相川彰一の Keep Walking ~歩き続けよう~

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カテゴリ: 小説
 ★毎週土曜日に連載している小説の続きです。

===

 「もっ、もしもし押田さん、先程はすいませんでした。つい・・・」
 何事もなかったように、押田さんはいつもの丁寧な口調で静かに言った。
 「前田君、もちろん、これはあなたの責任じゃなありません」
 「で、でも」
 「あの女性(ひと)は、あの女性(ひと)の人生を生きたんです。終わり方は、残念でしたが・・・。ボクはもう君の三倍以上の年齢を生きていて、数多くの人の死を見てきました。なかなか天寿を全うするのは難しいと思います。口が下を向いているビンに一円玉が入っているのを想像してみて下さい。一日一枚ずつビンの外に落ちていきます。人生八十年。二万九千九百三十円で人は死にます。しかも、ビンの中に一枚だけ金色の一円玉が入っています。この一円玉が落ちると、まだ残っているすべての一円玉が落ちてしまうんです。誰も、もちろん当人でさえ、その金色の一円玉がいつ出てくるか分かりません」
 「でも、何が小石さんを自殺に追いつめてたんですか?何で自分で金色の一円玉を抜いてしまったんでしょうか」

 「じゃあ、なおさら何でボクに何も言ってくれなかったんでしょうか?何もできなかったかもしれないけど、話を聞くぐらいのことはできたのに」
 「それが、小石さんという女性(ひと)なんです。彼女は、あなたを巻き込みたくなかったんでしょう。あなたのことを話すときの彼女は、いつもニコニコして、それは嬉しそうに話してくれました。前田さんがこうした、今度はあんなことに挑戦している、前田さんって結構涙もろいのよ・・・。僕が彼女に会ったとき、彼女はあなたのことについてこう言っていました。

 『前田さんは大きな未来を作り実現していける素晴らしい才能を持っています。強さもあるし、行動する勇気も持っています。彼は、もっともっと大きくなって、将来は偉大な成功を収める人物になると思います。反面、とても感受性が強いから、しっかりした人が支えてあげないといけないわ。彼が電話をしてくるというのは、彼自身ではどうしようもない問題が心にあるとき。そのときは、ひたすら耳を傾けてあげて、必要なときは、本気で叱ってあげましょう』

 だから、あなたが小石さんに電話をしたときも、自分の現在(こと)よりもあなたの未来(こと)の方を大事にしたんでしょう」

 ボクは言葉を再び失った。深い哀しみが辺り一面を覆った。「連絡ありがとうございました」と丁寧に言ったあと、ボクは受話器のスイッチを切った。
 部屋の中にあるイスに深く腰掛けた。引き出しから小石さんと木村との三人で関西空港で撮った写真を取り出した。ニッコリ笑ったボクと木村の間で緊張した顔で小石さんが映っていた。小石教授の病室で初めて出会った日のこと、関西空港で三人で食事をしたこと、プレゼントしてもらったネクタイピン・・・。そしてボクは小石さんと最後に話をした時のことを思い出した。

続く





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Last updated  2006年06月24日 08時09分29秒
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