Accel

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April 5, 2013
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 客が、何人か、驚いて席を立つ!
 その姿を、黒い瞳で見つめていたビアルは・・・
 シャラーーーン!
 と、首元からなにかを出した。
「ふふふふ。
 呼ばれるのであるのでしたら、どこまでも。
 インチキ占い師、ビアルとは私のことっ!」
 ジャーーーーーーーーン!
 キラリと光る、透明の石を、ビアルは高々と掲げた!

 はあ?
 ぽかーーーーーーんと口を開けているのは、背の高い少年ニルロゼと、少女マエーリである・・・。

「いよ!!!!!!待ってました!」
 ヤンヤヤンヤの歓声と、拍手が上がる!

 ビアルは、首から下げた紐の先に、小さな小袋を縫い付けていた。
 それに、あの石が入っていたらしい。
「さー、この私に占われたいという物好きはいらっしゃいますか」
「俺!」
 あっと言う間に、ビアルの周りに残りの客が押し寄せる・・・

「な、なんじゃありゃ・・・」
 流石のニルロゼも、呆れ顔である。


 というか、薬師じゃなかったんか!?

「ビアルは、ここらじゃ結構有名な占い師だよ」
 料理長が、揚げた肉を頬張りながら言った。
「だから、王宮でも占い師をしている」
「は?そうだったんですか」


「ちぇ、占い終わったら、早く出発しなきゃ。
 お姫様が、ご立腹になる前に・・・」
 それはニルロゼの独り言であったが、マエーリが聞き逃さない。
「お姫様?」
 背の高い少年、ニルロゼは、少女に照れ笑いをした。
「ああ、俺ら、城に出入りしているんだ。
 こわーーーいお姫様が、俺らのお帰りを待っている。
 早く帰らないとね。」
 ひゅひゅっ、と、包丁を空中で3回転させ、ニルロゼは数人の人だかりに近づいた。

「あーー、すんません、すんません。
 俺のビアルは、今日は5人までしか占いしませんから~。
 あとは、俺とイイトコ行くのよ~!」
 背の高い少年がそう言うと・・・
「な、なんだって~?!」
「ほ、本当かよ~ビアルっ!」
 色めき立つ客はみな男ばかり。
 それも、そうだ。
 これほど美しい、ビアルが。
 なんだか知らないが、これから、この後ろの背の高いのと。
 どっかに行く、というのだ。

「はい、そうです」
 ビアルは、あまりに美しく、微笑んだ。


 昼下がり、彼らは料理長の家を出ることとした。
 マエーリは、まだ、ニルロゼを憎らしそうに見つめていた。
 そのニルロゼは、栗色の馬に乗り・・・後ろにビアルが乗る。
「あの、料理長、ひとつお願いが」
 ニルロゼは、馬上からマーカフに声をかけてきた。
「なんだ」
 マーカフは、ぼさり、と応えた。

「できれば、長い紐みたいなの、いただけますかね」
 ニルロゼがそう言う。

 数人、彼らを見送る、客も居た。

「紐?そんなのどうする」
 マーカフは、それでも、娘に、紐を持って来いと言った。

「いえ。
 多分ですが、こいつ、馬の上でも寝ると思うんで、縛っておこうかなと」
「・・・・・・・」
 マーカフは、つくづく、ビアルの方を見た。
 ビアルは、くすり、と軽く笑うだけである。

「ビアル~!
 また来いよ~!」
 客の一人が、そう声をかける。
「ええ」
 ビアルが、手を振る。

 マエーリが、長めの紐を持ってきた。
「ありがとうございます」
 ニルロゼは、あくまでも料理長に礼を払うと、周りの人にも軽く会釈をし、馬を進め始めた。
「料理長!
 戻ったら、また教えてくださいね!」
 ニルロゼは、太陽の光に蜂蜜色の髪を輝かせ、マーカフの家を後にした。


「さて、行ったか・・・
 嵐のような奴だったな」
 マーカフが、やれやれ、と溜息をつきながら言った。
「ほんと、ほんと。
 あんなのに、ビアルはもったいない!」
 客の一人が、マーカフに嘆く。
「まあ、ビアルはあのとおり、抜けているからな。
 ああいうのが丁度いいんだろう」
「まあ、そういう見方もありでしょうがねえ・・・
 少女達がなんと思うやら」

「え?」
 客とオヤジの会話に、一人。
 疑問符を投げかけた少女がいた。
 この料理屋の娘のマエーリである。

 マエーリは、薄い青の瞳に困惑の色を浮かべて言った。
「・・・・なにが、少女達に関係あるの?」
 と、客が、逆に不思議そうな顔をしてくる。
「なにがって、ビアルだよ。
 まったく、ビアルに男がついたとなれば、嘆く少女がゴマンといるだろうな、と。
 いや、女がついた、というほうが、よほど大変かもしれないが・・・
 しかしまあ、でもなんで女じゃなくて男なんだ・・・」

「そりゃ、あの少年も、おおかたビアルを女だと思ったんじゃないの?」
 と、別の客が言った。

「だろうね」
 と、マーカフ。
「でも、女だと思ってビアルに近づいて、あれほどビアルに信頼されている男は、今まで見たことはない。
 ということは、うまくいっている、ってこったな」

