近代日本文学史メジャーのマイナー

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2012.05.06
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『二百年の子供』大江健三郎(中央公論社)

 上記「ファンタジー」の読書報告の後編であります。
 「ファンタジー」である(と筆者がおっしゃっています)本作が、私はとっても読みづらく難渋したということを、前回書いておりました。
 そして、その原因の中心は、それこそ大江健三郎のデビュー作以来いわれている、実に独特な文体ゆえであります。

 こんなエピソードを思い出すのですが、三島由紀夫が、人から「次の日本人のノーベル文学賞受賞者はあなたでしょうね」といわれた時、「いえ、大江君でしょう」と返したという話です。
 三島由紀夫の批評眼には定評がありまして、「一に批評家、二に劇作家、三、四がなくて五に小説家」といわれたほどだ、と。(しかしこれは褒めているのか貶しているのか分からないフレーズですよね。)
 その三島が、大江をノーベル賞レベルと評価し、そして、その通りになったわけですね。

 そして、その大江の文体が、私には難しい、と。
 ……ということは、私にはほぼ純文学なんて分からないということでありますわね。
 いえ、まー、別にそうであってもいいんですがー、少しだけ、言い訳っぽいことを書いておきますと、大江健三郎が芥川賞を受賞した時、文豪谷崎潤一郎は、私には大江君の文章がよく分からないといったとかいう話も、ちょっと知っています。

 (ついでのついでの話ですが、三島由紀夫は、谷崎潤一郎の批判能力について、自らの才能の質を正確に認識して生涯ぶれなかったのは、自己に対する批判的能力としては極めてすぐれていたと褒めましたが、その前に、他人の作品についての批判能力は、谷崎はほぼ無能であったように書いています。)

 さて私は、冒頭の本を、特に文体に注意しつつ読んでいったのですが、例えばこんな所に注目しました。

翌日、あかりと真木は、朔が向こう側での出来事をまとめるための調査について行った。

 アサ叔母さんも、子供の時に岩鼻へ遊びに行って、岩から魚のかたちにはがれた石をひろっては、穴を開けて笛を造ったって……ウグイの石笛というそうだ。


 別々の場所から抜き出した二文です。別にどうということのない文だとも思いますが、目で読み終えて内容を理解するのに、一瞬の遅れ(理解するのに懸かる時間)があるように感じるのですが、どうでしょう。

 一文や二文だけではどうということはありませんが、こんな文が続きますと、これはけっこう「ストレス」ですね。ただ、慣れるとそうでもないような気もします。
 どちらにしても、ここに描かれている文は、解説・説明の文というよりは、詩や戯曲のための文のように思います。
 意味が一瞬遅れて後追いにやってくる。だからその一文一文に、謎と解決が現れてくるともいえそうですし、ちょっとそれに疲れますと、わかりにくいと感じてしまいそうです。

 そう言えば、作品の構成も同様になっています。出来事をまずそのまま辿り、その意味は後で少しずつ現れてくる、もっともこれは小説の構成の王道であるのかも知れませんが、見通しがよくなるのは、絶えず一つのエピソードの終盤からであります。

 そんな、いわば息の抜けない読書が要求されると、私は読みながら思ったのですが(だから読み終えた後には勉強になったような気がすると思ったのですが)、しかしそのプロセスを過ごした後に現れてくるものは、やはり私が若かった頃に感じた「大江健三郎的感動」と同種のものでありました。
 それはいかにも世界文学としての「大江的」な、個人的な体験から人類的普遍の課題に繋がっていく広がりを持った「感動」であります。

――パパがさ、東京の家の居間のソファに寝そべって、いまの日本人には関係のないような本を読んでるでしょう? そして、面白いなあ! と大声でいうんだ。
 ほかにはだれもいなかった時に、どんな内容? とおつきあいに聞いてみたらさ、書かれている内容より、書き方が面白いって……つまり、「言葉」が新しいんだ、というのね。
 そして、「新しい人」は、「新しい言葉」から作られる、と格言みたいなこともいった。


 そう言えば、読んでいて名詞にとても力があるとも私は感じたのですが、このように「『新しい人』は『新しい言葉』から作られる」と大江健三郎がいうと、確かにそういう努力をこの作家は絶えず行ってきたのだと納得され、とても強い説得力を、改めて私は感じたのでありました。


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Last updated  2012.05.06 10:32:31
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analog純文 @ Re:「バイブス」「ペニー」「キャパい」「ガンダ」(08/08)  シマクマ君さん、コメントありがとうご…
シマクマ君 @ Re:「バイブス」「ペニー」「キャパい」「ガンダ」(08/08)  ボクも読みました。結構素直な作品とい…
analog純文@ Re:主人公の心情がよくわからない(06/14)  シマクマさん、コメントありがとうござ…
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