Accel

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December 8, 2013
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「だいたい、お前がニルロゼをここに入れるのが間違っている」
 ビアルとニルロゼが去って行った朝、ブナンは、これで何度目かとなる説教を、カンにたれていた。
「お、俺はこの場所なんか教えていない」
「なんだと?ニルロゼは、お前に教わったといっていたぞ」
「え・・」
「全く、結局ロゼと逢うのも許しちまったし。
 お前は甘い!」
「え・・・」
 ブナンに怒られながらも、カンは、必死に眉毛を寄せた。


「まあともかく、お前も、あの別嬪さんの言いつけを守るんだな!」
 ブナンは、赤くなってそう言った。
 両手を使って扉の方までを移動する。
 家の外では、青年が二人待機している。ブナンを運ぶ係りだ。
 そして、女性が一人・・・
 その女性はアルジェという名前である。
 これから3月がかりで、ブナンの足の治療を、するため、呼ばれて来ていた・・・

「・・・」
 ブナンは、ムッとしながら、自分の家に運ばれて行った。
 アルジェも、黙って着いていく。
 ブナンの家は、独り者の家を絵に描いたような家で、酒と、水瓶と、干した肉くらいしかなかった。


 そこでやっとブナンは口を開いた。
「アルジェ。
 君が嫌になったら、いつでも途中でやめていいから」
 ブナンの足は、右足が太もものあたり、そして左足は脛に、何本かの切り傷のような跡が大きく浮かび上がっている。
「・・・」

 ビアルに、言われたのだ。
 本人が痛がるとき、そうでない時も、できる限り、常に触れていてください、と。

 ブナンは、まさかこのような形で、想う人を傍に置くとは・・・思ってもいなかった。
 そう、密かにアルジェの事を想っていた。
 でも、ただそう想っていただけで・・・
 ハーギーを出て2年も経過していないし・・・
 女性にとって、男は嫌な思い出の対象でしかないだろうと思っていた・・・。

 しかし、ビアルに散々念を押された。
 想う人に、触れてもらわないと、なおりません、と。

 そんな程度で、治るのか、と聞いたら、あの美しい少女は言ったのだった。

  わたしは、つねに、いのちをかけています。
  そのように、いのちをかけられるひと・・・
  または、いのちをかけていいとおもうひと。
  そういうひとが、ちからをもつのです

  すべてにおいて。



 小さな家に取り残されたカンは、左肩を押さえながら、フラフラと外に出た。
 数名、青年が脇から支えてくれ、自分の家へと戻る。
 ほぼ2日、美しい少女がずっと・・・・
 自分にずっと触れ続けて、くれたのだ。

 そして今日、言ったのだ。

 ニルロゼは、赤を探していらっしゃいました・・・
 ですが、ナ-ダさんにお遭いしないと、探せない状態に陥っていました。
 ニルロゼは、その根本的な原因を、ずっと自分で否定していたので、どうすれば赤が見えるかが、判っていませんでした。
 ようやく、ナーダさんに逢えば解決すると、ご自分で気が付いたのです・・・

 こころとおなじように・・・
 体もまた・・・
 ちょっとした、差し水があれば、治るきっかけがあるのです。

 私は、もう今日帰らねばなりません。
 ですから、あなた方も、私の代わりに、治してくださる方が必要なのです。

 さて。
 ここからが、私の・・・
 ニルロゼを苛めた仕返し、ですからね・・・

 あなた方、散々、ニルロゼに言いたいことを言っていらっしゃいましたが・・・
 ご自身方は、いかがですかねえ・・・・
 全く、どうやら、いいお年にもなって、お好きな女性をお傍に置いていらっしゃらない。

