Accel

Accel

November 7, 2013
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
風がほの寒く・・・
 大地の草は少し茶変し、木々の葉は落ち、空はやや薄い青い色で満たされている・・・
 やや湿った大地を蹴り上げ、走る動物がいる。
 その速度は、動物の持つ本来の能力に比べ、あまり速くはない。
 栗色の毛、黒く穏やかな瞳。
 四本の足を一定の速度で交互に出す度に、草が舞い上がる。

 動物に乗っているのは二人の人間である。
 と、いっても・・・
 一人の人間が、もう一人を、背負っていた。



 ただだまって馬に乗っている分には、ごくごくそこいらにいそうな少年である。
 腰の左側には、やや短めで、わずかに弧を描いた剣と、ごく一般的な短剣の二つを下げている。
 そして、その背には・・・
 黒い外套と、黒い頭巾をすっぽりと被った、人物を。
 背負っている。
 つまりは、この蜂蜜色の髪の少年と、その背に背負われた人物の二人・・・・
 この奇妙な組み合わせを乗せた馬は、穏やかな速度で走っていた。




「はーーー」
 馬の上で、蜂蜜色の髪の人物が、ため息をついた。
「なあ、リュベルちゃん」
 髪と同じ色の瞳を、馬に向ける。

「おい、お前、信じられる?
 本当に寝るなんてさあ・・・」

 そう馬に愚痴るのは、16歳くらいの少年、ニルロゼ。
 つい2日前に馬に乗れるようになったばかりだ。

 その少年は、黒い外套を着た人物を、おぶっていた。
 ただし、普通に背負うと、両手が使えなくなる。
 紐で、上手に、外套の人物を自らの体にくくりつけていた。


「あー、リュベルちゃん~。
 俺って結構やっぱ凄いよね。
 こんな格好でも、ちゃーんと走れるなんて」
 ニルロゼは、右手で”リュベルちゃん”の首を優しく叩いた。

 しかし、一番偉いのは、その”リュベルちゃん”かもしれない・・・
 なんたって、乗馬経験のない少年を、だまって乗せ・・・しかも、その少年は、寝ている人を背負っていた・・・
 これまた、忍耐強い馬であった・・・。


「あー、リュベルちゃん、あっち、あっち。
 ここは、見覚えがある・・・
 もう少し東だろう」
 ニルロゼは、適当に手綱を握っている。
 まったく、あれほどに硬い決意でカンの班に行こうとしていたなどとは到底思えないような雰囲気で、まるで旅行でも楽しんでいるようだ。

 だが、その彼の瞳は、心なしか・・・曇っていた。
 本当は、その心は乱れていたのである。


 そう。
 この道は・・・
 この1年半、”カンの班から離れるために”辿ってきた道・・・
 その道を、逆戻りしている・・・

 なぜ、どうして、離れなければならなかったか?
 あえて、わざと・・・・カンたちとは反対の方向に、来ていたのだ・・・

 ニルロゼは、唇を軽く噛んだ。

 ナーダに、遭いたくなかった。
 でも、・・・・

 でも、なんだろう。
 どうして、遭いたくないんだろう。



 そして、遥か西の方にも目をやった。
 勿論見えはしないが、そこにはハーギーがあるはずだった。
 ニルロゼの瞳に、見えぬハーギーの建物がありありと映った。

 ・・・・メルサ。

 赤い部屋の赤いメルサ・・・
 なんとしても、探す。


 ニルロゼが、ひたすら馬を走らせていると、流石に馬が疲れたようで、益々その速度が落ちてきた。
「おいおい、リュベルちゃん、意外と体力ないねえ」
 ニルロゼは、仕方なく、”二人分”の体を地面に下ろした。

 まったく、どこでも寝れるやつだ。

 そう思いながら、ビアルを草むらに転がした。


 ビアルは、本当に、なんと形容してよいか、もう、美しいという言葉の一言で済ましていいような水準ではない。
 うっかりその姿を誰かが見たら、それこそ大変な事になりそうだ。
 そういう訳で、寝てしまったビアルには、頭巾を被せていた。
 ピラリ、と頭巾を捲って、寝顔を覗き込んだニルロゼは、その幸せそうで平和そうな寝顔に、ちょっと眉毛をしかめた。

「ああ、お前が寝ているからだぞ、たぶん。
 リュベルちゃんは、ご機嫌斜めだぞ」
 ニルロゼの言い分は半分当たってはいるだろう・・・
 ビアルが起きていて、きちんと馬の背に乗っていたら、それほど馬への負担はないはずであった。


 カンのところへは、どのぐらいで着くだろう・・・・


 冷たい青空を、ニルロゼは仰いだ。
 なにしろ、赤を探して、あちこちをさまよった。
 だが、確実に。カンの行った方向だけは、行かないようにと、していたのだ・・・
 1年半も経ったとなれば、カン達も、それなりに移動しているだろう・・・


 ニルロゼは、ビアルの横にごろんと転がった。
 目を瞑ってみる・・・


 ニルロゼ・・・・

 何度、ナーダに呼ばれただろうか・・・
 ナーダは、俺が好きだと、何度も言っていた・・・
 あの気持ちが、どうしても判らなかった・・・
 けど・・・


 ンサージを殺してしまって
 赤の居ないときに
 ナーダがきてくれた
 あのときは・・・
 ほんとうにうれしかった・・・

 あのとき、ナーダがきてくれなかったら・・・

 いまの、俺は、ない。


 そう、それだけだ・・・

 それ、だけ。

 俺にとって、ナーダは・・・
 ただ、俺を助けてくれた・・・・
 それだけ、だ・・




 つい、うつらうつらとしそうになったニルロゼの瞳が・・・
 軽く、開いた。
 唇の端が・・・
 ちょっぴり、釣りあがる。


 ふふ?

