Accel

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November 7, 2013
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 背の高い少年が、ちらり、と白い歯を出して笑った。
 少年、ニルロゼは、今まで人質だった4人の無事を確かめたあとに、ゆっくりと立ち上がった。
「惜しかったら?」
 覇気のなさそうな声で、族どもに言う。


「あのーー」
 まったりと。
 柔らかな声が響いた。

 男達は、なんだ?と顔をしかめた。


「あのですね。
 あの背の高い、私の相方はですね。
 今まで、自分の剣を抜いていません。
 その意味が、わかりますかね」
 少女も、危機感のなさそうな声で言った。

「なんだと?」
 美しい少女の首に手を回していた男が、前方の少年に目をやる。


「あ・た・り!」
 ニルロゼは、手放した、敵の剣を足で突付いて言った。

「あんたら、疑問に思わない?

 少年が、目つきだけで威嚇してきた。
 危険な笑みである。


「二度は言わない。
 俺は、無駄な殺しは好きじゃない。
 その、めちゃくちゃ美人を、手放して、退散しろ。





 結局・・・
 族どもは、3人を斬られた時点で、やっと退散したのであった・・・
「はあ、また服が汚れた」
 情けない声で、そう言うと、背の高い少年は、助けた4人組みに笑いかけた。
「大変だったね。
 ひどい怪我がないだけ、まだいい」
 そして素早く男性の方に触れてみる。

 意識を失ってはいたが、ニルロゼの言うとおり、怪我はしてないようだ。
 それから、女性の方に向き直る。
「大丈夫か?」
 彼らは20代の青年の集団であった。
 女性の一人が、震えながらも、軽く頭を下げてきた。


 黒い外套の“美少女”が、ゆっくりと、ニルロゼの近くにやってくる。
「あんたたち、ずいぶん大員数に囲まれてしまったようだね。
 ここらへんは、ああいうのが多いのか」
 ニルロゼは、馬を引いてきて、近くの樹に手綱を結んだ。

「・・・いえ」
 意識のあるほうの男が言った。
 まだ若々しい青年である。
「俺ら、契約を破ったんで、だから、守ってもらえないんです・・・・」
「・・?」
 ニルロゼの蜂蜜色の眉毛が、少し、しかめられた。


 青年が、少し疲れたような声で言った。
「申し訳ないですが・・・
 東西に滝がある。その脇の窪みに、馬を隠して来た・・・
 よかったら、連れてきてもらえますか?」

 若い青年は、血の滲んだ額を手で拭った。
「ゴウポル!
 大丈夫?」
 先ほど悲鳴を上げていた女性が、その青年に慌てて取りすがる。
「ラウ。
 大丈夫だ。
 この方々には、馬がある。
 俺らを助けて下さった上、わざわざ馬を奪っていくこともないだろう」
 それを聞いたニルロゼが、ニヤリと笑いかけた。

「そうそう!
 しかも滝があるならありがたい。
 服が洗えるってもんさ。
 じゃあ、君達の馬を連れてくる。
 おい、ビアルちゃん、その女性に、お前の外套をかけてあげてよ。
 服を裂かれたようだから」
 ニルロゼが早速東西に向かい、歩き始めた。


「ご安心を。
 わたしはビアル。
 あちらは、ニルロゼです」
 ビアルは、ふわりと女性に笑いかけ、外套を脱ごうとしたが、馬を連れてくるようにと言った青年が、自分の服を脱いで、女性に渡した。


「・・・」
 女性は、ビアルを見上げながらゆっくり名乗った。
「私は、ラウポル。
 こちらはゴウポル、私の兄です」
 青年が、会釈した。
「こちらの気絶している方は・・・」
 ビアルが丁寧に、気絶している方の男性に手を差し伸べた。

「ゲーギ。
 私の弟です。
 私は、ジーン」
 ジーン、と名乗ったのは、もう一人の女性だ。


「みなさん、ご兄弟どうしなのですね」
 ビアルは、気絶している男性、ゲーギに手を触れ始めた。
「わたしは薬師です。
 ご安心を・・・」

 ビアルは、半眼になりながら、額、首、耳、瞳・・・
 特に頭の辺りを何度もなでていた。
「特に、問題はなさそうですね」
 ビアルは、ゆっくりと手を放した。


 ジーンは、美しい薬師の顔を、まじまじと見た。
 本当に、これほど・・・・
 美しい、少女は、始めてみた。



「たっだいまーーー!」
 パカリ、パカリと馬に乗ってきた少年ニルロゼ・・・
 その馬はなんと!
 馬車を曳いていた!
「わーい!すごいぞビアル!
 馬つきの馬馬だ」
 ひょい、と馬から下りた。
 ビアルを中心に、青年達が、恐れとも、敬いとも言えぬ表情を向けている。

「おー、ビアルちゃん。
 またもててるのね!」
 彼らに近づいて来たニルロゼの体を見て、女性が悲鳴を上げた!
 男性の方は、ぎょっとした表情をしている。


「あ、あらーん。
 そんなに驚かないで。
 名誉の負傷なんだから」
 ニルロゼは、滝で服を洗って、乾かすためにそれを手に持っていた。
 流石にフォルセッツ(足に履く衣装)は履いていたが、上着は脱いでいる・・・

 上半身に、ぞろり、と6本の傷跡が、なぞられていた。



「君達、馬車で旅していたのか・・・
 よかったら、行き先を教えてくれ。
 もし俺らと同じ方向なら、そこまでなら、一緒に行くぜ」
 ニルロゼは、どかりと腰を下ろした。

「ミョール大陸だそうです」
 応えたのは、ビアルである。
 ビアルは、一人の男性を膝枕していた。
 その手は、男性の胸元に、丁寧にあてがわれていた。


「ミョール?」
 ニルロゼが、すっとんきょうな声を上げる。
「ええ」
 相槌を打ったのは、女性の一人だ。
「あなたには、まだ自己紹介していなかったわね。
 私は、ラウポル・・
 弟のゴウポルと、ミョールを目指しているの。
 こちらは、友人のジーンと、その弟のゲーギよ」
「へ、へえ。
 ミョール大陸って、まさか・・」
 ニルロゼが、頭を掻いた。

「このメンニュール大陸から船に乗って、更に東のところにあるらしい」
 ゴウポル、と呼ばれた青年が言った。


「らしい・・なんて、曖昧な・・・。
 俺の知っているかぎり、そのミョール大陸を知っているのは、リュベナお姫様だけだと思っていたぜ」
「え?お姫様が?」
「その大陸の人の嘆きの声を、聞いて知ったそうだ。
 世界の大陸の地図に、今まで描かれてなかったみたいだ。
 だから、誰も知らずにこれまで浮上してこなかったみたいで・・・」
 ニルロゼは、やや歯切れの悪い口元で言った。
 彼に姫が教えてくれた内容は、彼だけに教えられたと思っていたので、他の人には内緒よ、と念まで押されていたので、軽々しく口には出せなかったのだ。

「そういえば、さっき、守って貰えなくなったって言っていたけど、前までは、誰かに守って貰っていたの?」
 ニルロゼは、蜂蜜色の瞳を左右に動かしながら質問した。

「・・・契約を・・・していたのです」
 ビアルに膝枕されている男性が言った。
「ゲーギ、無理しないで・・。
 私が言うわ」
 ゲーギの言葉を、姉のジーンが継いだ。
「私たちは、黒き者と契約を交わしていたの。
 今まで、エルダーヤ大陸へ、船で行き来して、お金を得ていたわ。
 黒き者の言うようにさえしていれば、交易はうまく行ったし、盗賊とかにも、狙われることもなかったの。
 でも、その契約を、破ったの」
「は、はあ」
 ちょっと、話の中身が濃かった。
 ニルロゼは、彼らと接点を持ったことを少しだけ後悔し始めた。
 もしかして、早く帰ることができなくなるかもしれない・・・




 ゲーギの体調がよくなるまで、ゴウポル達はぽつり、ぽつりと色々な事を言った。
 彼らの契約・・・それは、“黒の者”との取引であった。
 最初にゴウポルが言ったとおり、黒の者に命じられるものをエルダーヤ大陸から持ってきたり・・・
 逆に、ここのメンニョール大陸へと運んだりとし、報酬を得ていたという。

「しかし、大陸間を行き来していた船が沈みました」
 ゲーギが、重々しい顔で言った。

「あの船は恐ろしい船でした。
 どのような動力で動いているのかも・・・どのような者が乗っているのかも・・・
 我らには知らされなかったのです」
 ゴウポルも、肩を落として言った。
 しかし、若々しい顔に、僅かながらの希望の光を宿した。
「ですが、あの船に乗っていた仲間が集結し、これから西のはずれのバレジ様のところに行くのです。
 誰がそのような事を思いついたか・・・
 バレジ様は、最近船を作る計画を練っていらっしゃると・・
 俺らは、そのバレジ様に、ぜひぜひにと、お願いにあがる途中でした」
「バレジ?」
 ニルロゼが、その名前を繰り返した。
 なぜか・・・
 覚えがあるような・・・


 ビアルは、俯いたままだった。
 ゲーギに当てた手を離さずにいたが、静かに言った。
「ゲーギさんは、胸に持病があります。
 少しなら、軽くすることができます・・・
 私たちは、これから西に向かいますが、ご一緒の方向ですね。
 一度診た以上は、責任持ってお治しいたします」

 その言葉を聞いたゲーギが驚いた。
「・・・なぜ、それが判るのです・・・」
 その、それ、とは、勿論・・・・
 “持病”を指すのだろう。
「そりゃ、ビアルちゃんが、すんばらしい薬師だからさ!」
 ゲーギの質問に答えたのは、ビアルではなく、背の高い相方ニルロゼであった。



 馬車には、上手に2匹の馬が繋がれた。
 一気に2頭牽きとなった馬車を牽くのは青年ゴウポルである。
 この青年、馬を牽くのがかなり巧みで、二匹の綱を上手に操っていた。

 馬車の中は4人。
 緑がかった黒髪の女性、ラウポル・・・
 明るい金髪の女性、ジーン。
 その弟で、同じく明るい金髪のゲーギ。
 黒い髪のビアル。

 背の高い少年ニルロゼは、窓枠に腰掛けていた。

 西に、向かっていた。


 ハーギーから出て・・・
 班が4つに分かれて・・・

 カンのところから、逆の方向を、ずっと歩んできた。

 その、カンのいる方向に、向かっている・・・

 ナーダが、いる。


    ニルロゼ・・・


 触れてきた指が
 触れてきた腕が
 触れてきた、唇が・・・


 ニルロゼは、思わず、自分の指で唇に触れてみた・・・


 あおい、風景が、どんどん後方に下がっていく。
 あおい、風が、どんどん、通り過ぎていく。


 どうして、ナーダに遭いたいんだ・・・?

 どうしてだっけ・・・


 ニルロゼは、唇に触れながら、黙って流れる風景を見つめていた。


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Last updated  November 7, 2013 06:26:41 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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