Accel

Accel

December 31, 2013
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
 水色の絨毯や、白い石でできた床と壁。

 石の本来の色、やや肌色がかったその色に映し出された自分の顔の上に、両手を乗せて、ニルロゼは金髪の姫の背を見つめていた。

 今日は、なんとなく、”赤”っぽく感じたのは・・・
 髪を結んでいないからかな?

 そんな事を考えてみた。
 あの、赤い衣装を着ていた時も、姫は髪を解いて振り乱していた・・・・


 そのニルロゼの視線を感じ取ったように、姫が振り返りながら言った。


 姫は、白くて、側面に鳥の形を施してある茶碗を差し出してきた。
「・・・」
 ニルロゼは、ちょっと、押し花に視線を落とす。
「たぶん、ね・・・」
 少し、ため息混じりにニルロゼは呟いた。

「この花・・
 この間リュベナの着ていた服の、花だよね」
 人差し指で、押し花の収まった木に少し触れてみた。
 リュベナは茶碗を手にとって口元に運びながら微笑んだ。
「あら。
 よく判るわね・・・

 輝きの花、よ。」
「今着ている服の花は?」
「・・・」
 リュベナは答えず俯いた。


 すこし、二人は話すことがなく・・・


「ねえ、姫。
 あの・・・
 よかったら、教えて欲しいことがある。」
 ニルロゼは、蜂蜜色の瞳をやや上目使いにし、姫にちらりと視線を送った。
「どうしたのです?」
 姫は、目を逸らしている。

「結婚。
 君は、たしか、結婚するって言っていたね。
 結婚するってさ、どういうことかなと・・」
「まあ・・」
 リュベナが、口に手を当てた。


 姫、リュベナは、出て行ってしまったビアルが少し心憎かった。
 ニルロゼと二人で話すなんて・・・
 なにを話せばいいのであろう。

 先日、このニルロゼに抱きしめられ・・・
 今までにない感覚を感じ取った。

 人の心の声が見えるリュベナ。
 どれほど距離が離れていても、”その人”が”多くの人に聞いてくれ!”といわんばかりの声であると、聞こえてしまうのだ。
 かといって、聞こうとしても聞こえないこともある。
 この能力に悩まされ、以前は常に閉じこもりがちであった。

 沢山の読書は、大きな外の世界を垣間見る楽しさであった。
 幼少の時に出遭った、”美しい方”のおかげで、知性を磨くことを念頭に置いた姫は、その後外交もできるだけし、その目で本の世界の”現実”を体験もした。


 目の前の少年は、先日、想う人に逢いたいと切に願っていた・・・

 人が、人を愛し・・・
 愛する人を見つめたい、
 近くに行きたい、
 話したい、
 触れたい・・・

 そのような気持ちは、”沢山の人”が抱いている感情で、更に生々しい欲の感情までもが、姫に”聞こえて”さえもくる。


 今、目の前のニルロゼが、結婚とはなにか、と聞いていた・・・

 姫は、横を向きながら言った。
「愛する人と、生涯を一緒に暮らす・・・」

 と、ニルロゼが、姫の指に軽く触れた。
「リュベナ。
 なんだか今日は怒っているのかい?
 どうしたんだ・・・
 なにかあった?」

 姫は、頬が赤くなって来た。
 手が僅かに震えてくる。
 ニルロゼの指は、軽く、トントンと姫の指を叩いた。
「君の指は”優しい”指だね。
 いい指だ・・・」
 ふう、と長い溜息をついて、ニルロゼは姫から指を離し、頬杖をついた。


「いとしい・・・
 人、か・・・」
 ニルロゼも、視線を逸らした。
 天井が見える。
 白い花と、白い鳥・・
 それらの彫刻が見事に配置されている。 
「結婚、するんだってさ」
 ぽん、と投げるように言うと、視線を姫に戻した。

