近代日本文学史メジャーのマイナー

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2011.09.17
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『厭がらせの年齢』丹羽文雄(新潮文庫)

 えーっと、当たり前ながら、やはり我が国の文学史ってのも、なかなかなものですね。たとえて言えば、世界文学の中の「メジャーのマイナー」(おやっ? このフレーズはどこかで聞いたことがあるぞ、と。)くらいのものであります。

 今私は「当たり前」と書きましたが、確か水村美苗の本に書いてあったと思いますが、ヨーロッパ系以外の国で、こうして長年にわたって延々堂々と文学史のある国って、実は世界中にそうたくさんはないそうですね。
 さすが、言霊の咲きほこる「うまし国・日本」であります。

 えーっと、なぜこんな話になったかと申しますと、いえ早い話が、今回取り上げた作家の本も私は初めて読んだなーと言うことでありまして、私の読んでない作家って、まだまだいっぱいあるんだろうなーという、ほとんど呆けたような文脈内での思いつきでありました。どうもすみません。

 しかしわたくし、寡聞にして(「寡聞」すぎるやろーっ)この度初めて丹羽文雄という作家の作品を読みましたが、かなりびっくりしました。
 何にびっくりしたかといいますと、その作品の漂わせている雰囲気に(かなりアバウトな言い方ですみませんが)、であります。

 その「雰囲気」とは、一言で言いますと、こうなります。

殺風景

 えー、世間には大概いろんな殺風景な事柄・状況があるとは私も薄々は承知していたのですが、しかし今回取り上げた小説の殺風景さは、なかなか並ぶものがないような気がします。
 あ、こんな歌を、思わず連想してしまいました。

見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ

 これは有名な「三夕の歌」中の藤原定家の歌ですね。
 あ、続いてこんなフレーズも思い出しました。(「並ぶものなし」と書きながら、次々いろんなものが並んできますなー。)

えりぃーものぉ春ぅわぁーぁああぁーー何もぉないぃ春ぅですぅーーー♪

 岡本おさみ作詞・吉田拓郎作曲の『襟裳岬』ですね。これも、名曲であります。

 さて、そのようにびっくりした私でありますが、ちょっと遡って「冷静」に考えてみますね。
 この短編集には5つの作品が収録されています。これです。

『贅肉』『人生案内』『南国抄』『愛欲』『厭がらせの年齢』

 読んだ後私は、解説とかネットで少し知識を仕入れたのですが、上記の5作品は筆者のキャリアの中では、ほぼ前期に相当する時期に書かれています。
 というか、そもそもこの作家は、時々いらっしゃる、実に実動期間の長い作家の一人(他には例えば谷崎潤一郎とか野上八重子とか)なんですね。

 生没年が、1904年(明治37年)→2005年(平成17年)で、享年101歳であります。
 そして、1932年に出世作『鮎』というのを書き(28歳ですね)、そこから1990年近くまで延々と書き続けました。
 だから、こんな作家は、一作や二作くらい作品を読んだだけでは判断が付かないんですよね。谷崎だって、もし「王朝」と呼ばれた後期作品がなければ、「才気走った変態作家」くらいになっちゃったかも知れません。(いくら何でもそこまで酷くはないでしょーがねー。)

 ともあれ、今回読みました5つの小説には、何といいますか、見事に「華やぎ」というものがありません。タイトルを見ていますと男女間のエロティックなものを連想させそうですが、そして事実、ストーリーとしてはそんな「愛欲話」が中心なんですが、しかしここにはほぼ「エロス」はありません。少なくともエロスの生み出す「華やぎ」は全くありません。

 では、何があるのか。
 ここにあるのは、実に無骨かつ徹底したリアリズムであります。異様なほどに重心の低い文章展開であります。鈍くさいような、しかし堂々とした文章力です。
 そして、とことん殺風景です。

 私は読んでいてふと思ったのですが、ここに描かれているものは、あの日本文学史特有の「自然主義」の、「無思想・無解決」に極めて近いのではないか、と。

 筆者は若い時、志賀直哉の文体を一時学んだそうですが、少なくとも作品に現れている対象に向かう作者の視線は、志賀直哉のものとは似ても似つかないもののように、私は少し不思議に感じたのでありました。


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Last updated  2011.09.17 14:59:43コメント(0) | コメントを書く
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