 ニルロゼは、笑った。
 誰かが、こちらを狙っている。

 ニルロゼの右手は、彼の頭の下に回されている。
 左手は、腹の上にあてがわれたままだ。

「おう、小僧」
 ふてぶてしい声が、聞こえてくる。
「・・・」
 小僧、は、眠そうな顔を、して、相手を見た。

「命が惜しかったら、金目の物と、馬を置いていけ」
 相手は、剣をニルロゼの喉元に向けていた。

 ニルロゼは、ちょっと首を右側に倒した。
「金目ね」
 瞳を閉じる。
 相手は15人。
 見なくても、わかる。


「ないね・・・」
 ニルロゼは、わずらわしそうに、相手の剣を、左手でちょっと払った。
「見れば、判るだろう?
 こんなガキに、金があると思うか」

 あっと言う間のことである!
 少年は、左手で、相手の剣の平を掴むと、その掴んだ部分を軸に逆上がりし、足で相手の顔を蹴飛ばした!

「へ!
 目をつける相手が間違い!
 さあ、命が惜しければ向かってきてもらおうかしら?
 さくっとお命頂戴しちゃうぜ」
 明るい声で言っているが、内容は全くとんでもないことであった。
 その手には、短い短剣である。
 少年を侮った男どもが、4人がかりで歯向ったが、数秒もしないうちに打ちのめされる!

 ニルロゼは、ひゅう、と短剣を宙で構えた。
「さあ。
 あと11人!
 隠れていても無駄!
 50歩先に1人!
 東の方に3人!
 おっと、大将は西かな」

 ひゅ!
 左手の短剣を飛ばし、一人がその剣に貫かれた!
 瞬間、目にも留まらぬ速さで少年が別の男に手刀を繰り出し、相手の剣をもぎ取る。
「うふふ。
 俺に、長い剣を持たせたら、ちょっと危険だよ」

 ひゅう。
 風が、出てきた。

 がさり・・・

 やや、西から・・・
 何人か、まとめて人影が出てきた。

 ニヤニヤした男が、女性の髪を引っ張って、引きずってきた。
 別の男が、3人。
 それぞれ、人質らしきものを、その手に持っている。

「ほおん」
 ニルロゼは、態度を変化させない・・・
「誰それ」
 背後に近づいた敵を、圧倒的な速さで切り落とし、ニヤリと敵将らしい者へ眼差しを送る。

「誰、それ、だとよ」
 別の男が、ニタニタと言った。
 いや!と小さい悲鳴が上がり!
 なにか音がした。
 布が裂ける音だ。

 と。
 そのほんの一瞬の後・・・
 例のニタニタいっていた男に、変化が起こった。
 しかし、自分になにが起こったのか、わからなかった。

 右手が、熱かった。
 ビリビリとする、痺れが、だんだん、してくる。
 目の前に、蜂蜜色の瞳をした少年が、無表情で立っていた。

 信じられなかった・・・
 さ、さっきまで。
 20歩は、離れていた距離だ!

 少年は、悲鳴を上げた女性を、後ろに下がらせ、統率者らしき者に、ちらりと笑みを送った。

「だから、言っただろうが。
 俺が、長めの剣を持つと、危険なんだ。
 わかった?」

 ニタニタ男は、自分の右手が、手首から下がなくなっていた。
 そして、ニルロゼが、統率者に啖呵を切ったと同時に、統率者も、同じ運命を辿ることとなった・・・


 この段階となって、賊どもは、ようやく恐れをなした雰囲気になって来た。
 相手にしている少年は、あまりに強かった。

 わなわなとしている賊に向け、ほい、と・・・
 背の高い少年が、持っていた剣を放り投げた。
「さて。
 おっさん達、俺はつまらない戦いはしないんだ。
 さっさと退散してもらおうか」

 少年が剣を離したので・・・・
 数人が、剣を抜いた。
 馬の近くにいた、黒い外套を着た人物を囲んだ。

 ニルロゼが、その模様を目を細めて見ている。
 黒い外套の人物は、あっけなく賊に囲まれた。
「おお、こりゃ!」
 族の一人が声を上げた!
「すげえ!
 こ、こりゃすげえ美人だ!!」
 黒い頭巾を下ろされた“美人”は、5人くらいの男に羽交い絞めにされていた。
 しかしその様子をあまり気にもとめず、ニルロゼは、助け出した4人の方に近づき、彼らの傷の様子を見ていた。

「おい、こりゃ、高く売れる!
 いったいいくらで・・」
 それを聞いた賊の一人が、そう言った賊を殴る。
「ケケ、売る前に楽しむのよ」
 族どもは、背の高い少年に向き直った。


「おい、小僧。
 これでも、こっちにかかってくる気があるのか?
 このねえちゃんが惜しかったら・・・」
 族どもは、美しい人質の顔を、へへ、と撫でた・・・・




にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ
*************************
参加ランキングです






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  November 7, 2013 06:16:07 PM
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Profile

月夜見猫

月夜見猫

Comments

月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

Calendar

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: