Accel

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November 7, 2013
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 馬車を牽くのは、ラウポルである。
 すやすやと寝るビアルに、毛布をかけて、ニルロゼは窓から外を見た。
「どうやらそろそろ・・・かな?」
 呟いた・・・・

 美しい薬師が寝たので、ゴウポルはようやく、背の高い少年に聞きたかったことを聞いてみた。
「あの・・・この方は、いったいどういう方なんです・・・」
 ジーンが、ダメよ、という表情をしていたが、それでもゴウポルは必死に言った。
「あれは、あれは・・・契約の時に飲んだんだ、きっと。

 ゲーギは、体力を消耗したらしいが、やや顔色がよくなり・・
 荷台の壁によりかかりながら言った。
「・・そうだ。
 契約の時に飲んだ・・・」

 ニルロゼは、ちょっとビアルを見ながら、青年達に手を振った。
「さあ。
 ビアルの事は、俺も全然知らないよ。
 知っているのは、こいつが寝たが最後、ひどいと4日は起きないって事くらいさ」
 ニルロゼは、青年達が、ビアルを見る目つきがかなり変わった事にやや驚いた。
 あれを取ったことが、よほどのことらしい・・・

「それにしても、今日で3日か・・・

 口の中でつぶやく。


「ねえ」
 ニルロゼは、窓の外を見ながら言った。
「君らさ・・・
 今後、ああいう盗賊みたいなのに襲われたら、困るだろう?

 そこには、きっと、”しっかりした奴”がいると思う・・・
 そいつに頼んで、道中を守ってもらったらどうだ」
 ニルロゼの横顔を見ながら、ゴウポルが、少し唇を噛んだ。
 確かに、ニルロゼは強かった・・・
 今後、ああいうふうに襲われたら、命がないかもしれない・・・

「でも、縁もゆかりもないのに、そんな事頼めるかな」
 ゴウポルがつぶやくように言った。
「そうか?
 君達、バレジって人の所に、頼みごとにいくんだろう?
 そのバレジとは、縁とか、ゆかりとかあるのかい?」
 ニルロゼが、ニヤ、と笑った。


 風景は段々、ニルロゼの見覚えのある景色になった・・・
 以前に、通った道・・・
 カンの班から離れて・・・
 一人で行動を取り始めた時の、あの頃の風景だ・・・

 ニルロゼの脳裏に、段々・・・
 ナーダの姿が克明に浮かび上がった。
 牢でのこと・・・
 ハーギーを出てからのこと・・・
 忘れたことは、なかった・・・

 と、ニルロゼは・・・
 ふっと、目を左右に動かすと、立ち上がった。
 窓の外は、やや夕暮れに近かった。
 背の高い少年は、じっと、窓枠から外を見つめていた。

「とめろ」
 短く、ニルロゼの声が響いた。
「馬車を、とめろ」

 その表情は、よく見えなかったが・・・
 なにか、恐ろしい雰囲気を感じ、ゴウポルは妹に合図をした。
 馬車が停まった・・・
 ニルロゼは、黙って、馬車を降りた。

「君達は、出てこないように」
 言い残すと、さっと走り出し、東に見える森の方へと消えて行った。

「どうしたのかしら・・」
 ジーンが、口元に手をあて、驚いたように言った。
「なにかあったのかな」
 ゴウポルも、あのニルロゼの尋常ならぬ様子が気になった。
「見てくるよ」
「だめよ」
 すぐに、ジーンが止めに入る。
「出てこないようにって・・言っていたじゃない。
 もしかして、敵に囲まれているのかも」
「・・?」
 ゴウポルは、立ち上がって窓から外を見た。
 特段なにか変化があるようには見えなかった・・・

 荷台の奥で、あいかわらずビアルは眠っていて・・・
 その向かいに、ゲーギが横たわっていた。
 ジーンは、こっそりビアルの毛布に触れて、そしてビアルの顔をまじまじと見た。
 寝ているときは、なんだか少し、普通の少女のように、見えた・・・



 たしかに、感じる・・・

 ニルロゼの右手が、剣の柄に・・・既に触れていた。

 たしかに、感じる・・・
 あいつだ。

 ニルロゼは、呼吸を整えた。
 左右をゆっくりと見回した。
 太い樹が、まばらに生える森だ。
 まだ、陽は傾いていないが、木々の陰が、陰影を作る・・・

 ニルロゼは、全く躊躇していなかった。
 今度で、ヤツのようなものと遭遇するのは二度目。
 一度目のような、間違いは、しない。
 ひゅう。
 ニルロゼは、剣を抜いた。

 ざわ・・・
 風が。
 出てくる。
 ニルロゼは、ただ、宙に、剣を掲げていた。

 と、さっと左へと身を翻す!

 がさ・・

 太い、樹の影のような・・・
 黒い影・・・

 ニルロゼは、目を細めた・・・
 剣を、構える。

「!」
 切り込んだ!
 手ごたえがあった!
「ぐおおおおおおおおお」
 森を揺らすような、ものすごい獣の声が上がった!

「ふううう」
 ニルロゼは、剣を構えながら、ゆっくり呼吸した。
 目の前にいるのは・・・
 あの・・・ビアルに出会ったときの・・・
 あいつ、と同じ種類だ・・・

 あれほど早く
 あれほど恐ろしい

 そんなものが、ほかにもいるとは思いたくなかった。
 が、感じた。
 あの雰囲気を。
 そして、今、目の前に・・・・。

 ひゅ、剣を上段に構える。
 先ほど、”ヤツ”に切り込んだ剣は、既になにかの液体で黒く染め上がっている。
「・・・」
 右足を、前に。
 あっという間もなく、そいつの”足元”に走りこみ、足を切った!
「ごがああああああああああああああああ!!!!!!!」
 のたうつ獣に蹴られないよう、飛び退ると、さっと樹によじ登り、刹那、一瞬も迷わずに飛び降りた!
「はっ!」
 ヤツの頭部に切りつけた!
 !

 な!
 ニルロゼは、素早く頭部から飛び降り、さっと間合いを取る!

 な・・・あそこは切り込めない・・・

 やや、ニルロゼが焦ると、恐ろしい獣の腕がうなりながらこちらへと伸びてくる!
「!」
 さっ、後ろに飛び下がる!

 これでは、”あの時”と同じだ!

 ニルロゼは、歯を噛んだ!

 瞳を瞑った。
 剣を構え・・・息を、吐いた。

 素晴らしい身のこなしで、再び獣の足元へ潜り込む!
「たっ!」
 再度切り込むと、再び、猛獣が雄たけびを上げた!



「あの声・・・」
 ジーンが、馬車の中で身を屈めた。
「なにかしら・・・」
 ラウポルも、既に馬車の中に居て、ジーンと身を寄せ合っていた・・・
 ゴウポルも、なす術がないまま、やや震えて外を見ていた。
 と、3人ほど、こちらに向かう者の姿が見えた。
「ラウ、誰かが来る・・」
 ゴウポルは、腰の剣に手をあてがいながら、馬車を降りた。
 どうせ襲われるなら、この方がまだいい。

 人影は、段々近づき、そしてこちらに手を振っていた。
「ご安心を、旅の方。
 我々は、あなた方に危害を加えるつもりはない」
 素早く駆け寄って来たのは、体格のいい男である。
「あの声、聞きなさったか?
 我々も、あれに脅かされていた。
 よろしかったらこちらへ。
 人数は多い方が、安心できましょう」
 いかめしい雰囲気の男たちだった。
 安心させるようなことを言って、謀るつもるだろうか?
 しかし・・・つまらない憶測に脅えるよりも、今は妹達を安全と思える場所に移動させたほうが得策だ・・・
 だが・・・。
「ありがとうございます。
 ですが、一人、残しておりまして・・・
 待っていないと・・」
 ゴウポルがそう言った時、馬車の奥からのっそりと、声が響いて来た。
「ニルロゼなら、一人で来れます」
 そう言ったビアルを、思わず見たジーンだが、ビアルはまだ寝ていた。
 どうやら、寝言?らしい・・・?
 それにしては・・・
 ゲーギが、少し笑って言った。
「ビアルさんが、ああ言っています。
 多分ニルロゼさんは、一人でも大丈夫でしょう・・・」 


 いかめしい雰囲気の男たちは、少し南に移動した。
 そこには、簡素な作りの家が並んでいた。
 どうやら、ちいさな村のようらしい。
 女性達は、念のため、ビアルの顔が見えないように、”少女”に頭巾を被せ、毛布で丁寧に包んだ。
 こんな状況だというのに、まだビアルは寝ている。
 ゴウポルと、いかめしい男の一人に支えられ、ビアルは一つの家に運ばれた。

「ご安心ください・・・
 と、言っても、どこまで信用くださるか。
 我らは、元は、ハーギーの出身。
 そこから出て、こうやって暮らしている・・」
 ビアルが運ばれた家に、同じく運ばれたゴウポルたちに、いかめしい男がそう言った。

「そ、そうですか・・・」
 ゴウポルは、ただそう言うしかなかった。
 その家には、女性が2人居た。

 彼らは、あまり話をしなかった。
 ジーンやラウポルも、ニルロゼの話をしていいのかどうか、と目を合わせたり、落ち着かない時間が過ぎていく・・・

 ごああああああ

 また・・・
 あの、獣の声がした。

「あなた方、馬車で旅をされていたと聞いたわ」
 家の中に居た女性が、ようやく・・・口を利いた。
「あの恐ろしい獣が、数年前から出るようになって・・・
 私の住む町は、殆ど壊滅よ。
 その時に、ハーギーの方々に、助けて頂いたの・・
 私はケアナ。
 数ヶ月前に、ここに来たの・・・」
 ケアナは、平凡そうな顔つきの、20台の女性だ。
「私もよ」
 隣に居た女性が口を開いた。
「私の町もよ・・・
 私は、たまたま別の場所にいたから助かったけれど、誰もたよりにできる人が残っていなくて・・・
 知らない村だけど来てみたら、ハーギーだったの。
 最初はもうやぶれかぶれの気分だったけどね。
 ハーギーの皆さんが、あなた方を私達の住むところに案内したのは、ハーギーの女性だと、気を使うと思っているからだわ、きっと」
 女性二人は、顔を見合わせた。

「また、聞こえるわ・・・」
 ケアナと名乗った女性が顔をしかめた。
「ハーギーの方々が・・・
 また、あいつと遣り合っているのかしら・・・」
 女性達は、俯いた・・・

 ジーンは、床板を指でなぞりながら言った。
「ここでは、安心できます・・?」
 それを聞いた女性二人は、顔を見合わせて、少し笑った。
「まだ、来て日が浅いけど・・・
 どうやら、私たちと同じように、ハーギーではない人もいるのよ。
 それに、ハーギーの方々は本当に親切よ」
「ふうん」
 ゴウポルが、ちょっとつまらなそうに言った。

 また、あの獣の声が響いた。
 ゲーギも、目をしかめた。
 ニルロゼは、あの声の主と・・・渡り合っているのだろうか・・・・

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Last updated  November 7, 2013 07:01:00 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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