Accel

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November 7, 2013
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「うう、俺としたことが。
 お前があんなんと一緒のわけないよなっ!
 ああ、よかったよかった・・・うう・・・」
 あまりのニルロゼの取り乱し様に、連れて来た男達が呆れた声を発した。
「おい、大丈夫か、ニルロゼ・・・」
 男に、肩をゆすられ、ニルロゼはようやく我に返った。
「お、おお・・・すまんな、ケルジ。
 俺としたことが、ちょっとな。
 そ、それよりどうだ、カンは」

 もう一人の男も、同じくうなだれている。

 ニルロゼは、蝋燭の明かりで、カンの傷を改めて見た。
 肩が大きくえぐられていた・・・
「これは・・・骨が見えるな」
 ニルロゼも、流石に再び青くなった。
「ビアル・・」
 ニルロゼが、ビアルを振り返った時・・・
 ビアルは、体を起していた。
 こちらを見ていた。
 片膝を立て、その膝に腕をかけている。

「・・・」

 皆が、息を飲んだ。
 ビアルの居る方向には、蝋燭はない。
 なのに・・・なぜだろう・・・・
 その、かもし出される雰囲気から、煌煌たるきらめきすら、覚えるような・・・
 今までに、味わったことのない、美しい、その存在・・・


 瞳をニルロゼに向ける。
 そして、周りの人々に向けた。
「・・・ニルロゼ。
 あなたの言いたい事は、判りすぎます。
 あなたの思っていることは、とても単純ですね・・・」
 くすり、と笑って、カンの肩に手を触れた。

 ケルジが、思わずビアルの美しさに見とれ、そしてもう一人の男も、息を飲んで立ち尽くしていた。
「さて」
 ビアルは、ぽつり、と言った。
「ニルロゼ。
 どうしましょう。
 この方々が、こうやって、じーっとご覧になっていますと、とてもやり難いです」
 ビアルは、恐ろしいほどの美しい笑顔を煌かせた。
「あ・・・」
 ニルロゼは、ちょっと回りを見回した。
「ああ。
 ケルジ、こいつは、ビアルってんだ。
 治療に関してはすごい。
 それは俺が保障する。
 ええと、どうやらビアルは人払いを希望している。
 すまんが、この方たち、別の場所に移動させてくれ」
「・・・」
 ケルジが、戸惑ったが、馬車に乗ってやって来た客人達が、立ち上がった。
 それを見たケルジは、仕方なく言った。
「じゃあ、君たち、俺の家でよかったら、来てくれ」
 ケルジは、客人4人と、女性2人を外に出した。
 ニルロゼも、外に出ようとした。
「ああ、ニルロゼ、あなたはここに」
 ビアルが言った。
「へ?」
 ニルロゼは、ちょっと冷や汗をかいた。
「あなたは、ここに」
 ビアルは、振り向きもせず、同じ事を言った。


 ニルロゼは、部屋の隅で、ビアルに背を向けていた。
 ビアルの治療の邪魔にならないように、だが・・・
 この場合は、外にいた方が、ビアルが集中できるような気がするのだが、なぜ、自分を残すよう言ったのだろう・・・
「ニルロゼ」
 ビアルが柔らかな声で言って来る。
 ニルロゼは、ちょっと首筋が痒くなった。
「この方が、もう一人、治して欲しい方がいると、言っています」
「は!?」
 これには流石のニルロゼも唖然として、ビアルの方を見た。
 ビアルは、カンの肩に手を当てていた。
 その顔の表情は、よく見てとれない・・・

「その方を連れて来るよう、表の人に言ってください」
「・・・」
 ニルロゼは、ぶすっとして表に出ると、家の前で待機していた者に、小声で言った。
「おい」
 ニルロゼに話しかけられた青年は、ビクリとして振り返った。
「ブナンの体の状態は、どうなんだ」
「・・・」
 青年は、やや、ぎこちない表情をして答えた。
「ブナンさんは、足を酷くえぐられ、歩けない状態です。
 回復は無理でしょう。
 あれから、ひと月経ちました」
「そうか。
 じゃあ、ブナンを担いで連れてきてくれ。
 美しいお姫様が、治してくれるかもしれん」


 その夜・・・ずっと・・・
 ビアルは、聞き取れないような小さな声で、なにかを言っていた。
 小さな炉を作って、火を起し、そこで薬も調合しているようである。
 ニルロゼは、ずっと、ビアルに背を向け、壁を見つめていた。
 どうして、ここに残るようにと、言ったのだろう・・・
 俺は、治療の役に立たないし・・・
 あいつの精神集中に、邪魔かもしれない。
 なのになぜ?

 ニルロゼは、胡坐と腕組をしたまま、瞳を閉じていた。
 カンの居る班に、今いる・・・
 ここのどこかに、ナーダが・・・

 深く、瞑想した。深い呼吸。
 自分も、精神を統一させた。


「ニルロゼ」
 呼びかけられた。
「ニルロゼ」
 二度、呼ばれ、ようやくニルロゼは我に返った。
 蜂蜜色の髪の少年は、ちょっと慌てて振り返った。
「カンさんが、お呼びです」
 ビアルが、ブナンの足に両手をあてがいながら言った。
「カンさんは、ずいぶん酷い方です・・・
 朝までに、どうにかしろとおっしゃいました」
 ビアルは笑いながら、ちらり、とニルロゼを見た。
 どうにかしろ、とは、どういう意味だろう・・・

「カン・・」
 ニルロゼは、黄色い葉が貼られたカンの肩を見ながら、カンの脇に膝をついた。
 カンは、まだ青い顔をしていた・・・
「ニルロゼ・・・」
 カンが、くすんだ表情で、瞳を開けてきた。
 ニルロゼは、カンの手を取った。
 が、カンは、弱弱しく、その手を振り払った。
「馬鹿野郎」
 カンは、瞳に精一杯の怒りを込めて言った。
 ニルロゼは、一瞬、なにを怒られているのか、と、戸惑った。

「お前が、あそこであいつと闘っていなかったら、俺はお前を殴っていたぞ・・・」
 カンは、途切れ途切れに言った・・・
「カン・・ど、どうしたんだよ・・・」
 ニルロゼは、あたふたとして、困ったり、驚いたり、様々な表情を浮かべた。
「お前・・・なにしに、ここに来た・・」
 カンは、肺の息を全て吐きつくすように言った。
「え・・・」
 ニルロゼは、一瞬言葉が詰まった。
「ええと・・」
 ニルロゼが言葉を選んでいると、カンが畳み掛けるように言った。
「答えられないなら、すぐに出ろ」
「えっ」
「俺がまともな体だったら、お前を斬ってでも、ここに入れなかったぞ」
「え・・・」
 ニルロゼは、流石に、表情が硬くなってきた・・・
「カン・・・どうして?
 なにがあった・・・」
「なにがあった、だと?
 俺の質問に答えろ・・・なにしに来た」

 再び・・・間が開いた。

 ニルロゼは、息を整えて・・・そして、唾を飲み込んで・・・
 ちょっと、心臓の辺りに手を置いて、言った。
「・・・お、俺、ナーダに逢いに来たんだ・・・」
「ふん」
 カンが、鼻で笑った。
「じゃあ、やっぱり速攻で外に出ろ・・・ナーダはいない」
「なに!?」
 ニルロゼは、思わずカンに取りすがった!
「そうだ。ここには、ナーダはいない」
 カンは、端正な顔を、ニヤリと笑わせた。

 ニルロゼは、瞳を大きく開けると、首を振って半分叫んだ!
「ど、どこに!じゃあ、どこに!!!」
「ふ・・・やっぱり、お前は、まだガキだ。
 いいか、ここの女性の名は、前は全員ナーダだった。
 そして、その後、それぞれ名前を好きな名前に変えた。
 だから、ナーダなんて女性はいない」
 カンは、瞳を瞑って言った。
「カン!あ、あんた・・・
 俺を騙そうったって、そうはいかないぞ!?
 あいつを見ればすぐにあいつがわかる・・・
 俺は、あいつに逢いたいんだ!!!!」
「なぜ」
 素早く、カンが言った。
「なぜ、逢いたい」

 また・・答えられない・・・
 少年、ニルロゼは、”ナーダ”を任せた男、カンの変わりきったその表情に、ただ、唖然とした。
「なぜ・・・」
 ニルロゼは、宙に視線を泳がせた。

「ニルロゼ・・・時間というものは、酷なものだ。
 お前が俺らから離れてもう1年半・・・色々変わるんだ・・・
 女性の名前も変わったし、
 俺らの住む場所も変わったし・・・」
「カン!お・・俺は、変わらないよ!
 俺は、今も、赤を探している・・・
 赤を見つけるために、俺、もう一度だけ、ナーダに逢いたいんだ・・・」
 また取りすがるニルロゼに、カンが笑った。
「ニルロゼ。お前は子供だ・・・
 俺の質問にきちんと答えろ。
 なぜ、彼女に逢いたいんだ・・・」
 ニルロゼは、首を振った。

 ああ・・なぜだ?
 なぜ?そんなこと・・・


「そんなこと、わからないよ・・・」
「ふふ・・・判らないお前は、彼女に会う資格はない」
「どうして!!!!」
「カン、坊主を苛めるのはそのぐらいにしろ」
 急に、太い男の声が横から割り入った。
 ブナンである。
 ブナンもその体を横たえていた。
 ハーギーで1、2を争うかという力の持ち主、そして、頭も切れるこの男。
 ニルロゼも、カンの次に尊敬している男である。
「ニルロゼ。
 お前は、あいつに惚れられていた・・・
 そのぐらいは、理解していただろう?
 その女を残し、お前は出て行った。
 いいか、女というものは、現実的にできているんだ。
 構造的にも、精神的にもな。
 一度好きになった男はとことん惚れ続けるのが女の恐ろしいところでもある・・・
 またその逆も真なり」

 ブナンは、ニルロゼを見ずに言った。
「お前は、あいつが好きなのか・・?ニルロゼ?
 あいつが好きだというなら、逢っていくがいいだろう・・・」
 ブナンは、やっと、顔を横に向け・・・
 ニルロゼの瞳を真っ直ぐに捕らえた。
「ただし」
 きり、とブナンの表情が変わった。
「ただしだ。
 あいつを、きちんと最後まで、そう、きちんとだ!
 支えて行くか?それができるか?お前に?
 一度突き放しておいて・・・
 また逢いたいなんて、都合がいいと思わないのか?
 女は、そう、また言うが・・・
 女は現実的なんだ・・・
 お前は、あいつを、生涯、そう、生涯をだ。
 支えていけるか?」

 ニルロゼは、呆然とその場に固まっていた。
 彼は、何が言われているか・・・
 その言葉の表面上の事は、理解できていたが・・・
 頭の中で、その言葉が鐘のように鳴り響いて、何度も繰り返して・・・クラクラしそうだった。

「お、俺は・・ただ・・・」
 焦点の合わない瞳で、ニルロゼがつぶやいた。
 カンが、首を僅かに振った。
「ただ、なんだ・・・
 そんな生半可な気持ちか・・・
 お前は、相手を傷つける事を知らないのか?
 お前はなにも判っていない・・・
 どれほど、どれほどあいつがお前を想っていたか・・・
 あいつの身の回りに変化さえ起こらなければ、もしかしたら俺はお前を止めなかったかもしれない。
 が、物事、世の中というのは・・・
 そう、時間というのは、皮肉だ、ニルロゼ。
 お前は、誰かを本気で好きになったことがないのか・・・
 心の底から・・・あいつは、本当にお前を好きだったんだ・・・
 でも、過去のことだ」
 カンが、はっきりとした口調で唇を一度閉じた。
「そう、過去だ。
 お前は、もはや過去なんだ、ニルロゼ。
 過去を蒸し返すか?
 今、もはやお前は出る幕はないということだ。
 お前は、彼女を傷つけるだけの対象なんだ。
 俺の言っている意味がまだ判らないか・・・
 あいつを・・・生涯、だ。
 支える。
 それだけの度量があるというなら、逢うんだ。
 そして、ここに残る。
 そのつもりがあるなら、逢え」
 カンは、面倒くさそうに瞳を閉じた。

 ニルロゼは・・・
 カンの顔を見ていたのに・・・
 その顔が、よく見えなかった。
 今、自分は、どのような状態に置かれているのか・・・
 今、なにを言われているのか・・・

 ここまで言われてなお・・・
 ニルロゼには・・・まだ。
 理解が、できていなかった・・・
 いや、理解したくなかったのかもしれない・・・





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Last updated  November 7, 2013 07:38:55 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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