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2017.08.06
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カテゴリ: 昭和~・評論家

『人間晩年図巻1990~94年』関川夏央(岩波書店)

 本書の成立について、著者による「あとがき」に、このように触れられています。

しかし時は移った。人の死に方の情報が寡少またはゼロになったのは「個人情報」の壁がはりめぐらされたためだ。ならば、平均余命といっしょに著しく長さを増した「晩年」を中心にすえるのは?

 山田風太郎の名著『人間臨終図巻』の続編を企画したが、このような理由でストレートにはうまくいかなくなった、ということですね。
 なるほど、私もこの本を手に取った時に一番に気づいたのですが、「臨終」が「晩年」に変わったのは「個人情報」保護法のせいだったんですか。
 思いも掛けぬものが、いろいろと影響してくるものなんですねー。

 ……うーん、でもしかし、何といいますかー、読者のささやかな権利の一つである個人的な感想において、私は残念ながらこの変更による企画は、あまりうまくいっていないのではないか、と感じてしまいました。(いえ、それは単にタイトルの問題だけではなく、たとえ山田風太郎作品と同じタイトルであったとしてもそうだったのかも知れないですが。)

 ……えっと、まず最初に確認しておきますが、私は本書の著者について、丸谷才一が亡くなった後、唯一の現存するフェイヴァレットな文芸評論家だと思っています。
 本書のように文芸評論とは言えない多彩な仕事ぶりについても、基本のところがしっかりしているから、何について語られていてもとても素晴らしいと評価しています。

 という前提をして、にもかかわらずひょっとしたら本書の企画はあまりうまくいっていないかと考えたと言うことですが、どこがどううまくいっていないかちょっとまとめてみますね。

(1)「臨終」を「晩年」に変えたせいで、つまり「晩年」までを対象としたことで、
   山田作品に比べ長すぎる(冗漫な)ものになったのではないか。
(2)しかし特徴ある一人物の晩年を書ききるには、5~10ページ程度ではいかにも
   短かすぎ(深みに欠ける)はしないか。


 実は山田風太郎作品でも、「臨終」と銘打っておきながらほとんど一人物の全生涯を駆け足で触れたような章は少なくなかったのですが、本書ではもっとそんな感じになっているように思います。

 一例としてオードリー・ヘップバーンについて書いた章など、始めと終わりは額縁のように晩年について触れていますが、ほとんどの量を占める中心部分はヘップバーンの生涯の駆け足です。事実だけが列挙され、なんだかとても読みにくい。

 いえ結局のところ、ある人物の晩年の生き方を書こうとすれば、そこに至る部分(「プレ晩年」)について触れないわけにはいかず、どうしてもこうなってしまうというのはとてもよく分かります。
 山田作品のように、亡くなった直接原因だけに絞って書くのをテーマにすると(触れましたように完全にはそうなってはいないのですが)、あっさりまとめてすとんと書くことができそうな気がします。(描写だけで描けそうです。そして、余韻も残りそうです。)

 でも晩年を書くために「プレ晩年」にまでテーマ広げていけば、全体として説明の羅列を免れず、結果、例えばウィキペディアみたいな文章になってしまった、と。

 一方で描写テーマに「プレ晩年」までを含んでしまえば、山田作品にあったフットワークは臨むべくもなく、なんだかしつこくて冗漫さが感じられる、と。

 それらの思いがセットになって、わたくしは申し訳ないながら本作に「帯に短し襷に長し」という印象を抱いてしまいました。
 ……うーん、本当に申し訳なくも、なかなか難しいものですねぇ。

 ただ、そんな風に少しぶつぶつ言いながら読んでいたのですが、さすがに出自は争えず(って、この書き方は相応しいのでしょうか)、文芸評論が対象とするような記述部分は、とっても素晴らしかったです。

 例えば、幸田文の晩年に触れた個所。
 総理大臣山本権兵衛の孫の山本満喜子を取り上げながら祖父の権兵衛の記述にいたり、そして本書の「本歌」作家山田風太郎の名著『エドの舞踏会』について論じた部分。
 また、女優山本安英の生涯を描いた章(これも晩年だけを取り上げた記述ではまるでなかったですが)など、これらは本当に良かったです。


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Last updated  2017.08.06 08:28:21
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