Accel

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April 2, 2013
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 平原ばかりだった大地の向こうに森が見えてくる。
 その大きな森に囲まれるように、街が栄えていた。
 秋刻が近づいているのか・・・
 やや涼しい風が、少年セルヴィシュテの髪を凪いだ。
 茶色の髪を、手でかき上げ、セルヴィシュテは街を見下ろした。
 その隣に、皮の帽子を被った少年、ラトセィスが並んだ。


 ラトセィスは、向こうにそびえる山を、染み入るような瞳で見つめた・・・・
が、すぐに相方セルヴィシュテに向き直る。
 実は、ラトセィスは、あの見えている街へは何度か行った事があった・・・


 その街は、廻りをぐるりと木の柵に囲まれ、しかし、あまり柵はそれ程高くない。
 だが、セルヴィシュテは、柵を左に巡りつつ、入り口を探した。
 と、ようやくは入り口らしき場所を発見した・・・

 そこには、2人、門番が立っていた。
 結構退屈そうな雰囲気であった・・・
「あの」
 セルヴィシュテが言った時。
 相方ラトセィスが前に軽く進み出た。
「ハザ出身のラトスです。
 旅で疲れているので、入ってよろしいですか?」
 門番は、にこやかに二人を中に入れた・・・


 街角に物乞いもおらず、家々の前に花が植えてあり、よい香りが漂っていた。
「結構いい街だね」
 セルヴィシュテが、相方をみやりながら、笑った。

「・・・そういえばさ」
 茶色の髪の少年は、脇を通り過ぎる夫人が行き過ぎるのを見送ってからそっと言った。

 ラトスは、通路の脇に生えている桃色の花に、鼻を近づけ匂いを嗅いでいるようだ。
「ここは、ルヘルンの街・・・」
 ラトスは、振り返って意味ありげに微笑した。
「ここでも、様々な契約が蔓延しているのです・・・」
 桃色の花の向こうのラトスの表情に・・・
 セルヴィシュテは、少し、ドキマキしてきた。


 少し破れ加減の服をさすり、さて、とセルヴィシュテは深呼吸した。
 これほどの街であれば、外れで寝ることも、ままならないようである。
 どこかに、泊まらなくては。
 また、親切な人に泊めて貰うか、または、宿賃を稼ぎ出さねばならなかった。

  安宿!5ラワー!

 宿の木の看板に、掘り出した文字が踊っていた。


 ラワー、とは、どのぐらいの単価か、セルヴィシュテにはわからなかった。
 なにぶん、今まで殆ど一文無しで乗り切って来たのだから・・・

 お金を稼ぐにしても、どうやって・・・

 困り果てて、いつものクセの布をいじっていると、フォルセッツ(足に履く衣装)の内側の小物入れから、ぽろり、と・・・
 貝が、零れ落ちた。
 少年がそれを拾おうとしたとき。

「へえん?」
 誰かが、それを蹴飛ばした。
「・・?」
 セルヴィシュテが、貝の行方を追う。
 その貝は、別な者が拾い上げた。

「すみません。
 あれは、俺の貝ですが」
 セルヴィシュテは、目の前の人物に睨みかかった。
 相手は、20代前半の、ちょっと体格のいい男である。
 しかし、セルヴィシュテは、臆面もなく、鋭い視線を投げつけた。
「返してください」
「だってよ、マエーリ」
 男が、貝を拾った方のものに、笑いながら言う。

「小僧。
 俺をどなた様だと思ってそんな生意気な事を言う?
 ここの富豪の息子、ドパガ・・
 せいぜい、首元に気を・・・」
 と、男が半分言ったところに・・・
 茶色の少年、セルヴィシュテが。
 そのドパガの首元に、短剣をさらりと突きつけた!

「ふうん?
 首元に気をつけるって、どうやってさ・・・」
 セルヴィシュテは、軽く目を細めた。
「富豪ってのは、人のものを勝手に取っていいご身分のようだね。
 でも生憎。
 俺は、”ここらへん”の常識にとらわれていないのさ。
 なんといっても、俺は遥か向こうの大陸エルダーヤからやってきた!
 メンニョールのやりかたなんて、知ったこっちゃないね」
 セルヴィシュテは、ドパガから目を離さずにニヤリと言った。
「さあ、どうするね、富豪の息子さん・・・
 俺は結構剣が巧いんだよ。
 さっさと貝を帰してくれるかな」

 ようやく・・・貝を持っていた者が、おずおずとやってきた。


「ふん。
 まったく、メンニョール大陸は、俺の大陸と違って、嫌なことばかりだ。
 こんなんじゃ、住民もさぞ苦しんでいるだろう。
 ドパガとやら、俺は逃げも隠れもしないぜ、せいぜい富豪のお父さんに、泣き言いいな!
 受けて立ってやる!!」
 セルヴィシュテが、貝を持ってきた者から貝を受け取る・・・
 と、周りの民衆から・・・
 少しずつだが、小さな声が上がってきた。

「帰れ」
 それは、本当に小さな声だった。
「帰れ!」
「帰れ!!!!」
「かえれっ!!!!」
 段々、その声は調和を増していく!
 最初、セルヴィシュテが驚いたが、目の前のドパガが・・・
 慌てふためいているようであった・・・
 この周囲の声は、ドバガへ向けられた声であったのである。
「き・・・貴様ら・・・
 いい気になりやがって・・・」
 チッ、と舌打ちすると、ドパガは、今まで貝を持っていた者に合図した。
 一緒に行くぞ、というのだ。

「・・・」
 目深に頭巾を被り、すっぽりとした外套を被った人物は、黙って立っている。
「・・・・私は、いきません」
 頭巾の置くから、少女の声が・・・した。
「おい、貴様・・・あとで吠え面かくなよ」
 言い捨てて、ドパガはきびすを返した。

 辺りを囲んでいた人々は、ワッと歓声をあげ、喜んでいるようである。
 頭巾の少女も、会釈してきた。
「すみません。
 ありがとう。
 助かりました・・・」
 頭巾を取ると、セルヴィシュテより、少し年上の少女のようであった。
「・・・」
 セルヴィシュテは、まだ、本当は・・・
 事の次第がわからなかった・・・

「私は、マエーリ。
 ドパガの気まぐれで、今日のお供をさせられてたの・・・
 よかったら、家に寄って。
 お茶でもご馳走するわ」
 少女は、赤茶がかった黒い髪を、短めに切っていた・・・
 もしかして、ラトセィスより、短くしてあるかもしれない・・・

mae-ri.01jpg.jpg

「あの」
 セルヴィシュテは、先に歩く少女に聞いた。
「富豪ってのは、みんなあんなもんなんですか・・・」
「ううん?」
 マエーリは、少し焼けた腕を振りながら言った。
「あいつは、偽者よ。
 富豪だなんて言ってるけど、”富豪に仕える人”の一人。
 思いあがりもはなはだしいわ。
 さっさと、あいつの親父、首になればいいのに・・・」

 マエーリが、やたら、首元を、気にしている。
 どうやら、痒いようだ。
「・・・もしかして、髪の毛を切ったばかり?」
 首筋まで見えるその髪形に、セルヴィシュテが寒そうに、という目線を送った。
 そう、これから、冬になるというのに・・・・

 マエーリは、応えなかった・・・・


「あら・・」
 暫く歩くと、マエーリの足が止まる。
「どうしたの?」
 後ろを歩く少年二人が前方を見やると、なんだか、人だかりができていた。
「やあねえ・・・」
 マエーリが、溜息をついた。
 茶色の髪の少年、セルヴィシュテが、ちょっと瞳を瞬かせながら、少女に聞いた。
「な、なんかあるの・・・・」
 すると、前を歩くマエーリは、つくづく嫌そうに言った。
「親父が帰っているわ」




 マエーリの家は、料理屋であった。
 しかも、今日はかなり、客でにぎわっていた。
 マエーリは、裏口から、少年達を中へと案内し、二階へ連れて行った。
「困った親父なのよ。
 気が向いた時しか来ないの。
 でも、それをかぎつけて、ああやって客が来るの、不思議よね」
 マエーリは、ちょっと舌を出して、肩をすくめた。
「しゃあない、手伝ってくる。
 あなたたち、くつろいでいて。
 気兼ねしなくていいからね」

 マエーリは、外套を脱いだ。動きやすい、紺色の繋ぎを着ている。
 少女は、階段を降りて行った。
 下の客の声はこちらまで聞こえ、威勢のいい笑い声と、陽気な歌まで聞こえる。
「ラトス」
 セルヴィシュテは、腕捲くりした。
「情報収集にもってこいだと思わない?」 
 そして、少年二人も、階段を降り・・・
 できあがった料理を運んだり食べ終わった皿の片づけを手伝うこととしたのだった。



「へえん、エルダーヤから」
 濁った葡萄酒を傾ける男・・・
 マエーリの父、マーカフ。
 夜になり、客が帰って・・・少年達は、マーカフが、家に泊めてくれると言ってくれたのだった・・・

 そのマーカフの見かけは、冴えなくて、ぼさーーーっとしている感じだった。
 若々しいマエーリの父にしては、やや、年配である。
 マーカフは、果物を切っているマエーリに聞こえるように言った。
「お前、男はこりごりなんじゃなかったけ?」
 と、マエーリが、スコーーーン!と、果物を、父の頭に投げて命中させた!
「アホ親父!!
 あいつは、あたしの事を襲って来やがったのよ!ほんとムカムカするっ!
 その点、セルヴィシュテなんかは、とっても紳士的よ、なんたって、あのドパガに口で負けてなかったんだから」

 ちょっとセルヴィシュテは赤くなって頭をかいた。
「あ、いえ、そんな大それたもんじゃないです・・・
 俺は、ここらへんの風習がわからないから、まあ怖いもの知らずってやつですよ」
「ふうん」
 濁った葡萄酒をまた傾けるマーカフであった。
 いまいち冴えない中年男性は、今度はラトセィスに目を向けた。
 ラトセィスは、干した果物を裂いて食べているところだった。
 マーカフの視線を受け・・・
 ラトセィスは軽く帽子に手を触れた。
「すみません、室内で。
 火傷をしているんです」
「ふうん」
 また、マーカフは、葡萄酒を傾けた。



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Last updated  April 2, 2013 11:22:41 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
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