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家に着くとアルデバランはすぐに、いそいそ嬉しそうに短刀の包みを開き始めた。
アルクトゥールスは、幸せな気持ちでそれを眺めながら言った。
「じゃ、アルデバラン、今夜はそれを持って、一緒にゾーハルの酒場へ行くんだぜ」
アルデバランがきょとんとした顔を上げた。
「酒場に? なんで?」
「だから言ったろ? おまえの指南役をあいつに頼みに行くのさ。 あいつ、仕事のない日も酒場には来てるんだ」
ああ、と、興味なさそうにうなずいて、アルデバランは、取り出した短刀の切れ味を試すように、指先で刃を触ってみたり、爪の先をちょっと刃先に当ててみたり、熱心に調べながら答えた。
「指南番なんて頼まなくていいよ。 この短刀だったら、俺、教わらなくたって使えるもの」
「そういうわけにゃいかねえよ、野菜を刻むんじゃないんだぜ。 その短刀を剣みたいにかっこよく構えて、かっこいい立ち回りをして、相手の肝をつぶしてやるんだからさ」
「そんなこと、いくら教わったって俺にはできないって! いいから、この短刀は俺の好きなように使わせて!」
そう言うとアルデバランは、短刀を鞘におさめ、大事そうに懐に突っ込んで、アルクトゥールスに満面の笑みを向けた。
「それじゃ、兄ちゃん、俺、ちょっと出かけてくるよ。 昨日カペラがまた、ロゼットさまのお屋敷で、大量に野菜の注文を引き受けてきたんだ。 みんな張り切っちゃって、朝早くからラムの畑の手伝いに行ってるから、俺も行ってくる。 みんなにうんとおいしいもの作って食べさせてやるつもりだから、今日は帰りが遅くなるかも。 ・・・兄ちゃん、短刀ありがとう! さっそく使わせてもらうね!」
嬉しそうにそう言うと、アルデバランは、一目散に表へ飛び出して行った。
なんか変だなあ、とアルクトゥールスはちょっと首をかしげ、元気よく走り去っていくアルデバランの後姿を見送った。
しかたなく、アルクトゥールスは一人でゾーハルの酒場へ出かけて行った。
アンタレスは、いつものテーブルで、いつものように酒を飲んでいたが、アルクトゥールスを見ると、ちょっと笑って言った。
「アルクトゥールス、どうした? 昨日、弟に話をしてくれとか言っていたが、連れてこなかったところを見ると、話はうまくまとまったんだな? ちゃんとした指南役をつけてやることに決めたか?」
アルクトゥールスはがりがりと頭をかき、カウンターの中のゾーハルに酒を注文すると、アンタレスの前の席に腰を下ろした。
「それがさ・・・あいつの考えてることはさっぱりわからねえんだよな」