Accel

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March 19, 2010
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 命でも、なんでも惜しくない。
 そうはっきり、後ろにもたれる女性、ナーダは言った。

 宙を見ていたニルロゼは・・・
 あっけにとられてしまった。
 その唇は、やや色も抜け、ポカーンと半分開けているが、少しだけ僅かに動いた。
 彼は、ナーダの言った言葉を、オウムの様に口の中で繰り返した。

 命が惜しくない?


 そう・・・

 これまでも・・・今までだって、いつ死ぬか判らない状況だった。
 いつ、死んでも、おかしくない。それがハーギー。
 でも、好きな人のために・・・?
 好きな人のために、死ぬ?


「・・・好きになると・・・
 死んでもいいって・・・こと・・?」
 ぽつり、と、少年ニルロゼはやっと言った。
 後ろの女性は、肩を揺らして笑っているようである。

「ニルロゼ。
 あなた、死ぬの、怖いと思ったことある?」

 少年は、実に率直に素早く応えた。


「じゅあ、いつか死ぬと思っている?」

「ああ」
 これもまた、春風に花弁が舞うよりも自然に少年は当たり前のように応えた。


「じゃあ、死ぬ前にしておきたいこと、ある?」


「・・・・?」


「さあ・・・・」


 ナーダは、体の向きを少年の方に向けると、彼に手を伸ばし、抱きつきながら言った。
「人っていうのは・・・
 人を求めるように・・・できているんだって・・・。
 それは、人が弱いからだ、と、あたしは富豪に教わったわ・・・」

 流石に、ニルロゼは、ナーダの体がふわりと温かく感じられると、首を竦めながらも、彼女の言おうとする事を必死に理解しようと頭を色々巡らせる。
「・・・」

 ナーダが耳元で囁いた。
「弱いから、誰かを求めるのよ・・・」

「・・・」

「例えば、親は、一番、求めたいわよね・・・」


「・・・そうだな・・・・」
 確かに、失われた両親の事を思えば、一番あの人たちを求めたかった。
 どうしてこんなにも、求めたいのだろうか。
 でも、それとこれとは別問題で、ナーダがくっついている部分がむずがゆかった。


「でも、普通は、親の方が年が上だから・・・
 いつかは先に居なくなるでしょう」

「・・・」
 ニルロゼは、一瞬ムっと唇を尖らせた。
 そんなものなのだろうか。
 親は先に居なくなるものなのか?
 すると、ナーダは静かに言った。
「だから、今度は、自分が、親になるの」

「え?」

 ナーダは、軽く笑いながら、更にニルロゼにもたれかかって来た。
「あたしは、もう・・・
 親に、なりかけているの。
 ねえ、わかる?
 好きな人がみつかると、その人と、親になるのよ・・・」

「・・・親に・・・」

「そう。
 子供ができるの」

「子供」
 ニルロゼは、じっと床を見ているばかりだった。
 考えた事がなかった。
 富豪の所で、ナーダから聞いた話は・・・
 誰の子供を産むか判らない、という事だったのに・・・
 今、彼女が言っている事は、なんだか違う話のようだ。
 それが、頭の中で交錯し、どちらの話も食い違うのに、でもどちらの話も同じのような・・・
 彼にとって、いつまでもそれは、終着点のない疑問なのであった。


「ねえってば!」
 急にナーダの声が上がった。

「な、なんだよ」

「あたしの手ぐらい、握りなさい!」

「は?
 ・・・はい」
 少年は、肩を竦めながら、そっと自分の手をゆっくり上げて・・
 ナーダの指先に触れてみた。

「そうそう、それでいいのよ。
 もー、ほんとうに、あなたは、駄目駄目だわ」
 ナーダは、ちょっと冷たい指で、ニルロゼの指を何度かさすった。

「ねえ、いつか、あなただって、好きな人ができるのよ。
 そうしたら・・・
 ちゃんと、好きな人に、きちんと、好きだって、表現をしないと。
 女は、わからないのよ。
 伝わらないのよ」

「は、はあ・・・」
 なんだか自分でも情けないなあと思うような声を出しながら、ニルロゼはナーダの指先を、思い切ってもう少し上の方までなぞってみた。
 彼女の手は・・・すべすべしていて、柔らかい。
 その手首は、びっくりするぐらいに細かった。
 ちょっと手を離してしまったニルロゼは、またナーダが怒りだすかなと思って、思わず彼女の手をつかんだ。
 と、ふんわりした柔らかな手は、とても小さくて、ニルロゼの手にすっかり包み込まれてしまう。

「君の手は、小さいんだね」
 思わず呟くと、ナーダは何も言わずに、黙って残された手を、握られている手の上に重ねた。


 しばし、そんな状態が続いていると、なんだかニルロゼはまた変な気分になって来た。
 とにもかくにも、どうやら、自分は、女とあんまりくっついていると、この”変な気持ち”になるのだ、というのだけは、理解できたのだ。
 少しだけ、彼女がくっついている部分から自分の体をずらし、呼吸を少し上げて言った。
「で、でもさ、
 その、君は・・・命も惜しくないって言ったよな?
 死んだら、親になれないじゃないか・・・」