 ニルロゼみたいな年なら、まだともかく、あなたがたはどうなんですか?
 ニルロゼに説教できる立場ではないようですねえ・・・

 ちゃーーーんと白状していただきますよ・・
 私の代わりに、あなた方の傍に居て治療をしてくれそうな女性が、いるはずです・・・



 結局その後、ブナンは、以前から思っていた女性を呼んだ。

 そしてカンは・・・
 ぼさーーーーーーーっと一人でいた。

 そうだった。
 ”治療をしてくれそうな人”など、いなかったのだった。
 カンは、班の東中央の、やや奥まった自分の家で左肩を押さえていた。
「おーい、おにいちゃん・・」
 子供達が、数人やってきた。
 今まで、剣技を教えていた子供達だ。
「お兄ちゃん、大丈夫・・・・」
 カンは、右手を振って笑った。
「ああ。
 大丈夫だよ・・・」

 大丈夫、ではなかったかもしれない。
 ものすごい痛さだった。
 ビアルが、”怒って”痛い治療を始めた以上の痛みが・・・
 ビリビリと肩から広がって、頭まで痛かった。
「俺、寝ているから、お前達、別なところで遊んでいろ・・」
「・・・・・・」
 子供達は、変わり果てたカンに、戸惑いの目線を送って、どこかへと走り去って行った。

 ビアル・・・
 あの手で、もう一度、触れてくれないだろうか・・・

 うかつにも、そう思ってしまった。
 カンは、少し赤くなって、頭を振った。


 昼近くになると、痛みは更に増してきた。
 汗ばむ体を、ふらつかせ、ロゼたちが住むところへと、行ってみた。
 ロゼは、6人の女性と住んでいた。
 ブナンが、ニルロゼと逢うのを、俺が許した、なんて言っていた。
 だとしたら、ロゼは、ニルロゼと、逢ったのだろうか・・・

「カン!?大丈夫なの・・・」
 ロゼ達の家には、4人の女性が残っていた。
「ああ・・それより、ロゼは大丈夫か?
 あいつに逢ったって聞いたが・・・」
 家の入り口に寄りかかりながら、カンは家の中を見た。
 どうやら、ロゼはいないようだ。
「まあ、問題がなかったなら、いい・・・
 俺も、心配性かな・・・
 じゃあ」
 フラフラと歩くカンに、一人の女性がそっと後ろから支えた。
「送ってあげるわ」
「・・・い、いや、いい」
「でも、大変そうよ」
「・・・」

 結局、カンは、その女性に自分の家まで送ってもらった。
「すまなかった・・・。
 ありがとう」
 カンはそう言うと、左側を下にして横になってしまった。
「ねえ、カン、本当に大丈夫なの・・・?」
 女性は、不安そうに言った。
「ああ、大丈夫。
 だから、戻ってくれ」
「な、なにか私にできる事ある・・・?」

 カンは、暫く黙っていたが・・・
「いや?」
 と、短く言った。

 女性は、少しだけカンを見守っていたが、帰って行ってしまった。

「・・・」
 カンは、青ざめた顔を、苦痛に歪めた。
 ビアルが言った言葉が、また頭に繰り返された。

  想う人に、触れていてもらってください・・・


 想う人?
 カンは、首を振った。

 そんなに、そんなにうまくいく話なんか、ないのだ。
 ブナンは、あの女性からも、前から慕われていた。
 そんなこと俺だって判る。

 俺は・・・俺が想ったって・・・

 きり、肩が痛んで、カンは目を強く瞑った。
「・・?」
 と、人の気配に、カンはちょっと身じろぎした。
 瞳を開けて、上体を起す。
 扉が、叩かれた。

「・・・どうぞ」
 カンは、できるだけ顔色をよくしようと、右手で頬を拭った。
「!?」
 と、入ってきた人物を見て、カンは動揺した!