「俺。
 逢ってきたよ・・・
 あいつの事が心配だったんだ。
 またひどい扱いを受けたりしていないかってね。
 でも、大丈夫みたいだよ。
 結婚するってさ」


 ニルロゼの喋っている、今の話は・・・
 まったく、説明が足りてはいない。
 が、姫には、段々、ニルロゼの心が・・・
 見えてきてしまった。

 そうである。
 相手が、なんの気なしに、心を開いたり、逆に閉じたり、そういった相手の気持ちの揺れで、姫にその気持ちが流れて来るのだ・・・


 ニルロゼが、想っている人が、結婚する・・・。

 波のように寄せて返す光景が、姫に伝わってきた。
 女性の姿や・・・男性の顔・・・
 逢いたい・・・・
 抱きしめたい・・・

 逢ってはならない?
 逢いたい
 どうしてだろう?

 結婚ってなんだろう

 ニルロゼ・・・
 女性が、真っ直ぐに、ニルロゼを見つめている・・・

 なんどでも言うわ
 あたし、あなたが好きなのよ



「ニルロゼ・・・
 その方、あなたに、なにか大事な事を言わなかった・・・」
 姫は必死に頭を振って言った。
「・・・?」

 姫は、両手で顔を覆い、小声で言った。
「ずっと、ずっと前によ・・
 思い出して・・・」


「・・・・・」
 ニルロゼは、哀しんでいるような姫の様子に戸惑いながらも、懸命に過去を探って行った。

 少年は、眉間に皺を寄せ、瞳を左右に動かしながら、懸命に思い出していた。
「俺が好きだって・・」
 繋げて、考えていく。
「俺が好きだから、逢いに・・・・!?」


 急に、姫に、怒涛の光景が再びなだれ込んだ!

「そうだ!
 魂だ!
 好きな人のためなら魂を!
 ああ・・・
 思い出した・・・
 大事な人だ・・・・
 求める人だ・・・・
 親を求めるけど、親が先に・・・いなくなる、だから・・・
 今度は自分が親に・・・
 それが結婚だって・・・・」

 ニルロゼは、机から乗り出して、姫に近づいたが、まだ姫は顔を覆っている。
「リュベナ・・・
 ああ、俺は・・・
 俺はあのとき・・・
 どうして気が付かなかったんだろうね・・・・
 俺は、俺の求める人は、あの時他にいた・・・・
 ナーダは、俺を求めていたのか・・・」

 ニルロゼは大きな溜息をつくと、座りなおした。
 そして、呼吸を整えると、まだ顔を覆っている姫を見た。
「リュベナ。
 どうしたの。
 ごめんよ・・・
 なにか悲しいかい?
 ああ、話がつまらないかな?
 ハハ・・ちょっと判りにくい?
 俺が逢って来たの、ナーダってんだよ。
 馬のおかげで行って来れた。
 ありがとう」
 一息入れて、茶を飲んだ。

「なんだかねえ。
 古株の野郎が、ナーダに逢うな、逢うなって言うんだよ。
 なんだかわからなかったけど、それが、結婚するから逢うなってさ!
 結婚すらわからないのに、どうしたらいいんだってのね」
 蜂蜜色の瞳の少年が軽く笑うと、ようやく、姫が顔を手を離し・・・
 美しい小さな布で、顔を拭っていた。
 どうやら、泣いているようであった。

「君は・・・
 いや、女性というのは、本当にわからないなあ・・・
 そのように泣かれると、とても困る。
 俺はどうしたらいいんだ?」

 と、姫はどうやら肩を震わせて笑い始めた。
「いやねえ・・・ニルロゼ」
 笑いながら、言っていた。

「な、なにが嫌なんだ?
 そ、そこらへんも全くわからないなあ・・」
 必死に額を掻くニルロゼである。
「あなた、女性の気持ちが判らないのね・・・・」
 と、言われると、ニルロゼは唇を尖らせた。

「判ったら困らないさ。
 全く、その言葉、ナーダにも言われた」
「まあ」
 今度は姫は顔を上げて笑い始めた。
「ほら。リュベナ。
 君は笑っていた方がいいよ。
 そのほうがよっぽど可愛い」
「・・・!」
 姫はビクッと体を後ろに下げた。