「だから、それが問題なんだろ、オヤッサンよ」
 客が、オヤジに絡んできた。
「ビアルは一応男なんだからさあ・・・
 うっかり勘違いする少女が続出・・・」
 あ・・・
 と、その客は、目線を横にやった。

「・・・」

 マーカフの娘が・・・
 顔を真っ赤にしていた。


「・・・おやっさん・・・」
 客が、顔を青くして言った。
 マーカフが、やれやれ、と溜息をついた。
「どうやら、うちの娘も、その類のようだ」




 夕刻になり、やっと、客が引けた。
 マエーリは、未だに信じられなかった。
 あの、寝台に寝ていたビアルが、男だなんて。

 そして・・・・
 その、男のビアルに!あたしを勘違いした、とういうのっ!!!!

 マエーリは、そう思うと、自然と鼻息が荒くなり、ムカムカして、イライラが増すのである。

「おい、マエーリ、美容によくないぞ」
 父、マーカフが、釜の掃除をしながら、娘に語りかけた。

「まあ、ビアルにいちいち焼餅しても勝ち目はない。
 あのぐらいの美人はほかにはいないだろう。
 そんなの、ここらの少女はみんな知っている。
 お前くらいだぞ、ビアルの事を知らなかったのは」
 マーカフは、プンプンしている娘の脇に、安物の葡萄酒を持ってきた。

「ほら、機嫌を直せ。
 ハジューのヘベルだ」
 マーカフが持ってきたのは、香りの高い焼き菓子である。
 薄い生地を何層にも重ね、ハジューの果物を煮たのを丁寧に練りこんである、女性の好む菓子だ。
 ヘベルは、その菓子を作るにはかなりの技巧が必要で、作れる職人は少ない・・・
 もちろん、”それっぽい”ものなら、誰でも作れるが・・・
 今、マエーリに出されたように、ふんわりと、形よく作れる者は、あまりいないのだ。
 マエーリは、黙ってヘベルに手を出した。
 今、ヘベルが湯気を出しているということは、昼から既に、父が仕込んでいたに違いなかった。
 そのぐらい、時間もかかる菓子である。

「ねえ」
 一口、ヘベルにかぶりついて、マエーリはオヤジに言った。
「どうして、こいういふうにさ、優しくしてくれるの」
「・・・・・」
 一瞬、わずかながらの、時間がかかる。
 マエーリは、オヤジの目が見れなかった。
「そうだなあ」
 オヤジは、困ったような声を出した。

 また、更に時間がかかった。

「あたし、オヤジの本当の子供じゃないんでしょ」
 マエーリは、ヘベルを皿に置いて、溜息のようにそう言った。
mae-ri.02jpg.jpg

 この押し問答は・・・
 今回に限った事ではなかった。
 マエーリが家出をして、マーカフが連れ戻す度に・・・
 彼らの間で、何度も何度も繰り返されていた言葉であった・・・

「そうだなあ」
 マーカフは、マエーリの皿のヘベルを取り返して、千切って半分にすると、マエーリの皿に置いた。
「ビアルはなあ。
 だいたい2年前に、ここらに来た。
 あいつは、ずっと、一人で、あちこちを放浪していたようだ・・・
 あのとおり、大変美しいからなあ。
 我が物にしたいという、いやらしい、男もいてなあ」
 マーカフは安物の葡萄酒を、瓶ごと口につけて、そう言った。

「もちろん、男だからなあ。
 あいつに、言い寄る女性も、多かった。
 そりゃあ、もてたよ。
 目に見えるようだろう?」
 マーカフは、でかい口で、ヘベルを一口で食べてしまった。

「沢山の、金持ちどもが、こぞってビアルに金を出そうとしても・・・
 けして、ビアルは、誰の下にもつくことなかった・・・
 ここいらへんでうろうろしていたから、たまに、俺が、飯を食わせていたのさ。
 あいつは、金もないし、誰からも、金を貰わない。
 俺も、あいつに金なんか、貰おうとおもわなかった」
 マーカフは、くすり、と笑った。

「それからしばらくすると、俺の客に可愛がられて、占いを始めて、自分の食いぶちだけは、適当にやっていたようだ。
 なのに、姫に目をつけられてなあ。
 そりゃあ、大変だったようだ。
 王宮からも、金を貰ってないようだよ。
 本当に、おかしい奴だ」
 マエーリは、笑っているオヤジの目を、ちらり、と見た。

「あいつは、ほかの場所では・・・
 無償で、人の治療もしているようだ・・・
 ここらからいなくなったのは、そういう理由だ。
 ずっと誰も寄せ付けていなかったあいつが、どうして、身近に一人・・・置く気になったんだろう・・」
 マエーリは、また一口、ヘベルを食べた。

 マエーリは・・・・
 自分が聞いた質問に、オヤジが答えていないのは、別に気にもならなかった。
 その答えは・・・
 ずっと前に、聞いていたから・・・・・・。



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Last updated  November 7, 2013 06:50:27 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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