相川彰一の Keep Walking ~歩き続けよう~

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 ★毎週土曜日に連載している小説の続きです。

===

 <送信は完了しました>

 夢中で“彼女”の携帯の番号を呼び出し、発信ボタンを押した。ツーツーの機械音だけが流れた。何回も何回も同じ動作を繰り返した。その間、地下鉄の端の車両まで急いで移動した。あちこちに携帯を向け、アンテナが一本でも立つ位置を探した。しかし何をしても、どこに移動しても、運命をあざ笑うかのように<圏外〉のマークが消えなかった。
 ボクはへたり込むように、近くに空いていた席に座った。
 時が流れた。それまでに懸命につくってきたものが汽車の窓から投げ捨てられた荷物のように置き去りにされた。
 時が流れた。ついさっきの出来事が、ある時、ある瞬間に、手の届かないほど昔の出来事として記憶のもやの中に埋没した。
 時が流れた。ボクは不意に記憶の源に戻りたいと涙ぐんだ。
地下鉄が動き出したのは、それから一時間以上もしてからだった。なぜそんなに長くかかったのか、そんな理由はどうでもよかった。



「結局、“彼女”とは会えたんですか?」
「いや、ボクが産業会館に到着したとき、“彼女”はもうそこにはいなかった。そこから“彼女”の携帯に電話をしたけど、つながることはなかった。その時にボクができたのは、『今日はごめん。間違ったメールを送ってしまったために、迷惑かけました。』というメールを送ることだけだった」

===========

 その後、ボクは杉林との約束を思い出して、心斎橋駅に向かった。週末の心斎橋は、人で溢れていた。すでに出来上がった状態で肩を組んで歩くサラリーマン、携帯を打ちながら黙々と歩いている高校生、アンケート勧誘をしているサラリーマン風の人がいるかと思えば、いかにもホスト風の男が道行く女性に声をかけていた。
 「よぉ、前田。待ったか?」
 「いや、久しぶりの心斎橋の風景を見るのは楽しいもんだよ。やっぱ大阪はでかいな」
 「まっ、話は飲みながらしようぜ。昼もほとんど食べれてないから、腹も減ってるんだ。オレの行きつけの店があるんだけど、吉野家ぐらいでいくらか食べてから、そこで飲もう」
 吉野家では二人とも豚丼の大盛りを注文し、互いの近況を交換した。ボクは、好きな女性がいて会いに来たが、いろいろ事情があって会えなかったことも伝えた。その話は次の店で、ということになって杉林が案内してくれたバーに向かった。恵比寿橋を渡ったところの角を左に曲がったところにあるビルの地下にあるバーで、何人かのカップルや仲間連れが入っていた。
「でも、ホント世の中いろんな女がいるよな。この前の女は、大変だったな」
 杉林が話をするときは、間違いなく女の話だった。

<続く>





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Last updated  2006年09月02日 09時06分21秒
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