近代日本文学史メジャーのマイナー

近代日本文学史メジャーのマイナー

Calendar

Archives

・ 2026.10
・ 2026.09
・ 2026.08
・ 2026.07
・ 2026.06
・ 2026.05
・ 2026.04
・ 2026.03
・ 2026.02
・ 2026.01
全て | カテゴリ未分類 | 明治期・反自然漱石 | 大正期・白樺派 | 明治期・写実主義 | 昭和期・歴史小説 | 平成期・平成期作家 | 昭和期・後半男性 | 昭和期・一次戦後派 | 昭和期・三十年男性 | 昭和期・プロ文学 | 大正期・私小説 | 明治期・耽美主義 | 明治期・明治末期 | 昭和期・内向の世代 | 昭和期・昭和十年代 | 明治期・浪漫主義 | 昭和期・第三の新人 | 大正期・大正期全般 | 昭和期・新感覚派 | 昭和~・評論家 | 昭和期・新戯作派 | 昭和期・二次戦後派 | 昭和期・三十年女性 | 昭和期・後半女性 | 昭和期・中間小説 | 昭和期・新興芸術派 | 昭和期・新心理主義 | 明治期・自然主義 | 昭和期・転向文学 | 昭和期・他の芸術派 | 明治~・詩歌俳人 | 明治期・反自然鴎外 | 明治~・劇作家 | 大正期・新現実主義 | 明治期・開化過渡期 | 令和期・令和期作家
2021.07.04
XML
​   『明るい夜』黒川創(文芸春秋)

 この作者も初めて読みました。
 そもそも私には、新しい作家を次々に開拓していくという積極性が全くありません。
 文芸雑誌というものについては、ほぼ完璧に手を出したことがありません。
 要は、小心者なんだと思います。

 先日沢木耕太郎の有名な『深夜特急』をパラパラと読んでました。
 『深夜特急』というのは、若き日の沢木耕太郎が、香港からイギリスまで主に乗り合いバスで旅した記録であります。
 そこに、初めて韓国に行った時の事が書かれてありました。飛行機が朝鮮半島の上空にさしかかった時、「この地から、西に向かってどこまでも歩いて行けばヨーロッパに達することができるのだ」と、思った瞬間の感動を書いていました。

 こういう、興味のない人にとっては、何当たり前のことに感動してんねんというようなことを熱く語れる人は、本当に旅が好きなんだなと思いますね。
 新しいものが見たくて知りたくて仕方がないという思いが伝わってきます。

 では、お前はどういうタイプなのかと聞かれますと、これもかつての読書に私と似たタイプを発見しております。
 それは漱石の「猫」の苦沙弥先生であります。
 いえ、苦沙弥先生のモデルは漱石自身ですが、私が漱石に似ているなどと言うのでは、もちろんありません。下記のように書かれている苦沙弥先生の性格なら、私によく似ていると思うだけです。こんな風に書かれています。

​ 彼は性の悪い牡蠣の如く書斎に吸いついて、嘗て外界に向かって口を開いた事がない。(「猫」の第二章)​

 というわけで、私が初めての作家を読む時は、大抵どなたかが勧めて薦めてくれた小説でありまして、この度も、私の読書のお師匠さんのような方が勧めてくれました。

 何でもこの作家は評論なんかも書いていて、その出来がなかなかよろしい、と。
 なるほど、小説と評論の両方を書く方って、たまにいらっしゃいますよね。
 でもわたくしは、ちょっと意地悪にも、しかしそういう方って、両方が同じ程度にすごいって方は、まー、あまり見ないような気もするが、もぞもぞ……、と思ってしまいました。

 と、そんな先入観じみたものを持って読み始めました。
 悪くなかったですね。主人公が20代半ばの女性で、割と透明感のある書きぶりでした。
 お話に大きなエピソードがあるわけではありません。京都に一人暮らししている彼女の、アルバイト先での話とか彼氏との会話とか友人との話などが、ずるずると描かれて行きます。
 後半もう少し大きなエピソードもないではないですが、まー、総じて淡々と、という感じであります。

 では、我々はこの女性の話に何を読み取るのか、ちらちらっと出てくる描写や説明の中で、私はこんなところがふと気になりました。

 ≪僕は……≫なり、≪工藤が……≫なり。要するに、彼は、そうやって語りはじめられることになる最初の一行、そこに踏ん切りをつけかねて、こうやって世界をただ眺めているのかもわからない。

 「……なんか、わたし、いやなんだよ。そこまでやることないように思えて。それだけの自信、まだないっていうのもあるし」

 なんかさ、自分の、母親のそういうナマっぽさっていうか、へんに女っぽいところ、そのまま受け継いじゃってる気がしてきて。気持ち悪いんだよ。

 どうですか。最初の引用は、小説を書きたいと仕事を辞めた主人公の彼が、小説が書けないでいる場面。
 二つ目は、大学を卒業しても定職につかずアルバイトに明け暮れる主人公が、それを問われたときのセリフ。
 三つめもその続きみたいな場面です。

 わたくし、思うんですがね、ここに描かれている若者たちの心にあるのは、未来に向かうことへの戸惑いというよりも、むしろ自分の肉体に対する違和感めいたものではないか、と。

 ちょうど作品なかばで、主人公の友人の女性(イズミさん)について、主人公の彼氏が、「イズミさんって本当にいるの?」と尋ねる場面がありますが、そんな存在と非存在の並立、バーチャルとリアルの混乱の中で、自分の存在をバーチャルに近い方に位置取り、現実の肉体感覚を嫌悪するような、そんな世代が描かれようとしているのではないかと感じました。

 これは、新しいのかな、とも思います。
 しかし、たとえそんな一種の典型が描かれているとしても、なんといいますか、そこにびっくりやあこがれや、そんないわば「そわそわ」感が、どうも、私には感じられませんでした。

 いえ、これは私の不徳の致すところなのかも知れません。
 こんな時、今までわたくしが「逃げ」を打っていた科白で言うならば、残念ながら、あまりご縁がなかった、というところで、ひとつ……。
​





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2021.07.04 21:45:42
コメント(0) | コメントを書く
[平成期・平成期作家] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Favorite Blog

映画の時間 アレハ… New! シマクマ君さん

やっぱり読書 おい… ばあチャルさん

Comments

analog純文 @ Re:「バイブス」「ペニー」「キャパい」「ガンダ」(08/08)  シマクマ君さん、コメントありがとうご…
シマクマ君 @ Re:「バイブス」「ペニー」「キャパい」「ガンダ」(08/08)  ボクも読みました。結構素直な作品とい…
analog純文@ Re:主人公の心情がよくわからない(06/14)  シマクマさん、コメントありがとうござ…
シマクマ君 @ Re:主人公の心情がよくわからない(06/14)  昔、この作品が出たころ読んで面白かっ…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21) 純文さんへ  あたたかいお返事ありがとう…

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: