相川彰一の Keep Walking ~歩き続けよう~

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カテゴリ: 小説
 おはようございます。 

 毎週土曜日に連載している小説(先週は、横浜に行っていたためにできませんでした)の続きです。

===
 どれくらいの時間が流れたったんだろう。

 ボクたちは公園のベンチに座っていた。“彼女”はボクの腕の中で寝ていた。白く透き通った寝顔。頬には泣きじゃくった涙の跡が何本も残っていた。空を見上げると、月の光が優しくボクたちを包んでいた。

 「前田さん、ごめんなさい。私ったら」

 “彼女”は静かに目を開けてそう言った。

 「私ね、いつも何かに怯えながら生きてきたような気がするの。周囲の期待に応えなきゃいけない、頑張らなくちゃいけない、くよくよしちゃいけない、っていつも自分に言い聞かせていた。だから周囲にはすごく努力家に映ったんだと思う。



 でも、前田さんが私のためにいろいろしてくれるたびにお返しをしなければと思ってた。けれど、そうすることによって前田さんを最終的に傷つける結果となることが怖かった。

 前田さんの真っ直ぐな気持ちが本当は嬉しかった。何がだめなのかあの当時にの自分には分からなかった。いつか前田さんお気持ちに応えられなかったことを後悔する日が来るとかもしれない怖さもあった」

 ボクは黙ったまま”彼女”の言葉にずっと耳を傾けていた。

 「でもね、私、本当はそんなに頑張り屋さんじゃないの。いい子じゃないの。『十分よくやっているじゃない』って認めてくれる人をいつも求めたの。それを認めてくれたのがあの人だった・・・。だから、私、捨てられるのが怖かったの・・・彼を否定した瞬間、自分が無くなりそうで怖かったの。

 私、あの陸橋の手すりに手を置いたとき、前田くんのことを想った。その瞬間、気付いたの。元気なときは彼といたけど、元気がなかったときはいつも前田くんを頼ってた。前田くんからのメールに返事をしていたのは、いつも元気がなかったときだった。自分にとって本当に必要な人って、元気がないときに、一緒にいてくれる人だと感じたの」

 そう言うと、“彼女”はボクを見つめた、

 「でも、あなたが余りにも遠いところに感じた時期もあった」

 「そう思われた時期があったんだ」

 「あなたの夢を聞いたとき、『私と前田くんは、住む世界が違うんだな』と思った。そう思った瞬間、どんどん前田くんが遠くの人のように思えてきた。今日いっしょにいても、明日にはどこかへ行っちゃうような気がした。追いかけてくれてきても、次の瞬間には、もう私を追い抜いてしまっている気がした」

 「どうして?どうして、そんなふうにそこまで考えたんだ?」

 「私には投資や財団のことなんか分からないし・・・それに・・・やっぱり、前田くんが行こうとしている世界が分からない・・・・。一緒に行ってしまったら、やっとつかんだものを手放さなきゃいけないと思った。だから、あんなメールを送ったの・・・」

 小刻みに震える小さな振動がボクの支えている腕を伝わり、ボクの全身を駆けめぐり、ボクの心を震わせた。ボクは、ぎゅっと抱き寄せて言った。

 「もういいじゃないか、今までのことは・・・。今日、ゼロからいっしょに始めよう。今日は昨日の延長線かもしれない。けど、明日は今日の延長線になるんだ。今日を変えよう」
ボクはそう言うと、“彼女”を抱いた手を離し、一方後ろに下がった。そして“彼女”の目を見ながら言った。

 「今、ここでこうした二人は出会った。そして新しい物語が始まる」

 「小説家みたいですね」

 “彼女”がクスッとはじめて笑った。

<続く>





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Last updated  2008年02月02日 08時27分23秒
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