突然ですが、ファンタジー小説、始めちゃいました

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2009.04.15
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 目覚めたところは、天国ではなかった。

 土の匂いのする、湿った空気が快い。
 灯りは、どこに源があるのか、はっきりと見極めることはできなかったが、ランプの柔らかい光とは少し違う、淡く白っぽい光で部屋全体が満たされていた。 砂漠の強烈な陽光に傷め続けられてきたエリダヌスの目を、やさしく癒してくれるような、しっくり落ち着いた光だ。

 エリダヌスの横たわっている、固すぎも柔らかすぎもしない、清潔で心地良いベッドの脇に、見たことのない若い神官が一人、ひっそりと立っていた。
 弟たちのうちの一人ではなかった。 ハザディルのきょうだいたちとは、顔つきも、匂いも、微妙に異なっている。 『触角』も、ほんの少し長い。

 その神官は、エリダヌスが目をあけたのを見ると、優しい微笑を浮かべて言った。
「気がつかれましたね、エリダヌスさま」

 起き上がろうとすると、胸にずしんと重たい痛みが走った。 

「まだ起きてはいけません。 一度は神様の御許へ旅立たれたあなたを、ようやく下界にお引き留め申し上げたものの、傷はあまりに深くて、すっかり回復なさるにはいま少し時間がかかるのです」

 エリダヌスはようやく、砂漠で盗賊団に襲われ、刺されたことを思い出した。 とたんに激しい恐怖がよみがえり、全身が瘧のようにぶるぶると激しく震え始めた。 震えはどうしても止まらない。 じっと横たわっていることさえ困難だ。 混乱。 思考停止状態。

 ガタガタ震えながら硬直したエリダヌスを、神官はいそいで抱きしめて言った。
「ああ、おかわいそうに、どんなにか恐ろしかったことでしょう! けれどもう大丈夫ですよ。 どうぞお心安らかに。 ここはあなた方の言葉で言う、『ゴルギアスホロー』の神殿の、地下です。 あなた方お3人は、4日前の夜中、砂漠の盗賊団に襲われたところをこの国の兵士たちに救出されたのです。 カノープスさまとスピカさまは、幸いお怪我ひとつなく、お疲れのご様子ながらもしっかりとご自分の足で歩いてここへ来られました。 けれど、エリダヌスさまは、ここに運び込まれていらしたときには、もう脈もなく、息もしておられませんでした。 私たちは当神殿の主席神官ナレンドラさまのご指示で、全員うち揃って、ハザディルからの大切なお客さま、エリダヌスさまの復活祈祷祭を行いました。 私たちの祈りは神さまのお耳に届き、あなたは神さまの思し召しによって再び下界にお戻りになることができたのです」

 話の内容はよく把握できなかったが、この神官のあたたかい静かな声には、エリダヌスの、発作のような激しい恐怖をやわらげてくれる、不思議な力があるようだった。 優しく背中をさすられながら、この、心地よい音楽のような声の響きに身をゆだねていると、いつしか恐怖も遠のいて、人心地が戻ってくるのだ。
 エリダヌスは、顔も見たことのない母君の優しい子守唄にあやされるように、ただうっとりとその声に耳を傾けていた。

 「・・・エリダヌスさま、お話はカノープスとスピカのお2人からうかがいました。 もうご心配はいりませんよ。 あなた方お3人は、お体が元に戻り次第、この神殿で、神の御力を授かるための修行を始めることになりましょう。 カノープスさまとスピカさまにもそれぞれ、ここと同じような室房がひとつずつ用意されて、今はそこでゆっくり旅の疲れを癒していただいているところです」
 弟たちは無事だった―――他の何よりも嬉しいこの言葉に、エリダヌスの震えもようやくおさまり、恐怖に凍りついていた頭にも少しずつ血が巡り始めた。

 「・・・お2人とも、エリダヌスさまが息を吹きかえされたと聞いて涙を流してお喜びになり、すぐにもあなたに会いたいとおっしゃったのですが、あなたはまだ深く眠っておいででしたので、まだここにはお連れしていないのです。 でも、こうしてお目を覚まされたからには、明日あたり早速、お2人をここにお連れしましょうね。 お2人とも、どんなにお喜びになることでしょう。 嬉し涙で押し流されてしまわないようご用心なさいませ。 それに、お2人のほうはもうすっかりお元気になられましたから、たぶん、あなたより一足先に、修行を始めるお許しも出るはずですよ。 もしかしたら明日かもしれない。 そうすると明日は、エリダヌスさまもお2人のお口から直接、その喜ばしい報告を聞けることになりますね」

 『一度死んで生き返った』 ――― 奇妙な表現をする、とは思ったが、そんなことよりも、こみ上げてくる喜びは、はるかに大きかった。
 エリダヌスは胸がいっぱいになって、あふれてくる涙をぬぐうのも忘れ、この若い神官に何度も何度も祝福を贈った。


 祝福、というのは、ジャムルビー族のあいさつで、古くは、『神さまが私に下さる分の幸福を全部この方にお譲りします』というしるしを、神様のお目に止まりやすいように額の真ん中につける、という意味があり、相手の額に自分の唇をちょっと押し当てる、という動作のことをいう。 もっとも今では、いちいちそんな意味を考えながらこのあいさつを交わす人はなく、形ばかりが儀礼的に残っているだけだが、このときのエリダヌスは感激のあまり、本当に、自分の一生ぶんの幸せを全部、この神官に譲ってしまいたい、と思ったくらいだった。

 神官は、このときなぜかほんの一瞬、エリダヌスの祝福に戸惑ったように身を硬くしたが、すぐにもとの穏やかな笑顔に戻り、同じようにエリダヌスに祝福を返して言った。
「本当に、たいへんなご苦労でしたね。 この上は、エリダヌスさまも一日も早くご本復を遂げられて、カノープスさま、スピカさまとごいっしょに修行できるようになってください。 それまでは、私が、あなたのお世話をするよう申し付かりましたから、どうぞなんでも気兼ねなくおっしゃってくださいね。 申し遅れましたが、私は、フォーマルハウトと申します」

 一時は絶望したけれど、3人はついに目的の地、ゴルギアスホローの神殿に受け入れてもらうことができたのだ。 これ以上の喜びはない、と思った。

 エリダヌスは安心して目を閉じ、心の中で神への感謝の祈りをささげた。


 一度死んで、生き返った、とは・・・?
 あの神さまが私に、再び下界に戻れと仰せになったのか・・・?

 エリダヌスはまた、眠りに落ちた。





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最終更新日  2009.04.15 19:47:06
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