 可愛い、なんて、初めて言われた。


 ニルロゼは、茶の香りを愉しんでいるようである。
「まあ、これで赤に集中できるよ。
 あいつにも逢ったし・・・」

 姫は、背の高い少年を恐る恐る見た。
「ニルロゼ。
 あなた、そのナーダさんは、好きではないの?」

 ニルロゼは・・・・
 茶碗を持ったまま、ちら、と姫を見た。
「・・・さあ。
 命をかけてまでは好きではないかもな。
 魂が、引き寄せられるんだってさ・・・
 魂だって・・・」

 姫に・・・再び、ある光景が少しずつ見えてきた。
 緑の甲冑だ・・・・

「ねえ、ニルロゼ。
 ちょっと、見てみますか・・・」
 姫、リュベナは、ゆっくり立ち上がると、左側にある本棚から、一冊の本を持ってきて、ニルロゼの前に置いた。
 やや古い感じで、表紙は木でできている。
 その木に、焼き付けて標題が記されてあった。


 十二神記


「十二神記?」
 ニルロゼは、本と姫とを見比べた。
 姫は、おもむろに茶碗を二人分取って、それを奥へと戻しに行き、机に戻ると押し花の入った木も奥に置いて来て、そして机の前に座った。
「ええ。
 あなたが知りたいという事も書いていると思います」
 姫は、いきなり真ん中よりも後ろのあたりの部分の紙を開いた。
「ここらへんに、愛の神サドガジュの事が書いていると思います」
「へ、へえ」


 字は、ハーギーの時は一応習ったし、ビアルにも習ったので、大体は読めるニルロゼは、愛を司る神の話を、最初は興味ないな、と思いながら読んでいた。
 愛を信じない人に、その愛とはなにかを切々と説くという話だ。


 人を愛することすなわち
 己を愛すること
 人を愛することすなわち
 大地をあいすること
 人を愛することすなわち
 すべてをあいすること


 読み進むうちに、いつかニルロゼは、サドガジュの言葉に引き込まれ、どんどん紙を捲って読んで行った。
「ねえ、次の話も読んでいい」
 姫が承諾するかも確認せず、目を本から離さずに、後半部分を読んでしまったニルロゼは、今度は最初から読み始めた。

「へえ。沢山の神様がいるね。
 真実の神。
 光の神。
 炎の神。
 愛の神。
 あとは・・・」

 光の神の次を読み始めたニルロゼは、次の神の話に・・・
 これは、また、別な驚きを感じてきた。

 今までなおより真剣な眼差しで、その神の話を読み始めた。
 その姿を、姫、リュベナは黙って見つめていた。
niruryube04.jpg
 彼女の手の平は机の上で組まれていた。
 バサバサに跳ねている髪は、腰まで長い。
 少し痩せていて、体格も顔つきも容貌がいいとは言いがたい。
 貧乏な家の少女が無理やり美しい服を着せられていて、ここに座っている、と・・
 なにも知らない人が一瞬だけこの光景を見たら滑稽に思うであろう。
 が、この、美しい部屋の持ち主であるのは、この少女である。

 この少女はこの国の姫である。
 見かけこそ、そう、こうして黙っていれば、ただの少女であろうが・・・
 備えられた知識と態度、培われた度量までは隠さなくとも醸し出されていた。

 対面している少年は、蜂蜜色の髪を光を反射させ、幼さが残りつつも彫りのある眉目は研ぎ澄まされ、通った鼻筋と口元をしている。
 蜂蜜色の瞳の少年・・・
 ニルロゼは、一度読み終わったその神の部分を、また、再度・・・
 繰り返して読み始めた。


 姫は、青い瞳で・・・
 そのニルロゼを見つめていた。
 その口元が、少し、噛み締められている。

 組み合わせている手元も、やや、力がこもっているようだった。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  January 11, 2014 07:04:04 PM
コメント(5) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Profile

月夜見猫

月夜見猫

Comments

月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

Calendar

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: