Accel

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January 11, 2014
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 赤い絨毯の引かれた廊下は長く、壁は白い石でできていて、太い柱にはところどころに金の燭台、鳥の彫刻が施されている。
 天井には豪勢にも美しい女性像などの絵が描かれている。
 壁はところどころに配置された、色硝子が嵌められた丸い窓が、きらびやかである。
 その窓からの光が彩る広い廊下を、黒い衣装の人物が音もなく歩いていた。
 音がしないのは、音を殺しているのではなく、絨毯が厚いから靴音がしないだけである。

 黒い靴は、硬い木の皮をなめした物を編み上げて作ってある。
 ごく一般的な、庶民の履く靴だ。庶民は皆、自分で編んで作る。
 この人物の靴はずいぶんボロボロで、細くした木の皮がはみ出ている部分がある。


 これも、黒色だが、かなり履いているらしく、灰色に退色している部分もある。

 ばさり、と黒い外套を羽織っている。
 これも、黒・・・だが、まさに着たきり雀なのだろう、こちらもシワシワで、ヨレヨレだ。

 その内側に、灰色の薄い服を着込んでいる。


 この美しい廊下は、ナイーザッツ国王の城内である。
 王の城に、このようなくたびれた格好の者がたった一人・・・
 目的もなさそうに、静かに足を進めていた。

 ヨレヨレの黒い服の人物が角を曲がると、警備の者が立っていた。
 甲冑を着込み、帯剣している。
 大柄のその男は、黒い服のその人物を見ると、素早く頭を下げた。


 黒い瞳。柔らかな口元。
 この者は、王の娘・・・すなわち、リュベナ姫のお抱え占い師、ビアル、である。

 ビアルは、姫の部屋を出た後、一人で城の中を歩っていた。
 この少年は、城の中をどのように歩いても、警護の者に咎められる事はない。
 城の内部はかなり知り尽くしていた。



 城の二階部分に、城勤めする者を居住させる部屋を備えていた。

 いや、勿論のこと、色々な城があるが、殆どの城の国王は、城勤めの者を、城の外に別棟を建て、そこに住まわせるであろう。
 ところが、「一般的な」城勤めであっても、城内に住ませている城は、近隣では珍しい。
 ”普通の”王であったら、かなりの腹臣でない限り、城の中に住まわせないであろう。


 一階、地上部は、庭園が殆どである。
 そう、つまり、この城は二階からが始まりと言っても過言ではなかった。
 二階に上る階段が地上の多数を占めている。

 二階は、謁見の間。
 厨房。
 城勤めの者の部屋。
 奥に、姫の部屋。
 三階が、王の部屋となっている。

 かなり広い城で、流石のビアルも隅から隅まで知り尽くしていない。
 ビアルは、先ほどまで、城内に住む城勤めの者の部屋を回り、生活はどうかとか、変わったことはないかとか、世間話をしていた。
 殆どの部屋を回りつくし、かなりの人々と話をした。
 そろそろ、日が傾いていた。
 透明の窓越しに、橙色に染められたルヘルンの街を・・・
 黒い瞳でビアルは見つめていた。

 ニルロゼはいつまで姫と話し込んでいるのであろう。

 話が終わるまでと思って、城勤めの者の部屋を回っていたが、とうとう全員回ってしまい。
 ぶらぶらと、あてもなく歩いていた訳であった。

 さらさらとした黒い髪が、光を反射すると、少し紫に見える。
 彫りはそれほど深くはないが、眉のあたりに憂いを帯びた感じが見える。
 緩やかな丸みを描いたその瞳は、知性と潤いに満ちている。
 しかし、どことなく、寂寥の雰囲気を・・・これまた、醸し出していた。

 ビアルの顔立ちは、大変に整っているわけではない。
 が、その醸し出されている雰囲気に彩られ・・・
 時に、角度によって?
 表情によって?
 驚くほど美しく見える。

 ルヘルンの街から瞳を逸らしたビアルは、もと来た道を戻ろうと足を運んだ。
 足に何か触れたのを感じ、足元を止める。
 そこに、黄金でできたなにかが転がっている。
 白い手でそれを拾い上げると、この城の象徴の鳥の形だ。

 この廊下のどこかの装飾が取れたのだろう・・・

 ビアルは、あちこちに視線を送ったり、壁伝いに、それが欠けた部分がないか一生懸命探した。

 北側の廊下の壁沿いの手すり、窓の格子、欄干、扉の取っ手などをかなり見たが、どこにもそれらしい場所が見当たらない。

 天井から落ちたのですかねえ・・・

 少し天井を見上げたが、天井から落ちたものであれば、どこから落ちたかなど見つけられるわけもない。
 ビアルは、この欠片を、王に持って行こうと思った。

 その時、触れていた手すりに、微妙な感覚を感じた。
「?」
 手すりを何度か摩ってみる。
 よく見ると、その同じ部分の壁も、模様が一直線に途切れている。

 隠し扉・・・?

 ビアルは、目を細めた。

 もし、隠し扉であれば・・・
 進入すればビアルであろうと王は許さないであろう、と直感した。
 ビアルは直ちにその壁に背を向けた。
 だが、弾みで扉が内側に開く。
 これはいけない、と、手すりを掴んで戻そうとしたが、どんどん内側に開いていく。
 ビアルは、手すりを掴んだまま、室内を見る羽目になった。

 室内は、どのぐらいの広さか判らなかった。
 窓がないのか、暗がりである。
 が、中に大量の人々が入っている雰囲気を感じ取った。
「・・・・」
 ごくり、と、流石のビアルも唾を飲み込んだ。
 踏み入れてはならない場所を、見てしまっているのか?

 そのビアルの瞳に・・・
 数人、男の姿が捉えられた。
 皆、城の警護のものとはやや違った格好をしていた。

 ニヤニヤとした雰囲気が、明らかに漂っている。
 彼らは趣味の悪い派手な装飾を施した甲冑、沢山の指輪を嵌めていた。
 その指輪が嵌められた手には、使い込まれた剣がそれぞれ握られている。
「ケケケケ・・・」
 笑う男たちは、どのような者だろう。
 しかし、ガラの悪い雰囲気が満々である。

 ビアルは、手すりを掴んだままである。

「おい、見ろ・・・
 こりゃあ、すげえ・・・・」
 男たちは、腰に袋を数個下げていた。
「これほどの綺麗な子は見たことがねえなあ?
 こりゃすげえ」
 ケケケ、と何人もが、ニヤニヤしながら笑った。

 体格のいい、そして顔つきもふてぶてしい男が、ビアルに近づいて来た。
「へええ・・・。
 ねえちゃん・・・
 こんなところに一人でいると・・・」
「いると?」
 男たちは、ハッと、驚いた。
 急に、どこからともなく声が響いた。
 若々しい男の声だ。


 ビアルは、後ろから逞しい腕が自分の体に回されるのを感じた。
 その逞しい腕の持ち主の、残ったもう一方の手が、ビアルの頭に優しく触れた。
 ビアルを後ろから抱きしめながら、その美しい顔の頭の上で、ニヤリと笑う少年がいた。

「すっげえ、美人さんだってえのは、俺も、認める。
 けれど」
 ビアルの頭の上で笑う少年は、蜂蜜色の瞳を煌かせて言った。
「俺の大事なビアルちゃんに手を出して貰っちゃ、困るぜ?」

 ビアルをひょい、と後ろに下がらせ、蜂蜜色の瞳の少年は、右手を剣の柄に触れさせた。
「ニルロゼ。
 ここは、いいです」
 ビアルが、その少年の右手に触れ、軽く顔を振った。
「早く扉を閉めましょう」
 ビアルの視線を受け、ニルロゼ、と呼ばれた少年は、足を後退させた。
 ビアルは、腕に力を込めて手すりを引き寄せる。
 男達は、ケケケ、と哄笑をあげた!
 ニルロゼは、眉毛を吊り上げながらも、手すりを掴んで、ビアルと一緒に引き寄せた。
 扉は・・・
 音もなく、閉まった。
 中から、男達が出てくる気配は、なかった・・・・

「なんだよ、ありゃ」
 ニルロゼは、額を叩きながらうめいた。
 ビアルが止めなければ、あの場に入って男達を斬り落としただろう。
 だが、ここは城である。
 もしかしたら、城に仕えている者達かもしれないのだ。
 城勤めをするビアルや、国王や、姫のためにも、城の中で人を殺すのは、あまり芳しくない。
 ビアルの判断は賢明なのだった。
 だとはいえ、あいつらは、やろうと思えばこちらに出てくることも可能なのだ。
 なぜ、閉められたら、出ては来なかったのだろう。

「ニルロゼ、あんまり悩まないで下さい。
 疲れたようですね。
 今日はもう帰りましょう。
 あなたが来たということは、もう姫ともお話が終わったのでしょう?」
「ああ、そうだよ・・・」
「では、参りますか・・・・」
 ビアルは静々と歩いていた。


 先ほど、ビアルをみつけたはいいが・・・
 ニルロゼは、腑に落ちなかった。
 なにかが、おかしい。
 必要がない、入り込んだ創り・・・
 わけがわからない者達の部屋。
 沢山居る警護・・・

 この城には、なにかあるのだろうか・・・・

 ニルロゼは、ビアルと一緒に城から出ると、姫がくれると言った馬に乗り、岐路へと向かった。


 リュベナに見せて貰った本は・・・
 ビアルも読んだ事がある、とリュベナは言っていた。

 神々の話の本。
 なぜ、リュベナはあの本を見せてくれた?

 ああ、そうとも・・・
 俺が、結婚のこととか、聞いたから・・・
 愛の神について書いた本をみせてくれる、と。

 たしかに、そうだった。

 ニルロゼは、バサバサの髪の姫の姿を思い出していた。
 あの姫・・・
 触れると、ビアルに似ている。
 そして、赤の雰囲気・・・

 赤に、取り付かれている姫。
 今日の姫は、赤が混じっていたのか?



 夜・・・
 食事も作らず、ビアルの小さな家の室内をウロウロするニルロゼに、ビアルが瓶を差し出した。
「料理長からです」
「!?」
 その言葉に、ニルロゼが戸惑う。

「本当は、私達には、まだ早いのでしょうけれど、ちょっとヤッてみろとおっしゃっていました」
 ニルロゼは、赤黒い液体が入った中ぐらいの瓶とビアルを見比べた。

「これ、酒?」
「だそうです」

 ニルロゼは、眉をしかめ、瓶の蓋を開けた。
 たちどころに、芳しい香りが彼の鼻を襲い、思わずニルロゼは軽くのけぞった。
「な、なんかいい匂いだな・・・」
 ニルロゼは、片目を瞑って、瓶を覗き込んだ。

「あなたからどうぞ」
 ビアルが優しく言っている。
 少年ニルロゼは、もう一度、瓶とビアルとを見比べ、そっと瓶に口をつけ、少しだけその液体を含んだ。
 口の中で、パッと果実の香りが広がり、やがて緩やかに香りが変化して花のような芳香にさえ感じる。
 舌はややピリっとし、熱い甘さ、苦さが混じった不思議な感覚が、鼻に抜け、とろけるような感じだった。
 ニルロゼは、思わず口元を拭うと、その手で鼻を擦り、そして目頭を押さえた。
「ちょ、ちょっと目に差す・・・・」

 ビアルは、なんだか、笑っているようだった。
「ビアル、ほら」
 ニルロゼはビアルに瓶を手渡した。
 ビアルも、軽く口に含んだ。
 そして再びニルロゼに寄越してくる。
 ニルロゼは、また、確かめるように、瓶の中を見た。
 今度は、先ほどよりも多めに口に入れてみた。

 舌から広がり、喉に伝わり、鼻に伝わり・・・
 胃に届くと、血液が熱くなって、その甘い香りは全身を廻るかのようだ。

「ビアル。
 そろそろ、赤だな」
 ニルロゼは、赤黒い液体を、瓶越しにみつめて言った。

「俺は・・・
 いつでも、いいぜ・・・
 扉が開かれれば、中へ入る。
 ビアル。
 開いてくれ・・・」

 その瓶の更に向こうに立っている美しい少年ビアルは・・・

 黒い瞳を、キラキラとさせていた。

 みつけるか?

 みつかるか?

 ・・・・・・・


 みつけるとも!






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Last updated  January 11, 2014 06:52:45 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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