近代日本文学史メジャーのマイナー

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2019.08.05
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『穴』小山田浩子(新潮文庫)

 最近、近年の芥川賞受賞の若い作家の作品をパラパラと呼んでいるのですが、タイトルのつけ方のセンスで言うと、この作家と津村記久子はその独創性において双璧のように感じます。

 津村記久子は『とにかくうちに帰ります』『この世にたやすい仕事はない』『やりたいことは二度寝だけ』など適度の力のヌケた、とてもセンスのいいつけ方をしています。
 一方小山田浩子は、『工場』『庭』そして本作『穴』と、なんか意地になっているように不愛想なタイトルをつけ続けています。(どこまで続けるつもりなんでしょうね。)

 そんな筆者の作品です。3つの小説が収録されていて、総タイトルになった「穴」が芥川賞受賞作品です。
 最近の芥川賞を見ていたら女流絶好調という感じがするのですが、どうなんでしょうね。ただ私は、本作についてはまず、本作の芥川賞受賞の2年後に同じく受賞した本谷有希子の『異類婚姻譚』によく似ているなという感想を持ちました。
 本作のほうが先ですが、『異類』のほうが洗練されている気がしました。

 本作の最後の一文が典型的ですが、少し書き込みすぎていないかという気がします。あの一文を読むと、家族の関係性の中の一番大きなテーマは姑との関係であったことがわかり、なるほど、振込金額不足の話も、中途半端な造形になっている夫についても、ヘンなスリッパのエピソードに至るまで、納得できるといえば納得できそうに思います。

 またやや唐突感のある義祖父の死についても、葬式をめぐって義兄の正体らしきものが暗示されたりして、そうか、これを書くための義祖父の死かなどと思ってしまって、もう少し種明かししなくてもよかったんじゃないかという気がしました。

 これは私の趣味的なものなのかもしれませんが、私はストーリーのつじつまより作品イメージの広がりの方を好みとするものであります。

 と、まぁ思ったりしながら、私は「穴」を読んだんですね。で、本文庫本には、あと二つの小説が入っています。
 メインはもちろん芥川賞受賞作ではありますが、これ一作だけではボリュームが寂しいということで、受賞までに書いた(はっきり言うと習作のような)作品を併録する、と。

 私も、あのパターンだな、と思いました。だからはっきり言って、ほとんど期待せず読み始めました。二つ入っていたまずその一つ目、「いたちなく」というタイトルの小説です。私は、「いたちなく」って何のことなんだ、そういえば「穴」でも、この作家は自分で作ったような言葉を使っていたみたいだぞ、などと思いながら読み始めました。

 ……で、読み終えて、えっ? と私は思わず戸惑ったんですね。
 えっ? この作品はなんなんだ? どう評価すればいいんだ?

 私はその後しばらく別のちょっとした用事をしていたのですが、しながらずっと「いたちなく」について考えていました。しかし、やはり結論は変わりませんでした。
 この短編小説は、とても出来がいい、と。

 私は、この作家の短編小説の力量はこんなに高いのかとちょっと驚いて、もう一つの小説に取り掛かりました。「ゆきの宿」という題名の小説です。

 読み始めるとすぐにわかるのですが、これは「いたちなく」の続編ではありませんか。作品中で登場人物が「いたちなく」の話題をそのまま振り返っている場面があったりして、正真正銘の続編仕立てになっています。

 そして読み終えた私は、二つの感想を持ちました。

 1.やはり「いたちなく」の出来はよすぎるのではないか。
 2.連作二作をセットで読むと、なんだか少し変な感じがする。

 まず「1」について簡単に片づけたいと思いますが、この短編はいくつかのエピソードが無理なく展開していき(と、私は最初読んだ時思ったんですが)、最後の妻の話、母いたちの死の場面が抜群に良いと思います。捉えられたいたちの描写もしなやかでとても印象深く描かれています。

 「穴」の描写も丁寧に書かれているとは思いましたが、何のために丁寧に書かれているのかを考えた時、いくつかのエピソードは、出し入れが少しぎくしゃくしているような気がしました。
 一方この「いたちなく」は、短編であるせいか、ほぼそんな風には感じませんでした。

 というふうに、初読時、私は本短編をとても素晴らしいと思ったのですが、次に「2」の件ですが、続編とセットで読むと、どうもよくわからない個所がいくつかあることが、私はとても気になり始めました。

 これは何なのか。次回、ちょっと丁寧に考えてみたいと思います。
 次回に続きます。


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Last updated  2019.08.05 07:22:17
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analog純文 @ Re:「バイブス」「ペニー」「キャパい」「ガンダ」(08/08)  シマクマ君さん、コメントありがとうご…
シマクマ君 @ Re:「バイブス」「ペニー」「キャパい」「ガンダ」(08/08)  ボクも読みました。結構素直な作品とい…
analog純文@ Re:主人公の心情がよくわからない(06/14)  シマクマさん、コメントありがとうござ…
シマクマ君 @ Re:主人公の心情がよくわからない(06/14)  昔、この作品が出たころ読んで面白かっ…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21) 純文さんへ  あたたかいお返事ありがとう…

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