突然ですが、ファンタジー小説、始めちゃいました

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2011.02.14
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 遠くでかすかにアルデバランの笑い声がしたような気がして、アルクトゥールスが、はっと飛び起きたのは、もう昼過ぎのことだった。
 あわてて部屋の中を見回したが、アルデバランが帰った様子はなく、今聞こえたと思ったのも空耳だったようだ。
 アルクトゥールスはため息をついて顔をこすりまわし、それから、枕もとの煙草に手を伸ばした。 そういえば昨日の朝もちょうどこんなふうに、アルデバランとカペラの笑い声で目を覚ましたのだった。
 煙草の先に火をつけて、アルクトゥールスはまたしばらくぼんやりしていたが、やがて、はっと気がついて毛布をはねのけた。

 そうだ! カペラだ! どうして今まで思い出さなかったんだろう! 昨日アルデバランは何と言っていた? あの菓子を作った職人の弟子になりたいからカペラに話をつけてくれと頼んだ、と言っていたじゃないか! だったらアルデバランはきっと、その菓子職人のところへ行ったんだ! 決して、行くあてもなくろくでなしの仲間の家になんか転がり込んだんじゃない。 ちゃんと行先が決まっていたのだ。 そいつのところへ弟子入りするつもりだったから、だから余分な金なんか必要なかったんだ!

 それに気がつくとアルクトゥールスは、昨日から着ているよれよれの服をおおいそぎで着替え、髪の毛をいい加減になでつけながら表に飛び出した。

 表に飛び出すと、カペラが勤めているというお邸をさがしに、バルドーラ居住区のお邸街に直行した。
 大きなお邸ばかりが立ち並ぶ閑静な街並みをうろつきながら、時々すれ違う、品の良い、召使いと思われるパピトに出会うとそれを呼び止め、カペラという使用人の働いているお邸を知らないかとたずねてみた。 が、そういうパピトたちは皆、眉をひそめてアルクトゥールスの風体を胡散臭げにじろじろ眺め回しながら、さあ、存じませんね、と首を横に振るばかりだった。 それはいかにも気取った、冷たい言い方だったが、嘘をついている様子ではなかった。 きっと、こういう取り澄ました召使いたちは、よその家の召使いと親しく言葉を交わすようなことはしないものなのだろう。 
 そこで今度は一軒一軒のお邸を訪ね歩いて、出てきた使用人に、ここでカペラというやつが働いていないかと聞いて回った。 が、こういうお邸の使用人たちはどういうわけか皆、反応が鈍くて、一緒に働いているはずの同僚の名前を知らなかったり、あるいは疑い深げに黙りこんでしまったりするので、結局、はかばかしい結果の得られぬまま日は暮れてしまったのだった。 


 かすかな希望にすがりつく思いで家に戻ったが、やはりアルデバランは帰っていなかった。
 次第に闇の深くなっていく、とり散らかった部屋の中で一人ぼんやり座っていると、アルデバランのいなくなったことがひしひしと胸に迫ってきた。
 こんな夕暮れ時、アルクトゥールスがこんなふうに一人でぽつねんと座り込んでいたことはいまだかつて一度もない。 この時間はいつも、アルデバランが台所でことこと音を立てながら、あたたかいス-プやこんがり焼けていくパンの匂いに包まれて、今日会った友達のだれかれの話や、天気がどうとかで畑の作物がどうしたとか、そんな他愛もないおしゃべりをするのを聞くともなく聞いて、心安らぐひとときを過ごしていたのだ。

 また、どこかでアルデバランの声が聞こえたような気がして、アルクトゥールスは頭を振り、のろのろと立ち上がって台所へ行った。
 台所で水を飲むと、急に腹がグーグー鳴り出した。 考えてみたら今日はまる一日、飲まず食わずでアルデバランを探し回っていたのだ。 食欲はなかったが、なにか食べなければいけない、と思った。
 調理台の上に転がっていた生のにんじんを、がりがりとかじって食べた。

 不意に、涙があふれてきた。

 こんな、心の底まで冷たくなるような貧しい食事の味を、俺は、長い間忘れていた。 それは、アルデバランがいつも必ず、俺のために、あたたかい食事を用意していてくれたからだ。 もしアルデバランが、ああいうあたたかい心づくしの食事を、俺だけでなく、他のさびしいパピトたちにも分け与えてやりたいと考えていたのだとしたら? アルデバランにとって、料理人になるとはそういうことだったのだとしたら? それを、話もろくに聞こうとせず頭ごなしに反対した俺を、あいつは一体どう感じたことだろう!

 しなびたかじりかけのにんじんを両手につかんだまま、アルクトゥールスは、声を殺してすすり泣き始めた。





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最終更新日  2011.02.14 20:10:46
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