Accel

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November 7, 2013
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 つつ・・・・
 ニルロゼは、足をやや後方に下げた。
 どんなに斬っても斬っても、相手の速度が変わらなかった。
 それに、気のせいだろうか・・・
 ヤツの大きさが・・・
 大きくなっている・・・・

 ニルロゼの鼓動が、やや、早くなっていた。
 あの獣は、明らかに、人がいるほう、いるほうへと、向かっていた。
 どんなに食い止めようとしても、あの馬車があったほうへ、じりじりと、近づいていた。


 しかし、相手は、普通ではない。
 こんなものが、馬車に向かったら、馬車はひとたまりもないだろう。

 ニルロゼは、何度目かの攻撃をしかけたが、とうとう相手に振り切られた!
 相手が速度が速い!
「くっ!」
 動物の足が繰り出されてくるのを必死に避け、体制を立て直したが、また腕が襲ってくる!
 素早く剣を構え、斬りつけたが、相手の速さに、ニルロゼはよろめいた!

 こ、これは・・・

 ニルロゼは、一瞬の間に恐ろしい事が頭をよぎった。

 これは、負ける・・・

「ぐうううううう」

 殆ど最後の力を振り絞り、ニルロゼは後方に飛び去った!

 ヤツが、こちらを見ていた。

 久しぶりの戦慄に、ニルロゼの手が震えた・・・
 その震える剣に、自分の顔が映る。
 蜂蜜色の・・・瞳。


 剣から、獣へ・・・
 瞳を、移した。

 こころがまけたとき、すなわち・・・
 ニルロゼは、再び息を吐いた。

 ヤツの腕が振り下ろされる!
 その腕に、両手で剣を突き刺した!

「ぎゃあああああああああああああああ」
 獣は更に大きな声を上げ、腕を振り回した!
 ニルロゼも素早くその腕から逃れたが、なんと、剣が・・・
 ヤツの腕に刺さったままである!
「・・・・!」
 ニルロゼは、きりっと唇を噛んだ!
 しかし、更に短剣を抜いた。
 盗賊とやりあったとき、きちんと回収してあったものだ。

「!?」
 思わず、後ろにその剣を突き立てそうになった!
 流石に、ヤツとの事で目一杯だったニルロゼは、誰かが近づいていたとは気が付かなかったのだ。
「・・・」
 ニルロゼの短剣に、剣が軽くあてがわれた。
 ニルロゼが今まで持っていた剣によく似た・・・
 少しだけ細身の、美しい剣だ。
 その剣を持っている人の顔を、ニルロゼはまさに少年の笑みでみつめた!
「カ・・・カン!」
 呼ばれた青年は、肩よりやや長めの金髪を揺らして片目を瞑って言った。
「再会に喜んでいる場合じゃないぜ」



 ハーギーでメルサのところまでを一緒に行った青年、カンに廻り合い、少年ニルロゼは、視線を獣にと戻した。
「あいつとやりあった事があるのか?」
「いや」
 カンの答えは短かった。
 腕に剣を差したままの獣が、再度二人に襲い掛かり、二人は左右に分かれた。
 ニルロゼは、自分の剣が刺さった腕の方に行った。
 なんとしても、あれを取り戻さねば・・・
 と、カンが、真っ向から獣に切りかかり、その首元に剣を立てた!
「お、おいカン!」
 ニルロゼはとっさにカンの方に寄り、更に胸元に斬りつけて、獣を後退させた。

「カン、あいつはすごい素早いんだ!
 あんなに接近したら危険だ」
「それは知っている」
「なに?」
 彼らが慌てて話す間にも、再び獣の腕が襲ってきて、二人は再度二手に分かれた。

「ブナンが、やられた」
 カンがそう言って剣を構えた。
「ブナンが!?」
 ニルロゼも、短剣を中段に構え、間合いを取る。
「そうだ。
 俺とブナンとで、こういうのをやつけようとして、やられた」
 カンが再度切り込んだ。
 ニルロゼも、短剣で相手の足を突き、そのまま反対側へと走り出る。
 襲ってくる腕をかわすと、カンの隣へ並んだ。

「ブナンが・・・まさか」
「いや、死んではいない・・が」
 カンが豪胆にもまた喉元に斬りつけた!
「カン!」
 ニルロゼは走り寄り、獣の肩の辺りを斬りつけた。
「やめろ、ダメだ、こういうやりかたは・・」
 そう言う間にも、彼らに獣の足がのしかかろうとして来る。
 二人は素早く身を翻した。

「ニルロゼ。
 あいつは、戦いが長くなればなるほど、不利だ!
 見ろ・・・」
 カンが言うまでもない・・・
 獣は、ニルロゼが出遭った時と比べ、明らかに大きくなっていた!

「ふうううううう」
 恐ろしい唸り声・・・
 ニルロゼは、思わず額の汗を拭った。

「行くぞ!」
 カンが再度獣の懐に飛び込む!
 ニルロゼは、後方に回って後ろ足を切りつけた!
 短剣ながらも、狙いと力を間違えなければ、深く傷がつく・・・
 獣が、ぎらり、とニルロゼを振り返った。
 喉元から、ダラダラと・・・
 黒い血のようなものを流していた。

 ひゅう、
 獣の腕がニルロゼを襲う。
 少年は、身を低くしてかわすと、カンの方へ走った。

「カ・・・」
 ニルロゼは、我が目を疑った!
 カンが・・・倒れこんでいた・・・
 少年が驚いている間もなく、獣が襲い掛かってくる!
 ニルロゼは短剣を飛ばして獣の目を貫くと、カンの剣を手にとった!