「お昼、まだ食べていないんでしょう」
 入って来たのは、サーシャだった。
「聞いたわ。
 ロゼの事、心配しているんだって?
 あの子は、大丈夫よ、あんたが思っているより強いから」
 サーシャは、カンから僅かに離れた場所に座ると、果物や干し肉を置いた。
「ちゃんと食べないと、治らないわよ。
 じゃあ、置いておくから、食べてね」
 言いたいだけ言って、サーシャが立ち上がる。

「・・・」
 カンは、ちょっと唾を飲んで・・・
 恐る恐る、言ってみた。
「あの」

「なに」

 二人の間で、なんだか冷たい雰囲気が漂った。

「あ、あの、ありがとう。
 いやあ、丁度、腹が減っていたんだ・・・
 ああ、でも、俺は、恥ずかしいながら、肩が痛くて・・・
 指もしびれて、巧く物が掴めない。
 もう少し、俺の傍に、それを置いてくれないか」

 サーシャは、ジロリ、とカンを睨んだまま、ぶっきらぼうに言った。
「なに言っているの。
 あなたが怪我しているのは左でしょ。
 右手で取ればいいじゃない」

 カンは、悲しそうな表情になった。
「・・・
 左側にあるものを取るのは、辛い」
「・・・」
 サーシャは、怒ったような顔つきで、ふんっと食べ物を、右側へと移動させた。
「これでいい?」
「・・・」

 カンは、右手を左肩から離した。
 が、すぐに、苦痛に顔を歪め、また肩を掴みなおす。

「見てわからないか。
 俺のこのザマを笑いにきたのか?
 早く出てくれ!」
 とうとうカンは投げやりに言って、ぷいっと顔を背けた。

 サーシャも、ふんっと背を向け、カンの家を出ようとした。
「まて」
 カンが、痛さに耐えながら、やっと言った。
「サーシャ。
 待って・・・」

「な、なによ・・・」
 サーシャは、入り口に手をかけながら答えた。

「さっきのは取り消す。
 すまない・・」
 カンは思わずごくりとつばを鳴らして飲んでしまいながら、言った。
「君に、お願いがあるんだ・・・
 今日、今日だけでいいから、俺の傷に、触れていてくれないか・・・
 とても痛くてかなわない・・・
 たのむよ・・・」
 カンは、とうとう敗北宣言のように、うなだれてそう言った。
「・・・なにそれ」
 サーシャは、ちょっと顔をしかめて言った。

「・・・俺を治してくれた人が、言ったんだ。
 だた、触れてくれるだけで、いいそうだ。
 それだけでいいって」
 カンは、すがる様な目を、サーシャに向けた。

「嫌だって言ったらどうするの」
 サーシャは、両手を腰に当ててふんぞり返って言った。
「・・・君以外に頼もうと思う人が思いつかない。
 だから、たのむよ・・」
 カンが、頭を下げていると、ふわり、と、女性の手が、カンの肩に置かれた。

「・・・どうして私に?
 あなたを素敵だって思っている女性ならば、きっと喜んでいつでもあなたの傍で治療してくれると思うけど?
 そういう人に頼めばいいじゃない」
 すると、カンは、サーシャの手に、自分の右手を重ねた。
「・・・さっきも言っただろう。
 頼みたいと思う人が君以外に思いつかない」
「・・・」

 しばらくカンに触れていたサーシャは、カンが眠ったのを確認してから、自分の子供を連れに戻った。
 子供を連れて、カンの家に行くと、カンは青い顔をして寝ていた。
 サーシャは、子供を横に寝せ、カンの肩に再び触れた。  


 翌朝、カンは、子供が泣く声で起きた。
 サーシャは、子供を両腕で抱えている。
「じゃあ、カン、一日って約束だったわよね。
 私、子供の世話もあるし。
 もう、いいでしょ?」
 サーシャが、カンの顔を見ないように、そう言った。
「・・・」
 カンは、右手でポリポリと頭を掻いていた。

「やっぱり、駄目かなあ」
 モジモジとしながら、カンは言った。
「・・・
 3カ月間・・・
 俺の、治療をして欲しいんだ、本当は」
「は?」
 サーシャは、思わずカンを直視した。 


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Last updated  December 8, 2013 11:03:26 AM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
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オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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