルロゼは、最も尊敬すべき人、ンサージと闘うこととなった。
 ニルロゼは、ンサージを斬ることはできなかった・・・
 しかし、こともあろうに、ンサージは、自らの身をニルロゼに斬らせたのであった・・・

**************





 静かなその場所の奥で、蛹のように、身を屈めている少年がいた。


 どうして
 どうしてこんなことになったのだろう・・・



 少年の服は、乾いた大量の血で、どす黒くなっている。
 暗い空虚な空間を、少年はまったく虚ろな瞳を見開いたまま、微動だにしないで蹲(うずくま)っていた。


 その場所は、少年一人の部屋であった。




 この少年は、いつもこの場所で闘いを強いられていた。
 強いられていたが、もはやもうそれが日常であった。
 当たり前に近かった。
 あの場に出て、相手を倒す、それが当たり前になってしまっていた。


 心を殺してなにになるだろう。


 ずっと疑問だった。
 ここでの生活は、意味があるか?
 答えもなく、無論誰か話す相手もなく、時間だけが過ぎ、戦う日々が過ぎた。


 その時なのだ、あの人に出会ったのは・・・・・





 このニルロゼは、先日まさに素晴らしい功績を挙げた。
 このハーギーにやって来る剣士の中でも最高に強いのではないかとされる、ンサージを倒したのだ。
 それに対する、国王の褒章は大変な量と質のものであった。
 ただし、その褒章は少年に対してではなく、「ハーギー」に対して、であったが。
 国王からの褒章の一部は少年に向けられたが、少年は全く受け付けなかった。
 受け付けられなかった、というだろう。

 何を言っても、何を与えても・・
 まったく少年は応えず、彼の焦点は・・・合ってなかった。



 闘いで疲れているのであろう。
 その一言で片付けられ、少年は、今まで沢山の少年と相部屋だったが、一人の部屋に入れられた。
 一人の部屋、というより、雰囲気的には、牢屋に近いかもしれない・・・




 もう、この少年は、4日、なにも食べていなかった。
 食事を運ぶ係りのハーギーの青年は、暗い廊下をいつものようにきびきびと歩いていた。
 薄茶色の髪の毛をさらりとさせる、その青年の名はジューロ。
 今日も、手下を配置させ、食事をあちこち配っていた。
 ジューロは、鳶色の瞳をもち、ちょっぴり顎鬚を生やしている、30代の男である。



 食事を配膳する時となると、ジューロも皿などが沢山入る台をガラガラ引いて回っているが、今日は珍しく、食事を一人分だけ、その手に持っていた。


「おい」
 ジューロは、先日・・・恐るべき剣士ンサージを見事仕留めたといわれる少年が入っている部屋の入り口で声を出した。

「おい、入るぜ」
 ジューロは、勝手に少年の部屋に入った。
 ジューロは、やや髭が生えている口を曲げながら、肩を上げた。

「小僧。
 いいかげん、食いなよ。
 死んでしまうぜ」
 ジューロが差し出すその食事を目の前にしても・・・
 部屋の中の少年はピクリともしなかった。

「まあ、おめえが死のうが俺には関係ないが」
 ジューロは食事を少年の目の前に置いた。


「あ、そうそう。
 おめえ、まだ女を断っているって?
 今日辺りから、とうとうここにも女が入るようだぜ?
 ま、適当にやっとけ」

「いらない」
 はっと、ジューロは息をのみ込み、少年を振り返って見た。
 この4日、この少年とこうして相対したが、初めて少年が喋ったのだ。


「いらない。
 なにも」
 少年は、静かに言った。

 ジューロは、ふう、とため息をついた。
 ジューロは、ゆっくり、優しい声で言った。
「よう。
 お前が死のうが、俺には関係ない。
 それだけは、覚えておけ」
 ジューロは、身を屈めて、少年の頬を、左手でゆっくり撫でた。
 その手がすこし離れる・・・。


 すると、少年の目に・・・
 映った。
 ジューロの左の手の平が。

「忘れるなよ。
 俺の言ったこと」
 ジューロは立ち上がった。
「じゃあ、判ったら、それ、食え」
 ジューロは部屋から立ち去った。


 少年の蜂蜜色の瞳に・・・
 僅かに光がともった。
 ジューロの左手の・・手の平に・・・
 刃物で切った線の跡があった。


 ハーギーをぶっこわそう、
 そのために大人たちが交わしている印が、あのジューロの手に。

 そうだ・・・。
 大人も
 そうだ
 仲間も

 ハーギーをぶっ壊そう、
 その高まりの気持ちが皆・・・一致して・・いた・・・。


 だけど、
 だけど
 どうしたというのだ・・・

 それがどうしたと・・・・


 ンサージ・・・

 俺の道を示したンサージ!

 あの人を・・・
 あの人を殺してしまうなんて!!!!!!


「わああああああああっ」
 少年、ニルロゼは、大きく声を上げ頭を抱えて突っ伏した。

 俺が、
 俺が、
 俺が!!!!

 俺があの人を殺してしまった!

 いくら泣いても泣いても、
 ニルロゼの心を導くものはどこにも見えなかった・・・。





 それから・・・数刻もしないというのに・・・
 ぎい・・・
 わずかに、音がして・・
 少年の居る部屋の扉が開いた。
 誰かが、少年の部屋に入って来たのだ。


 ニルロゼは、唇を噛んで血が出て、泣きはらした顔を拭いもせず、ただ、ぼろきれのように床に視線を落としているだけだった。

「ニルロゼ・・」
 女性の声が、少年の名を呼んだ。

「ニルロゼ・・・あたしよ・・」
 女性は、食事を持ってきたようだった。
 女性は、少年の近くに寄ると、彼の肩を叩いた。
「ニルロゼってば・・・」
 女性が少年を揺さぶった。

 少年は、気だるげに瞳をあけ、うるさい、と言わんばかりに振り返ると・・・
「・・・!!!!!
 ナ・・・ナーダ・・・!」
 少年の表情は、先ほどまでと打って変わった!
 はっとしたように瞳を開け、自分の肩に触れる女性の名を呼んだ。

「ナーダ!
 どうして?
 君は・・・」
 ナーダと呼ばれた女性は、微笑みながら、ニルロゼの唇に自分の指を触れさせた。
「あらあら。
 あたしから色々聞きたいなら、まず、これを食べなさい」
 ナーダは自ら持ってきたのだろう、色々な食べ物が乗っている皿を差し出した。
 少年は、しばらく、それを見ていたが・・・
「食べさせてあげようか?」
 女性が言い出したので、仕方なく、自分で食べ始める。
nirunadas.jpg


「一体君は、どうしたんだよ・・・
 『余興』に・・・出たんじゃなかったのか?」
 少年、ニルロゼは、食べながら聞いた。

 この、目の前の女性・・・
 ナーダは、かなり前に・・・
 ”余興”で獣に喰われる、はずだった。

「うん・・それが・・・」
 ナーダは、やや、俯いた。
 ニルロゼは、モジモジしているナーダを見つめ、いぶかしげな顔になった。

 そのニルロゼより、5つか6つは年上の女性が、まるで弟にたしなめるように言った。
「ダメ!
 聞きたいなら食べるの!」
「はいはい・・・」
 肩をすぼめて、少年はまた食べ始める。


 と、ナーダはこそっと小声で・・・
 なんだか、恥ずかしそうな雰囲気で・・・そっと言った。
「あのね、あたし。
 子供が・・・できたみたいで・・」

 ニルロゼの手が止まった。
「は?」


 ・・・・・・
 ニルロゼは頭を左右に振りながら考えた。
「俺の子供?」

 ナーダは、ぐっ・・・・と前かがみになった!
「あなた・・・・底なしの馬鹿ね・・・・」
 ナーダは、くっくっと、涙目になりながら、肩を震わせた。
 そしてとうとう我慢しきれなくなったらしく、両手をお腹に当てながら大声を上げて笑いだしたのである。

「お、おいおい、そんな大きな声だして?
 ・・・大丈夫か?」

 ナーダは、少年に言われ、ようやく深呼吸をした。
 大丈夫、なのは、自分に言われたのではない事は知っていた。
 彼女は、笑って涙が出た目を擦りながら言った。

「大丈夫よ。
 今日はね・・・実は、”赤”が居ないの・・・
 このことは、ほんの数人しか知らないわ。
 あたしは、カンに教わって、ジューロにここまで連れてきてもらったの」
 ニルロゼは流石の事に驚き、素直にその表情に戸惑いの色を浮かべた。
「そうだったのか・・・・」


 少年が、皿に盛られた食事を全部食べ終わると、ナーダは、更に、保存食を出し始めた。
「まだ足りないはずよ。
 ちゃんと食べて。
 あたしのためにも」

 ニルロゼは、ナーダを見ていると、あの富豪の家での会食を思い出し、切ない気持ちになった。
 常に怯えていた女性たち。
 自分より年上なのに、か細く、身長も同じくらいの女性が、涙を浮かべている姿は、今でも忘れてはいない。


 それにしたって、あの時ナーダに教わった、子供の事が、今まさに目の前のナーダの身に起こっているらしい。
 ニルロゼは無理に口の中身を飲み込むと、率直に彼女に聞いた。
「なあ。
 子供ができたって?
 どういうことだよ?」

 ニルロゼに問われ、ナーダは首を振った。
「だから言ったでしょ、聞きたいなら食べなさい!」
「はい、はい・・・」


 このハーギーの中で、かなりの強さの位置にいるであろうこの少年だが、ナーダに頭が上がらなかった。

 ようやく食べ終わると、ニルロゼはちょっと上目遣いで、混じり気のない瞳をナーダに見せるのであった。
「で?
 子供ってさ?
 どこにできるの?」

「あなたねえ・・・
 どうしたら、そこまで馬鹿になれるの・・・・」
 ナーダはつくづくと、溜息をついた。



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Last updated  March 5, 2010 10:49:59 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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