「カン、しっかりしろ!
 すぐに連れていくから」
 さっ、立ち上がると、獣の喉元に切り込む!
「があああああああ」
 ニルロゼが、やった、と口元を思わずほころばせた・・
 しかし、その口元は、すぐに・・・硬くなった。
 獣の喉元から・・
 なにかが、でてきた。

 黒い、物体・・・

 その時間は、一瞬のようで
 長い時間のようだった。

 動こうと思えば、動けたかもしれなかった。
 が、まったく予期できぬその光景に、ニルロゼはただ立ち尽くした・・・

 なんと・・・
 獣の首元から・・・
 ずるり、と、獣の頭が出て

 体がでてきて

 足がでてきて

 そしてとうとう、ニルロゼの瞳に・・・
 ふたつの、黒い。
 獣の姿が・・・映った・・・。
 口が、渇いていた。
 手が、動かなかった。
 頭が、ついていかなかった。

 獣が、こちらを、みていた。

 獣達が、飛び上がって、こちらに向かう。
 その速さに、風がおこったかのようだった・・・


 と・・・
 獣よりも、もっと黒いものが・・・
 ふわり、ニルロゼの目の前に現れた。
 一瞬のことだった。
 ヤツらが、まばゆい明かりに照らされ・・・
 その光に悶えて熔けていくかのように、どんどんと小さくなり・・・
 そして、音もなく、消えてしまった。

 明かりもまた、消えた。

 だが、ニルロゼは、やや暗くなった森で・・・
 目の前に突如現れた人物を、明かりがなくても見てしまった。

 なぜなら、その人物は、本当に目の前にいたからであある。
 その人物は、微笑んでいた。

 ニルロゼは・・・・
 あの、獣が二つにわかれたときよりも・・・
 大いなる衝撃を受けていた!

 こんなことが・・・
 こんなことが、あるのか・・・

 それは・・・
 黒い、髪の・・・
 黒い、外套を着た・・・
 美しい、人物・・・

「・・・」
 ニルロゼは、頭の中で、ただ一つだけの、ある名前が恐ろしい速度で駆け巡っていたが、どうしてもその名前を口にできなかった!
 いや、いや・・・
 ちがう!?

 長い・・・
 長い、髪だ。

 黒い、長い髪・・・
 どんな夜よりも
 どんな闇よりも、黒い・・・

 そして、長い外套だ・・
 これも、黒い・・・

 白い、顔は・・・まるで、美しい石を磨いたかのように・・・

 黒い、瞳が・・・
 ニルロゼを、みつめていた・・・


「早めにここを出ないと、またアレが現れますよ」
 唐突に・・・目の前の人物が、そう言った。
 その人物は、木々に溶け込むように・・・姿を、消して行った。

「・・・」
 カンが、うめく声を聞いて、ようやくニルロゼは我に返った。
 あの獣がいたあたりに、自分の剣が落ちていた。
 ニルロゼは、剣を拾って鞘に収め、カンを背負って森を出た。

 まだ、夜になっていなかった。

 あれほど・・・・・
 あれほどに・・・・・

 うつくしいひとが・・・いたのか?この世に??

 ニルロゼは、驚き、戸惑い、そして、また、しかし捨てきれないある思いを何度も消そうとした。

 まさか、まさか、でも・・・
 そう・・・

 ビアルのはずがなかった・・・・
 そう、違う。


 ビアルは、もう少し、年が上だ・・・
 それに、もう少し、”美人じゃない”

 そう、そうだ。

 ニルロゼは、必死になって、馬車の方へと戻った。
 すると、カンが、僅かに、首を振って、南だ、とつぶやいた。

 ニルロゼは、少し南に向かうと・・・
 小さな村を発見した・・・

 心臓が、爆発しそうだった。
 あの、獣にやられそうになったあの時よりも・・・
 もっと、恐ろしい思いをしたような気がした。

 あの、恐ろしいほどに・・・
 美しい
 あのひとは・・・
 だれだ・・・

 黒い髪に・・・
 黒い外套に・・・
 黒い瞳・・・・?

 くそ!

 ニルロゼは、案内された小さな家に、転がり込んだ!



 どたり!
 靴も脱がず、長身の少年、ニルロゼは、小さな家に上がり込むなり、床にはいつくばった!
 あまりに慌てていて、カンを背負っていたのを忘れていた。
 カンの重みで、平行を失ったニルロゼは、見事なまでに情けない格好で転がったが、そんな事などお構いなしに、また体を持ち上げる。
 ニルロゼを村の入り口から案内してきた青年二人が、ニルロゼの背からカンを丁寧に下ろした。
「ビ・・・ビアルっ」
 ニルロゼは、顔を真っ青にして家の中をぐるりと見回した。
 知らない女性が二人。
 そして、ゴウポル兄妹。
 ジーン姉弟。
 ゴウポルが、目を泳がせている方向を、ニルロゼが睨んだ。
 そこにはまさに、毛布が蓑虫のように転がっている。
「・・・・・・」
 ニルロゼは、鬼の様な形相でその毛布にすがりつくと、バッと毛布をひっぺがした!
「・・・び・・び・・・・びあるうううううううううううううう」
 半分鳴き声で、黒い外套を着た、毛布の中身の人物に、取りすがった!
「うわーーーーーん!俺、本当に、死ぬかと思った!
 うううううう!!!!」
 その言葉だけを聞いていれば・・・ニルロゼが、「死にそうに」なった理由が、他の者には勘違いされたかもしらない。
 そう・・・ニルロゼが、一番寿命が縮んだのは・・・あの、恐ろしく美しい人物と出逢ったこと。
 その、人物が、ビアルではないか、と思ったことだった!




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Last updated  November 7, 2013 07:09:20 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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