 ナーダは、目を瞑った。
「命をかけてでも・・・
 命をささげてもいい、そう思える人が、一生に一人はいるのよ・・・」

 ニルロゼは、思わず、唾を飲み込んだ。
「命を・・・」

 ニルロゼは、ナーダの手を握りながら、何度かその言葉を繰り返した・・・
「命・・・」

 ナーダも呟いた。
「魂よ」


「魂?」

「魂が、惹きこまれるのよ・・・
 魂をかけてもいいと・・・」


 ニルロゼは、急に、ナーダの手を振り解くと、いきなり立ち上がった!
「魂をかけて・・・」

 少年は、天井を仰いだ。


 そうだ・・・
 ンサージが言っていた!

「相手の魂が・・・
 わかるもの・・・」

 少年は、自分の手のひらを見つめた。

 そうか・・・?
 そうなのか???
 ンサージは・・・魂を・・・?


 確かにンサージは言った。
 相手の魂がわかるもの、と・・・

「ンサージ・・・
 俺に・・・
 魂とはなにかを・・・
 俺に、伝えてくれたのか・・・
 命をかけて、俺に・・・」


 呆然と立ち尽くす少年に・・・
  ふわり、と、
 まとわりついて来た者がいた。

「また、男の事・・考えているのね・・」
 ナーダが、顔を伏せて少年の手に取りすがって来た。

「あなたは、あたしの事なんて、考えないのねえ・・・」
 ナーダは心の底から諦めのため息を吐き、そう言った。
 ニルロゼは、そこまでもして自分に寄り添う女性の姿を見ると、今までの顔とは別の表情でナーダに向き直った。

「いいや?」

 ニルロゼは、頭を掻いたり、足をもじもじさせて、言った。
「なんだ、その、ええと、
 君の事は考えては、いたよ。
 牢で一緒だった後・・・
 君が余興に出るというのになにもしてあげられなくて・・・
 辛かった・・」

 ナーダは、ふうん、とそっけなく横を向いた。


「どうしてあげればよかったか・・・
 ずっと、考えていたよ・・・」
 少年がそう言うと、ナーダの頬に、見る間に涙が伝わり、さっとそれを彼女は拭うと、思い余ったようにナーダは少年に抱きついた。
「だからあなたは馬鹿なのよ・・
 最悪」

 少年は、いきなりの事に戸惑い、やや、赤くなった。
「だって・・・」

「だってじゃないのっ!」
 ナーダが泣きながら言った。

「もう!
 馬鹿!
 あたしを抱きしめなさい!!!!」

「は・・・はい・・・」

 少年は、その手を、女性の背に・・・
 回した。
 驚くほど細くて、柔らかい、体だった。



********************
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Last updated  March 19, 2010 11:16:52 AM
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吐息.:*・☆  
風とケーナ  さん
前回から引き続き、このナーダとのシーンは、お邪魔虫が口を挟むことができませぬ☆
もう、ひたすら二人の世界を壁陰から恍惚と見守るのみ。.:*・.。.:*・゜゜・*:.。.

ナーダの艶やかで温かな存在感、ニルロゼの微かな大人への目覚め、月夜見猫さんの滑らかで切なく芳醇な恋愛描写――このナーダとのシーンは、Accelの中で、最も深く心に残る名場面の一つだと感じます。
(March 19, 2010 08:53:36 PM)

ケーナさまっ  
月夜見猫  さん
こんにちは~☆
>前回から引き続き、このナーダとのシーンは、お邪魔虫が口を挟むことができませぬ☆

タハハ・・・おっしゃっていただくとおり、ここは邪魔が入ると困るシーンなんですよね(^^
「赤」がいないという日もあり、全く邪魔ものがおりません☆

>二人の世界を壁陰から恍惚と見守るのみ。

優しく見守って頂き有難うございます(^^)


>ナーダの艶やかで温かな存在感

ですね、不思議な事に、ナーダは大人の女性の色香があったり・・・でもそれを強くしすぎると物語がバランス悪くなるので、実はちょっと難しいシーンでした。
>ニルロゼの微かな大人への目覚め

うふふ。
ニルロゼは、全然女性に縁がなかったのですが、そこに女性のありかたを植え付けていくナーダの存在はとても大事だったのです。

>このナーダとのシーンは、Accelの中で、最も深く心に残る名場面の一つだと感じます。

おお、そ、そうですかね?
ナーダがあまりに純粋なんですよね~。
この後も、ずっと・・・(ってばらしていいんだろうか)
ここまで想われるニルロゼは幸せものだ。

「人を愛することとは」という事に重点を置く俺として、名場面と言っていただける事は本当に名誉とまで言っても過言でない嬉しさです。
ありがとうございまする~
(March 21, 2010 01:00:06 PM)

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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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