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2014.10.14
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カテゴリ: 昭和期・後半男性

『ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ』高橋源一郎(集英社文庫)

 このタイトルを見たとき、ふーんと思いました。
 どのように「ふーん」と思ったのかは、本の末尾に穂村弘という、この方は歌人ですかね、その方の書いた解説にも書いてありますが、実は私も同じように思った、というか、たぶんほとんどの高橋源一郎ファンは同じように思ったはずであります。つまり、

  「宮澤賢治は一人で一冊なんだ。」

 もはやいうまでもありませんが、この時期、高橋源一郎は『官能小説家』『日本文学盛衰史』という、日本文学史上の多くの表現者の名を持つ登場人物の出てくる力作小説を続けて発表していました。そこには漱石鴎外をはじめ、様々な文学者の名前が出てきました。
 私はこの二作を読んだとき、筆者はこの度、この上なく豊饒な鉱脈を発見したものだと感心致しました。

 で、今回もその連続かと思ったのですが、今回のはタイトルで見る限り一人で一作の模様です。で、上記の感想になったわけですね。

 今私は「豊饒な鉱脈」と書きましたが、作品に取り上げられた文学者をみていきますと、筆者が実に鋭い嗅覚を持っていることを感じさせる人選になっています。
 漱石鴎外という実際の大巨人を別格にすれば、啄木・一葉の扱いがとても大きい。そしてこの二者に注目したのが、何と言っても素晴らしいと思います。
 この二人には、若くして貧窮のうちに亡くなったという共通した悲劇性があることに合わせて、文学史という歴史の中で、どこか単独に屹立するような「実存的」なところがあります。

 そして啄木・一葉と並ぶ同類の文学者がそれ以外にいないだろうかと思ったとき、私に浮かんだのは、正岡子規と宮沢賢治でありました。
 この二人にも、実に実存的な文学性があります。

 でも、冒頭の短編集(とても分厚い短編集で600ページもあります)を読んで思ったことは、本書は上記二冊の日本文学史関連小説とはだいぶ違うという、まぁ考えたら、あたりまえかもしれない感想でありました。

 決定的に違うところは、本短編集は宮沢賢治がモデル(モデルといっても、上記の日本文学史小説も利用しているのは名前だけで、事実関係のモデル性なんて全くないに等しいのですが)ではなく、賢治の作った作品のタイトルだけを模倣しているということです。

 だから、これは一種のパロディ小説になるんでしょうが、その「パロディ性」につきましても、(個々の作品にもよりますが)ほぼ、「本歌」作品と内容的関連を持たない(そんな意味で言いますと、上記二冊の日本文学史関連小説と実在の作家の関係にきわめて近い)ものであるということであります。

 そうだ、近いいい例えが思い浮かびました。
 その関係は、かつてロックンローラー忌野清志郎が、自ら日本語の歌詞を書いてカバーして歌っていた『ラブ・ミー・テンダー』や『サマータイム・ブルース』と元歌の関係みたいなものであります。
 (我ながらいい例えだなと思ったのですが、今度はこっち方面のことをあまりご存じない方にはわかりかねる例えかなと思い、でもユーチューブで『ラブ・ミー・テンダー』を探して聴いていただくと一発でわかります、たぶん。)

 さて具体的に、全部で24編ある短編小説ですが、まーとにかく、24編であります。上述しましたが、600ページもある短編集です。
 何といいますか、やはり多すぎません?
 作品にかなり出来不出来があるように感じます。

 ただこの筆者の作品を読み慣れている人には何となく判るのですが(というか、何となく許しちゃうという感じなのですが)、無意味悪ふざけも芸の内、みたいなところがあるんですね。別の言い方をすれば、そんな部分もひっくるめてひとかたまりで読んでよ、といわれているみたいな。

 結局、高橋源一郎の小説を、取り敢えず好きで手に取って読めるか否かという分水嶺は、わたくし、この辺にあるんじゃないかと、さすがに少しは高橋作品を読み慣れてきて、密かに思っています。

 そこさえクリアできれば(ちょっと許し難いと思うときもありますが)、実は高橋作品は、結構ウエットな生きる悲しみが通底してることに、ほっと気づくのであります。
 ……つまり、そんな短編集であります。


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Last updated  2014.10.14 19:50:29コメント(0) | コメントを書く
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analog純文 @ Re:「バイブス」「ペニー」「キャパい」「ガンダ」(08/08)  シマクマ君さん、コメントありがとうご…
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